近世農書「清良記」巻七の研究
永井義瑩著
現存する「清良記」巻七は、編輯によって成立したもので、その過程で「畊作事記」が大きく関与していた点を明らかにし、したがって「清良記」巻七に混在する戦国軍記と後から挿入改変された農書とを峻別するなど、多くの新知見を加えられた点は高く評価されるところである。本書の刊行は、今後「清良記」巻七の研究者にとって、必読書であり、この研究を志す者は、好むと好まざるとにかかわらず、本書の検討から歩を踏み出すことになるであろうし、農学・農業史などの多くの研究者に寄与することであろう。

ISBN4-7924-0530-0 (2003.3) A5 判 上製本 360頁 本体8800円
■本書の構成
第一章 『清良記』巻七の研究史 その展望と変遷
『史料通信叢誌』第二編(後)/菅菊太郎と瀧本誠一/『農業大辞典』と『日本人名大事典』/『社会経済史学』四国部会特輯号/平凡社『世界大百科事典』/『清良記』研究の新展開/『日本農書全書』「清良記」解題(1)/昭和五十五年以降の辞典の解説/小農技術体系の確立と農書の成立
第二章 『清良記』諸写本の所在とその背景
『清良記』写本の種類について/『清良記』諸写本について/『清良記』の筆写年次と飢饉の関係
第三章 『清良記』の構成と内容の疑問
『清良記』全巻の構成/軍記物『清良記』巻七の虚像/構成・内容の疑問箇所
第四章 『清良記』に関する諸文献と『畊作事記』の関連性
既知の文献(その一)/既知の文献(その二)/再発掘の『畊作事記』
第五章 『清良記』巻七の第一・四・八項目について
第一項目の編輯について/第四項目の土性区分について/第八項目「農無暇謂立之事」の解釈を中心にして
第六章 『五穀雑穀其外作物集』の構成と内容の疑問
『五穀雑穀其外作物集』と『清良記』巻七の関係/二年五作の作付体系か/「稲種」の呼称について/『五穀雑穀其外作物集』と『弌野截』の記載の相違点/中稲・晩稲の分類とその矛盾/『弌野截』における稲種の地域性
第七章 古堅田の解釈をめぐって
古堅田の文章/古堅田の既説と解釈/古堅田に対する聴き取り/一領具足と近代一領具足及び百姓壱廉/古堅田一反歩の農作業別労働はモデルケース/古堅田の地域性/古堅田と田地相応の稲種/古堅田と疑路の関係
第八章 宇和島・吉田両藩の藩政の成立
宇和島藩における検地の変遷/宇和島・吉田両藩における近世村落の成立
翻刻篇
畊作事記(第六「五穀雑穀其外作物集」/第七「親民鑑月集」/第八「土地弁談」/第九「耕作問答」/第十「耕作問答(老農問答)」)
研究者人名索引


  ◎ながい よしあき……1946年千葉県生まれ。大正大学文学部史学科卒業・東京農業大学大学院農学研究科博士課程単位取得。東京農業大学生物産業学部教授


「清良記」 巻七に対する新見解を結実
徳島文理大学教授・広島大学名誉教授 青野春水
 農学・農業史などの分野の研究者にとって、待望の研究書である『近世農書「清良記」巻七の研究』が、東京農業大学教授永井義瑩氏によって刊行された。慶賀に堪えない。
 「清良記」巻七は、「親民鑑月集」として知られ、これまでに多くの研究者によって研究されるとともに、佐藤信淵をはじめとする多くの人々によって利用されてきた。
 しかしながら、著者や成立年代の特定にはなかなか至らず――もちろん「清良記」巻七の研究史は、この二点を解明し、利用に供するべく努力してきた過程であったのであるが――したがって、利用するにも種々の限界があった。
 この種の研究の通例として、明快な結論を導きだすことは、なかなか出来にくいものであり、したがって或る種の覚悟と強固な意思のもとに、持続的な研究が必要となるが、そのような勇気は、なかなか持てないのも事実である。
 永井氏は、現今までの「清良記」巻七の研究をくまなく検討され、問題の所在を明らかにした上で、その一つ一つの解明に、多方面から総合的に考察を加え、現在到達し得る最高の成果を本書で示された。
 特に現存する「清良記」巻七は、編輯によって成立したもので、その過程で「畊作事記」が大きく関与していた点を明らかにされ、したがって「清良記」巻七に混在する戦国軍記と後から挿入改変された農書とを峻別されるなど、多くの新知見を加えられた点は高く評価されるところである。なお後学のために「畊作事記」を付している。
 本書の刊行は、今後「清良記」巻七の研究者にとって、必読書であり、この研究を志す者は、好むと好まざるとにかかわらず、本書の検討から歩を踏み出すことになるであろうし、農学・農業史などの多くの研究者に寄与することであろう。
定説を覆す労作
筑波大学教授 佐藤常雄
 本書は近世農書研究の大きな成果であるとともに、いかなる研究分野においても「常識や定説はまず疑ってかかるべし」という鉄則に裏づけられた歴史研究書の刊行である。
 農書は一般に前近代社会に著わされた農業技術書であり、世界史のなかでも農書という文化遺産を現在まで伝えている国々は必ずしも多くはなく、イギリス・フランス・ドイツなどの西ヨーロッパ諸国と東アジアの中国・朝鮮・日本だけである。それでは日本の農書はいかなる時代に成立したのであろうか。これまで日本最古の農書は『清良記』とされてきた。伊予国宇和島地方の戦国武将・土居清良の一代記を扱った軍記物の『清良記』巻七が、農業技術・経営・生活などを記述した農業技術書に相当し、我が国唯一の中世農書とみなされてきた。しかし、近年における永井義瑩氏の『清良記』巻七に関する一連の研究すなわち本書の刊行によって、日本農書は近世農書であると明確に位置づけられたのである。このことは『清良記』巻七という個別農書の研究成果にとどまらず、日本における中世と近世の歴史理解につらなる論点の提示にほかならない。
 近世農書のなかでも『清良記』巻七に論及した農書研究者が最も数多い。本書は『清良記』巻七の作者・成立年代という研究テーマに一貫してこだわって、諸先学の検討に始まり、『清良記』の諸写本、『清良記』巻七に深く関連する『畊作事記』、『清良記』巻七の編輯過程、古堅田の解釈、宇和島・吉田両藩の藩政などを詳細に分析し、『畊作事記』第六〜第十の翻刻篇を加えている。軍記物という限定された史料の現存状況のなかで、『清良記』および『清良記』巻七にかかわる関連史料の探査に専念し、綿密な史料批判を行ない、さらに藩政の展開や宇和島地方の地域史・農業史にも広く眼を向け、農書研究に不可欠な現地調査を踏まえている。本書は農書研究者はもちろんのこと歴史研究者にも是非とも一読をすすめたい労作である。
※上記のデータはいずれも本書刊行時のものです。