東西地図文化交渉史研究
海野一隆著
著者がこれまで発表した地図関係の論考のうち、東西両洋にまたがっての議論がなされているものを集めて一書とし、『東西地図文化交渉史研究』と題して出版する。学界の注目を集めた「明・清におけるマテオ・リッチ系世界図」や「湯若望および蒋友仁の世界図について」などの論考がまとめられている。


著者の関連書籍
海野一隆著・東洋地理学史研究 大陸篇


海野一隆著・東洋地理学史研究 日本篇

ISBN4-7924-0525-4 (2003.1) B5 判 上製本 750頁 本体20,000円
■本書の構成
東漸篇 T
『陝西四鎮図説』 所載西域図略について/明・清におけるマテオ・リッチ系世界図/耶蘇会士畢方済の世界図/湯若望および蒋友仁の世界図について
東漸篇 U
南蛮系世界図の系統分類/地球図をあしらった南蛮屏風/神宮文庫所蔵の南蛮系世界図と南洋カルタ/わが国におけるポルトラーノ海図の受容/「日本カルタ」の出現と停滞/深田正室の 「万国全図」 「準天儀」 「自鳴鐘」/正保刊 『万国総図』 の成立と流布/『万国世界異形図』 について/ファルク地球儀伝来の波紋/『天地二球用法国名』 考/桂川甫周の世界図について/司馬江漢と地図/『咼蘭新訳地球全図』 における参照資料/漂流民津太夫らの帰国と地図の伝来/『寛政暦書』 所載天地両球儀図
西漸篇 T
バーロス 『アジア十巻書』 所引のシナ刊コスモグラフィアなるものについて/一六、一七世紀における西洋製地図上の朝鮮/地図における砂漠記号の起源/西洋地図学史上のチアマイ湖/〔資料紹介〕東洋文庫所蔵マルチーニ 『新シナ図帳』 四種/〔余論〕エスカランテの漢字
西漸篇 U
西洋製初期日本図の系統分類/西洋地図学史におけるガスタルディ型日本の登場/シーボルトと 『日本辺界略図』

二一世紀初頭を飾る金字塔
関西大学名誉教授 有坂隆道
 海野氏が地理学史、ことに地図文化史に関する現在の第一人者であることは、いまさら言うまでもない。かつてわれわれの学生時代、海野氏は地理学を専攻し、私は日本史を専攻したが、以来半世紀を越えて学恩をこうむり続けてきた。いつも、氏の論文は、資料を丹念に探し集め、確実な論証を積み重ね、明確な結論を導き出される。このごろの怪しげな史的論文と称するものと同列に扱うべきものではない。しかも氏の論述には、後継研究者が資料収集や文献渉猟に苦労しないように、懇切な記載が整っている。氏の人柄を物語る誠実さである。氏が近年刊行された数冊のいわば短編集もなかなか好評を博したが、今回は本格的な論考二八編を収めた大著である。その著は、日本・東洋を主としながらも、広く東西にわたって論述を展開する。氏は先学が解明し残した謎を取り上げ、辿り着いた結果を書きとめた、単なる論集に過ぎないと言われるが、実に壮観である。しかも、発表以後の新資料を補って本文に加筆し、稿末に追記するなど、到達点を明示しておられる。二〇世紀の業績を誠実に総括し、研究者がこれを乗り越えることを熱望して、二一世紀初頭を飾る金字塔を樹立しておられる。
鬱然たる大著
京都大学名誉教授 織田武雄
 著者の海野氏は京都大学文学部入学以来、歴史地理学者として令名の高かった故室賀信夫博士から久しく懇切な指導を受けられ、また京都大学人文科学研究所の故森鹿三博士の下で中国地理学史を学ばれた。卒業後は大阪学藝大学、大阪大学に勤務され、その間は勿論、大阪大学退官後も地理学史の研究に没頭され、実に多数の論文を発表されている。
 本書は、そのうち著者の得意とする東西文化交流に関するものを選択し編纂され、七百頁を越える鬱然たる大著であり、ライフワークとみなされるものである。従って内容は極めて多岐にわたっているが、論点の二〜三を挙げてみると、近世初頭キリスト教布教のため来日の宣教師がもたらした世界地理知識に基づいて描かれた世界地図屏風、ほぼ同じ頃中国で活躍したマテオ・リッチその他の宣教師による漢字世界図、地中海で発達したポルトラーノ海図の日本での受容、ヨーロッパの地図に及ぼした中国図の影響としての地図上の砂漠の点状表現などが注目される。
 なお、海野氏は、ウィスコンシン大学のハーリ教授およびウッドワード教授の編纂した膨大な地図学史叢書の第二巻に英文で、ウィーンで出版された地図学史辞典にも独文で、日本地図史を詳細に紹介されているように、世界的に最も著名な日本を代表する地図学史研究者であることを付記しておきたい。
無上の喜び
東京大学大学院人文社会系研究科教授(東アジア思想文化・韓国朝鮮言語思想担当) 川原秀城
 海野一隆先生とは、七〇年代後半から九〇年代にかけて、京都大学人文科学研究所で開催されていた中国科学史の研究会で、毎週お目にかかった。先生がお座りになる席はいつも決まってわたしの斜め前であった。思い返せば、わたしは好んで、先生の近くに席をとっていたのかもしれない。先生の学風の飄々としながらも凛としたところにあこがれていたからである。
 先生のご研究は多岐にわたっているが、もっとも精力を注がれたのが地図に関する分析である。中国の地図学史、とりわけ地図の内容分析に限定すれば、日本には先生をおいて専門の研究者はいない。
 今回、先生は「これまで発表した地図関係の論考のうち、東西両洋にまたがっての議論がなされているものを集めて一書と」され、『東西地図文化交渉史研究』と題して出版された。学界の注目を集めた「明・清におけるマテオ・リッチ系世界図」や「湯若望および蒋友仁の世界図について」などの論考がまとめられ、簡単に手にとることができるようになり、東アジア科学史研究者の後進として、また先生のファンの一人として、これ以上の喜びはない。東アジア文化史や東西文化交流史に興味をもたれる諸氏にも、一読をおすすめするゆえんである。
有用にして傑出せる貢献
ポルトガル、コインブラ大学歴史学教授 アルフレド・ピニェーイロ・マルケス
〔『ポルトガルの日本地図―一六・一七世紀―』(一九九六年リスボン刊)の著者〕
 地図学の東西両洋間の関係についてのすぐれた専門家である海野一隆教授のこの新著出版の重要性は強調されなければならない。自国および世界中で広くその意義が認められている著者のこれまでの労作に続いて、この新著は大きくかつ包括的な学問、実に極めて重要な系統的科学的労作であり、日本の地図学史家による新しい決定的な貢献として将来確実に残るであろう。七〇〇を越える頁をもって相互の豊潤化、すなわち日本やシナにおけるポルトガルまたはオランダの地図学上の影響、ならびに一六、一七、一八世紀のヨーロッパ地図学における東洋の地理学的地図学的知識の拡大に捧げられており、多年海野教授の努力と科学的力量とによって豊かにされてきた分野である日本人・シナ人・朝鮮人・ポルトガル人・オランダ人など相互間における地図学的関係という魅惑的な分野に対して、これは疑いなく有用かつ傑出した貢献であるだろう。(海野訳)