近世大坂の家・町・住民
乾 宏巳著
本書は、著者が長年取り組んできた近世大坂の都市史研究の成果に今回新たな研究を加えて、体系的に書きおろされたものである。宗旨人別帳など諸史料を駆使して、日常から非日常まで多様なレベルの変化を総合的に読みとろうとする着実な研究姿勢から、京都とは異なる独自の都市的発展をした近世の大坂のありようが叙述されている。


著者の関連書籍
乾 宏巳著・近世都市住民の研究


乾 宏巳著・水戸藩天保改革と豪農


ISBN4-7924-0521-1 (2002.6) A5 判 上製本 420頁 本体8800円
■本書の構成
第一章 十七世紀の町人社会   第一節 家の形成(家の動向)/第二節 町方騒動と丁中共同体の成立(町の動向)/第三節 町人橋の建設をめぐって(住民の動向)
第二章 十八世紀前半の町人社会   第一節 家の自立(家の動向)/第二節 初期町式目の論理(町の動向)/第三節 訴願運動をめぐって(住民の動向)
第三章 十八世紀後半の町人社会   第一節 家の継承(家の動向)/第二節 住環境の整備をめざして(町の動向)/第三節 都市打ちこわしをめぐって(住民の動向)
第四章 十九世紀前半の町人社会   第一節 家の存続(家の動向)/第二節 家業と町内繁盛をめざして(町の動向)/第三節 祭り行事への町ぐるみ参加をめぐって(住民の動向)
第五章 幕末・維新期の町人社会   第一節 家社会の成立(家の動向)/第二節 丁中共同体の解体(町の動向)/第三節 家の存続をめぐって(住民の動向)

『近世大坂の家・町・住民』の刊行に寄せて
愛媛大学法文学部教授 内田九州男
 乾宏巳先生の『近世人坂の家・町・住民』が刊行される。本書は乾大坂論の集大成である。乾先生は、一九七四年(昭和四九年)に大阪教育大学に赴任されて以来、実に精力的に大坂についての研究を発表されてきた。今回のこの著書に直接かかわっている論考だけでも一二編ある。私が近世大坂に関する論文を書き始めたのは、一九八二年(昭和五七年)であったが、それ以来乾先生の発表される論考はいつも参照させていただいており、当時それぞれ大いに啓発されると共に、様々な思いを抱いたものである。しかし、今回のこの著作では、そうした旧稿はそのままでは姿を現さず、その一部は、今回採用された独白の時期区分=章立てに基づいて分割配分してあるようだ。
 今回の『近世大坂の家・町・住民』は、第一章一七世紀の町人社会、第二章一八世紀前半の町人社会、第三章一八世紀後半の町人社会、第四章一九世紀前半の町人社会、第五章幕末維新期の町人社会、といった世紀による時期区分(幕末維新期を除く)を用いた章立てになっている点に大きな特微がある。また各章は、第一節家の動向、第二節町の動向、第三節住民の動向と節の構成が統一されている。なかなか意欲的な構成であることが読みとれよう。
 ところで、乾先生の大坂研究の基軸は、菊屋町の宗旨人別帳による町人社会(家・町内)の動向分析にある。今回は、それをべースにして、個別町の動向、個別町を越えた都市住民の動向(訴願運動、打ちこわし、地域行事参加等)分析が加えられて組み立てられているのである。近世大坂の町人社会は、三井・住友・鴻池等の豪商から、場末の町の裏借家人まで、様々な階層をその中に含んでいる。こうした家の動向のとらえ方は、大きな問題提起であり、大いに議論を呼ぶところであろう。また今回採用された時期区分もしかりである。
 いずれにせよ、本書で乾先生の大坂論が示されて、大きな刺激を大坂研究と近世都市研究にあたえることは問違いない。
近世都市大坂の体系的研究
甲子園大学人間文化学部助教授 中川すがね
 『近世大坂の家・町・住民』は、おもしろい本である。どこがおもしろいかというと、大坂に住む人々の多彩なありかたを想像するヒントを与えてくれるところである。もちろん本書は真摯な学術書であり、読みとりには想像力が必要であるが、あちこちで町人の具体的ありかたが多面的に描かれており、都市というものは人問が作りだしていくものだという原点に私たちを立ち戻らせてくれる。
 本書は、乾宏巳先生が長年取り組んでこられた近世大坂の都市史研究の成果に今回新たな研究を加えて、体系的に書きおろされたものである。乾先生はかつて『なにわ大坂菊屋町』(柳原書店、一九七七年)という著作において、大坂島之内菊屋町をめぐる家の動向や諸事件を描いた。私も学生時代にこの本を楽しく読んだが、その後研究生活に入ってからも度々取り出した。大坂を理解する上での様々なヒントがちりばめられていたからである。『近世大坂の家・町・住民』の出発点の一つは明らかにこの本にあり、乾先生の宗旨人別帳など諸史料を駆使して、日常から非日常まで多様なレベルの変化を総合的に読みとろうとする着実な研究姿勢は変わっていない。本書では、前作のヒントが解釈にまで高められており、大坂が時問軸のなかで「変化」の視点において叙述されている。そこには、京都とは異なる独白の都市的展開がある。
 本書の題名が端的にあらわしているように、様々な経緯を経て大坂にやってきた人々は、やがて「家」を形成し家業に励み、「町」共同体を基盤に、真の都市「住民」となっていった。権力が築いた都市にあって住民が自らのありどころを作り出すには、長い年月が必要だったが、その原動力は日々の家業の営みであり、近世初期「町方騒動」や町人橋の修繕や訴願運動などのその時その時の取り組みだった。そうしたことが伝わってくる本書をおすすめしたい。