如来教・一尊教団関係史料集成 全四巻

清文堂史料叢書第110112115117

神田秀雄・浅野美和子編


宗教史研究者の垂涎の的でありながら、門外不出にひとしかった如来教教祖きのをめぐる諸史料。そこには、現代人ではおもいもかけない豊かなコスモロジーが展開する。そして、今回の初の全面公刊により、1970年代以降特別な重要性を帯びてきた民衆宗教史研究の一環として、歴史学・宗教学・民俗学・人類学・女性史・社会史等のあらゆる分野に、本書は貴重な一石を投じている。


 



■第一巻■


第一部 信仰を求めた人々の群像
  御由緒―『
媹姾様御由緒書御写』『媹姾様御由緒略書』―(校註 神田秀雄 浅野美和子)
  
媹姾如来喜之・伝記断片(校註 神田秀雄 浅野美和子)
  雑誌『このたひ』所載記事抜粋(校註 神田秀雄)
  如来教団由緒及沿革概要(校註 神田秀雄)
  信仰に生る(校註 神田秀雄)
第二部 お経様(校註 神田秀雄 浅野美和子)
  『お経様』文化元年子〜同七年午
  『お経様』文化九年申
  『お経様』文化十年酉
〔第一部 信仰を求めた人々の群像〕註釈
  御由緒 註釈
  
媹姾如来喜之・伝記断片 註釈
〔第二部 お経様〕註釈
  『お経様』文化元年子〜同七年午 註釈
  『お経様』文化九年申 註釈
  『お経様』文化十年酉 註釈
第一巻 解説
  第一章 如来教の成立をめぐる民衆の意識と行動(神田秀雄)
  第二章 
媹姾如来喜之の生涯(一)(浅野美和子)
  第三章 本巻に収載した諸史料について(神田秀雄)


ISBN4-7924-0540-8 C3321

(2003.8)

A5

上製本

694

本体18,000

 



■第二巻■


第二部 『お経様』(つづき)
文化十一年戌〜同十三年子(前半)
〔第二部 お経様〕註釈(第二巻収載分)
第二巻 解説
 第一章 近世後期における地域民衆の生活世界―その展開と創造性―(神田秀雄)
 第二章 
媹姾如来喜之の生涯(二)(浅野美和子)

ISBN4-7924-0560-2 C3321

(2004.12)

A5

上製本

684

本体18,000

 



■第三巻■


第二部 お経様(つづき)(校註 神田秀雄・浅野美和子)
  『お経様』文化十三年子(後半)〜文政三年辰(前半)
〔第二部 お経様〕註釈(第三巻収載分)
第三巻 解説
 第一章 生活世界の変動をめぐる諸願とコスモロジーの噴出(神田秀雄)
 第二章 魔道概念形象化とその系譜(浅野美和子)


ISBN4-7924-0604-8 C3321

(2006.5)

A5

上製本

718

本体20,000

 



■第四巻■


第二部 お経様(つづき)(校註 神田秀雄・浅野美和子)
  『お経様』文政三年辰(後半)・文政四年巳〜同九年戌・年月日不詳
第三部 教祖の談話と書翰の記録
第四部 指導者たちの書翰・談話・著述など
第五部 その他の近代史料
〔第二部 お経様〕註釈(第四巻収載分)・〔第三部 教祖の談話と書翰の記録〕注釈
第四巻 解説
 第一章 日本の近世社会と如来教(神田秀雄)
 第二章 如来教神話の形成とその経緯(浅野美和子)

 第三章 如来教における近代教団の形成(神田秀雄)
 第四章 『お経様』の言語的側面から(武井直紀)

  別冊その1 索引
  別冊その2 史料目録・諸表

ISBN4-7924-0675-2 C3321

(2009.6)

A5

上製本

1010

本体28,500

 

個別教団の史料としてのみならず、多くの隣接分野にも貢献

一橋大学名誉教授 安丸良夫

 一九七〇年代以降、民衆史や社会史が多くの研究者の関心を集めてきたが、こうした動向のなかでも民衆宗教史研究には特別の重要性があった。民衆宗教の史料は、その教祖の神がかりという特殊な媒介を通して、そのような媒介がなければけっして子細に記録されることがなかったはずの民衆の生活世界についての、もっとも良質の情報源だからである。
 尾張藩の家臣や名古屋の商人などを信者としていた如来教のばあい、教祖喜之の言葉が「御綴り連」によって記録されて、それが厖大な「お経様」として残されており、民衆宗教の史料のなかでもとりわけ注目すべき内容をもっていた。このことは、日本近代民衆宗教史研究の開拓者といってよい村上重良氏によってすでになにほどかは明らかにされてきていたのではあるが、しかし如来教関係の史料の本格的な調査と体系的な分析は、本史料集の二人の編者の長年の努力によってはじめて達成されたものである。
 如来教の教えは、その教祖喜之が貧しく苛酷な生活体験をテコとして創造したものであって、その教えを丹念にたどると、今日の私たちにとっては思いもかけないようなゆたかな諸観念を跡づけることができる。そこには、近世後期の社会で多くの民衆が生活のなかで直面していた問題の具体相と、そのなかからの人々の経験に即した形での普遍的なもの、規範的なものの新たな創造が顕著なのである。しかしそうはいっても、如来教関係の文献の多くは、いくつもの理由で本史料集が刊行されるまでは、一般にはほとんど近づきがたいものであった。
 一九七〇年代以降の研究状況のなかでは、民衆宗教は歴史学、宗教学、民俗学、人類学、ジェンダー史など、さまざまなディシプリンの交錯する場で研究され、言語史の資料などともされてきた。本史料集は、克明な翻刻に適切な注釈・解説を付して、如来教の基本文献に私たちが近づくことを可能にした画期的なもので、個別教団の研究史料として重要であるのみならず、多くの隣接分野での研究の進展に大きな貢献となるはずのものである。

 

生活世界とコスモロジーの深層

東京大学教授 島薗 進

 如来教の教祖、一尊如来きの(媹姾如来喜之)をめぐって残された史料は宗教史研究者にとって超一級の価値をもつものであるが、これまで参観が容易でなかった。きのが信徒たちに語り聞かせた言葉を記録した『お経様』の一部は公刊されているが、残りの多くは写本を見る他なかった。全編の公刊が長く待望されていたものである。きのの生涯とこの宗教運動の由来をつづった『御由緒』などの資料も、初めてつぶさに参観できる形となった。きのをめぐる信仰集団の残した痕跡が、ほの暗い資料庫の隅から、白日の下へと引き出され、歴史に向き合う多くの人々を魅了し、悩ませる準備が整ったと言ってよいだろう。
 周到な資料の調査発掘、編集校訂作業を進めてきた神田秀雄氏と浅野美和子氏の業績はこの分野の研究者にはよく知られている。神田氏の『如来教の思想と信仰』(天理大学おやさと研究所、一九九〇年)と浅野氏の『女教祖の誕生』(藤原書店、二〇〇一年)はともに本書に収められる史料を丁寧に読み込んで書かれた労作で、十八世紀末から十九世紀初めにかけての時期の日本の宗教史の理解にとって、とりわけ民衆の生活の中に生きる宗教の姿を理解する上で、きわめて重要な意義をもつ好著である。そこには近世の人々が、その中で日々を生きた濃密なコスモロジー空間と、痛みや悲しみ、また希望や感動の生活経験の世界が浮き彫りにされていた。
 きののコスモロジカルな表象・思念群はまことに豊かである。牛頭天王や金毘羅などの神仏習合的な神性の現れ、日蓮や親鸞の教学の民衆生活の中での適用、釈迦・如来・後世(よい所)・地獄、三界万霊の救済と死霊の運命についての表象、世の終わりをめぐる思念、そして強烈な「心直し」のメッセージ等々。イエに生まれ死に「先祖となる」ことが規範化される時代に、家族に恵まれず孤独な一生をたどった、きのという女性の生涯が示唆するものも大きい。きのに従った人々の心の軌跡もかなりの程度、たどることができる手掛かりがある。きのをめぐる信仰集団のたたずまいはもちろん、当時の諸信仰集団や、他のさまざまな絆についてうかがい知れることも少なくない。言語を初めとして、この時期の日常生活の諸側面についての貴重な史料としての価値も付け加えなくてはならない。
 宗教史のみならず、思想史や女性史や社会史に関心をもつ諸方面の方々にとって、見逃せぬ史料集の刊行を心から喜び、言祝ぎたい。