伏見の歴史と文化
京・伏見学叢書第1巻
聖母女学院短期大学伏見学研究会編
豊饒な歴史をもつ伏見地域の総合研究
伏見のあゆみ 三木善則/稲荷信仰の成立と展開の諸相 星宮智光/和歌から「深草」をよむ 久米直明/鳥羽離宮跡の発掘調査 鈴木久男/伏見キリシタン史蹟研究 三俣俊二/「名所図会」と伏見 宗政五十緒



京・伏見学叢書 第2巻
伏見の自然と環境


京・伏見学叢書 第3巻
伏見の現代と未来


ISBN4-7924-0537-8 (2003.4) A5 判 並製本 222頁 本体2800円
■本書の構成

伏見のあゆみ 三木善則
序 伏見のあゆみを知るには  伏見が海より陸地へ隆起した頃  縄文・弥生時代の頃  奈良時代の頃  平安時代の頃  室町時代の頃  安土・桃山時代の頃  江戸時代の頃 近代の伏見

稲荷信仰の成立と展開の諸相 星宮智光
はじめに  稲荷信仰の原初形態―雷神信仰―  稲荷信仰の諸相―御霊神・神使狐・験の杉―  稲荷社と藤森天王社の関係―「土地返しや」―  稲荷神と東寺―東寺の護法神としての稲荷神―  稲荷神と修験道の習合―托枳尼天信仰の流行―  稲荷社での熊野詣の護法付け―金剛童子信仰の盛行―  まとめ

和歌から「深草」をよむ 久米直明
深草と葬送  深草とサクラと紅葉  深草のウズラと浅茅原  深草とホトトギス  深草と擣衣  深草と竹・霧・雪  深草と露  深草野と深草の里

鳥羽離宮跡の発掘調査 鈴木久男
調査のあらまし  離宮の立地  離宮以前 離宮内の様子  一筋の運河  船が往来した池  庭を飾った石  各地から運び込まれた瓦  むすびにかえて

伏見キリシタン史蹟研究 三俣俊二
はじめに  鳥羽湊  伏見湊  教会跡 マルコ孫兵衛について 伏見における迫害と殉教  引き回し筋・晒し場  牢屋 処刑場  結び

「名所図会」と伏見 宗政五十緒
「名所図会」とは  御香宮  伏見船宿 深草団扇屋  むすび

新しい地域研究によって明らかにされた京・伏見のすがた
聖母女学院短期大学 伏見学研究会代表 久米直明
西尾信廣
星宮智光
 われわれ伏見学研究会は、伏見地域の総合研究を目指して「伏見学」を提唱し、聖母女学院短期大学にその講座を開いてきました。本書に収められている論稿は、その市民公開講座のなかの歴史と文化、宗教に関する講演を論文にまとめたものです。
 伏見は地理的に京都・大阪・奈良の三大古都を結ぶ交通上の要衝にあり、個性的な歴史を展開してきました。今でこそ京都や大阪の文化・経済の圧倒的な影響の下にありますが、歴史的に考察を加えてみると、伏見には独自の豊かな生活文化が蓄積されていることがわかります。今も伏見の人々の生活の深層で働く、このような独特の伝統文化・自然環境を正しく認識することによって、はじめて住民のよい福祉が実現されていくのだと考えられます。これこそ地域研究の効用であり、伏見学の存在理由も伏見に住む一人ひとりのよい福祉の実現にあります。
 収録された論文中、一の「伏見の歴史」は古代から近世の歴史を中心に、近代も簡潔に触れながらまとめられています。二は「稲荷信仰の成立と展開の諸相」について考察し、なぜもと雷神・農耕神であった稲荷神が全国に普及して最大の民間信仰にまで成長したかを、歴史的、また宗教現象学的に明らかにしています。三の「和歌から『深草』をよむ」においては、詠まれた和歌を通じて深草の自然を読み解くという手法を試みています。四の「鳥羽離宮跡の発掘調査」では、最近の考古学的発掘調査によって明らかとなった院政時代の中央政庁としての鳥羽離宮の実像が報告されています。五の「伏見キリシタン史蹟研究」では主にヨーロッパの資料によって、伏見におけるキリシタンの動向と弾圧のなかでの苦難が描かれています。六の「『名所図会』と伏見」では、江戸時代に発刊された『名所図絵』に描かれた伏見の風俗と人文について解説し、併せて絵図の読み方が説かれています。
 各論文を通読してみると、そこに伏見の古代・中世・近世の歩み、その文化・宗教の興味深い独特な展開を全体としてとらえることができます。ここには、地域研究による地方文化発掘の実績、中央文化に対する地方文化の独自性への創造的評価が見事に記述されていると思います。
 いま、小学校、中学校では総合学習としての生活科が重要科目とされています。その学習の内容には、当然地域学習が不可欠です。本書における伏見研究から地域の総合学習の方法と有効性について何ほどかのヒントを引き出し、生活科の授業構築、ひいては生涯学習のよすがとしていただければ幸いです。

※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。