日本中世社会と寺院
大石雅章著


従来の鎌倉新仏教と旧仏教との二元的対立という中世仏教史の枠組みを見直し、中世を通じて宗教勢力の実態とその変容を解明する。諸事象を全体的視角のなかで捉えた本書により中世寺院史研究の到達点が指し示されている。第一部では南都西大寺と律衆をあつかい、第二部は仏教や寺院について、葬礼や女性をテーマに社会史的視点から検討する。


ISBN4-7924-0548-3 (2004.2) 品切
■本書の構成
  序
第一部 南都寺院と律衆
  中世大和の寺院と在地勢力−西大寺を中心として−
  中世西大寺の寺院組織について−律家と寺僧の役割を中心に−
  興福寺大乗院門跡と律宗寺院−とくに律宗寺院大安寺を通して−
  中世南都律宗寺院と七大寺祈祷
  悲人救済と聖朝安穏−律僧叡尊の宗教活動−
  中世顕密寺社と律衆
第二部 寺院と社会
  顕密体制内における禅・律・念仏の位置−王家の葬祭を通じて−
  葬礼にみる仏教儀礼化の発生と展開−王家の葬礼を中心にして−
  比丘尼御所と室町幕府−尼五山通玄寺を中心にして−
  尼の法華寺と僧の法華寺
  結 寺院と中世社会

中世寺院史研究の現在
大阪大学大学院文学研究科教授 平 雅行
 本書を通読してもっとも印象的なのは、中世寺院をめぐる諸事象を、全体的視角のなかで捉えようとする姿勢が終始貫かれていることである。視野の広さとバランスのよさ、これが本書の特徴である。
 たとえば中世律宗について、旧仏教(顕密仏教)との異質性を過剰なまでに強調する見解もあるが、大石氏は中世南都の寺院勢力内部に律衆が構造的に組み込まれている様相を丹念に跡づけている。そして西大寺・大安寺・薬師寺・法華寺における律僧と寺僧(旧仏教僧)との併存構造を明らかにしながら、現存の西大寺文書では寺僧方文書が散佚し、法隆寺文書では律衆方文書が失われてあることに注意を喚起している。
 歴史学における実証とは、現存する史料だけを相手にすればよいのではない。消え去った文書群、抹消された史料群にも、十全な配慮が必要だ。大石氏の実証が信頼にたるのは、こうした配慮が隅々にまで行き届いているからだ。
 古代から中世後期までを視野に入れながら葬送儀礼の仏教化の画期を明らかにした好論、比丘尼御所と室町幕府との関係を浮き彫りにした画期的業績など、本書に収められた諸論考は、全体的視角をつねに意識しつづける大石氏ならではの作品といってよい。中世寺院史研究の到達点を指し示す本書は、寺院史のみならず、禅律僧・女性史・葬送儀礼に関心をもつ人々にとって必読の書である。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。