東洋地理学史研究 大陸篇
海野一隆著
主に中国・朝鮮半島をテーマとした論考を収録


著者の関連書籍
海野一隆著・東西地図文化交渉史研究


海野一隆著・東洋地理学史研究 日本篇


ISBN4-7924-0541-6 (2004.2) B5 判 上製本 386頁 本体12,000円
■本書の構成
第一部
古代漢民族の地理的世界観
世界区分説としての四主説
崑崙四水説の地理思想史的考察
漢民族の地理思想―特にその地勢観について―
漢民族社会における歴史地図の変遷
絵画としての地図 ―漢民族の地図観―
地図学的見地よりする馬王堆出土地図の検討
漢代の翰海
揚子江と洋子江
『天下郡国利病書』所載地図について
〔資料紹介〕在鎮江宋代石刻『禹迹図』観覧記

第二部
朝鮮地図学の特色
天理図書館所蔵大明国図について
デストムブ氏紹介のパリ国立図書館所蔵のシナ図について
朝鮮李朝時代に流行した地図帳
李朝朝鮮における地図と道教

第三部
〔展望〕インド地図学史に関するシルカルとフィリモアの労作
〔展望〕東洋地図学史
〔学界消息〕マテオ・リッチ、マルチーノ・マルチーニを記念しての三つの国際会議

■CONTENTS
Part T
The Geographical Conception of the World of the Ancient Chinese People
A Theory of the ‘Four Kings' as a Geographical Idea of the Division of the World
The Four Rivers in the Legend of Mt. K‘un-lun in the History of Geographical Thought: In Comparison with Similar Buddhist and Christian Legends
The Geographical Thought of the Chinese People: With Special Reference to Ideas of Terrestrial Features
Changes in the Historical Cartography of Chinese Society
Maps as Pictures: The Chinese View of Maps
Cartographical Research on the Maps Discovered at Ma-wang-tui
‘Han-hai' (翰海) in the Han Dynasty
Yang-tzu-chiang (揚子江) and Yang-tzu-chiang (洋子江)
Maps in the T‘ien-hsia chun-kuo li-ping shu
Materials: Some Observations on the Yu-chi-t‘u (Map of China) Engraved on a Stone at Che^n-chiang in 1142; Supplement: The Existence of the Huang-ch‘ao chiu-yu shou-ling t‘u (Map of China) Engraved on a Stone in 1121

Part U
Some Characteristics of Korean Cartography
A Korean Map of China Owned by the Tenri Central Library
About a Manuscript Map of China in the Bibliothe`que Nationale, Paris, Introduced to the World by Monsieur M. Destombes
Atlases Circulated during the Yi Dynasty of Korea: With Special Reference to the Map Collection in the Tenri Central Library
Maps in Yi-Dynasty Korea and Taoism

Part V
Perspective: D. C. Sircar's and R. H. Phillimore's Works on the History of Indian Cartography
Perspective: A Bibliographical Review of the History of Asian Cartography from the End of the Second World War
Note on Eastern Studies Abroad: Three International Congresses in Commemoration of Matteo Ricci and Martino Martini

広い視野
関西大学教授、日本道教学会元会長 坂出祥伸
 海野一隆先生から推薦の言葉を書くようにとのお手紙を頂き、先ずその目次に目を通したとき、ある種の感慨を禁じえなかった。というのは、収録されている論文のいくつかが私にとって因縁浅からぬものであったからである。
 第一は「漢民族の地理思想」、これは、近年でこそ市民権を得るようになった風水研究にとって、必読の文献である。次に「李朝朝鮮における地図と道教」、これは昭和五十五年の日本道教学会大会における口頭発表であり、その少し前、全相運『韓国科学技術史』の日本語訳のお手伝いをしたこともあって、私は深い関心をもって聞いた。
 三番目は「朝鮮地図学の特色」、薮内清先生と韓国・誠信女子大学校の全相運先生の発議で始まった日韓科学史セミナーの第二回会議が、昭和五十八年五月京大会館で開催された時、その事務方を勤めた私は海野先生にも、発表をお願いしたのであるが、この論文がその時のものである。また、かつて京大人文研におられた山田慶児先生が馬王堆漢墓出土文献の共同研究を開始された時、海野先生は、帛書地図について発表され、私も拝聴させて頂いたが、この研究を越えるものはまだ現れていない。
 このように本書には、今なお高い水準として評価の変わらない多くの論文が収録されていて、先生の研究が展望できるという点で大変ありがたい。今、大学改革が進んでいるなかで、研究者はより広い視野で問題を見る必要に迫られているのであるが、本書は格好の刺激剤となると信じて、多くの方々にお勧めしたい。
比類ない喜び
韓国科学技術翰林院元老会員、誠信女子大学校前総長『韓国科学技術史』(一九七八年、東京、高麗書林)の著者 全 相運
 海野教授は東洋地理学史の世界的権威であり、八〇歳を越えた今でも研究に余念がない。わたしは一九七〇年代から薮内清スクールの科学史研究会で毎週お会いした。韓国の東アジア科学史研究者と京都学派の東洋地理学史学者との出会いであった。
 それ以来、海野教授はわたしの尊敬する学者のひとりとなった。静かでおだやかな印象とは違って、その学問の世界と文章は厳しくて鋭い。そしてそのなかにユーモアがある。人柄が滲み出ているとわたしは思っている。一九八五年の『ちずのしわ』と二〇〇一年の『ちずのこしかた』にも、それがよく現れている。
 本書は、その「うんの」教授が著した「研究」であり、老学者の学問の総決算とも言える大著である。それはまさに東洋地理学史の決定版である。韓国の朝鮮王朝時代における地図に関する論文(第二部)は、韓国地理学史研究の頂点である。
 わたしのような東アジア科学史家にとって、本書の出現は比類ない喜びである。(原文)
横溢する探求心と好奇心
北海道大学大学院文学研究科教授(中国文学担当) 武田雅哉
 孫悟空や猪八戒と一緒に天竺に行くときに、現代の世界地図を手にしていては、きっと道に迷ってしまうだろう。古代の小説や詩を鑑賞する際には、その時代の人間が抱いていた「世界のかたち」を共有する努力を、怠ってはならない。
 私は、地理学や地図学についてはずぶの素人だ。だが、そんな門外漢でも容易に理解できる日本語で、最高かつ最新の研究成果を提供して下さるのが、海野先生の一連のお仕事である。先生が地図学における世界的な権威であること、言うを俟たないが、実は今でも、ハッとするような問題を提示しては、地図学の新分野を開拓されている。われわれ若い研究者は、今もって探求心と好奇心の横溢する先生の文章に少しはショックを受けてもよいのではないだろうか。また先生のご論考は、先行研究に対する敬意、注の付け方や図版の扱い方など、ものを学び、論述する者が心得ておかねばならない最低限のマナーをも、厳しく教えて下さるものだ。
 先生はすでに多くの啓蒙書を刊行されており、それらは中国文学を学ぶ学徒にとっても座右に置くべき書となっているが、今またアジアの地理思想について一冊の論文集がまとめられることになったのは、なによりも、ただいまの学生たちにとって、大変嬉しいことである。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。