尾張藩社会の総合研究 《第二篇》
岸野俊彦編
「尾張藩社会」の概念から日本近世史を解明する


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ISBN4-7924-0550-5 (2004.3) A5 判 上製本 414頁 本体8800円
■本書の構成

序 章 「尾張藩社会」研究と本書の課題

第一部 幕藩社会と尾張藩社会

第一章 尾張藩における幕藩間交渉と城附・「取持」 白根孝胤(徳川林政史研究所研究員・中央大学非常勤講師)
第二章 天保年間の尾張藩と交代寄合高木家  西田真樹(桜花学園大学人文学部教授)
第三章 美濃旗本坪内一族の内紛と尾張徳川家  鈴木重喜(正眼短期大学禅・人間学科助教授)
第四章 尾張藩と水野氏  高木傭太郎(日本福祉大学・東邦学園大学等非常勤講師)
第五章 尾張藩大坂調達金と大坂天満屋敷  後藤真一(愛知県史調査協力員)
第六章 尾張藩領有下の近江八幡町調達金について  山中雅子(名城大学・鈴鹿国際大学非常勤講師)

第二部 尾張藩社会と尾張・美濃・信濃

第七章 名古屋城下商人の新田経営−水口屋伝兵衛家を事例にして−  石田泰弘(佐織町教育委員会学芸員)
第八章 裏木曽三ケ村の人参栽培と尾張藩社会  杉村啓治(岐阜県多治見市立小泉小学校長・山村研究会主宰)
第九章 美濃国武儀郡神淵村豪農中嶋久隆の信仰世界  松田憲治(名古屋芸術大学教授)
第十章 信州問屋と尾張藩社会  林 淳一(名古屋市立北高等学校教諭)

第三部 尾張藩社会の文化展開

第十一章 寛政・享和期の名古屋・大坂文化交流−内田蘭渚と十時梅香E木村蒹葭堂の交流を中心に−  岸野俊彦(名古屋芸術大学教授)
第十二章 尾張における奏楽人の活動について  清水禎子(愛知県史編さん室嘱託)
第十三章 近世後期豪農層の文化展開と茶の湯−尾張国海西郡荷之上村服部弥兵衛家にみる−  坪内淳仁(愛知大学大学院生)
第十四章 『尾張名所図会』の文化世界  安藤淑江(名古屋芸術大学助教授)

尾張藩で日本近世史を解明する総合研究へ
早稲田大学文学部教授 深谷克己
 本書の共同研究グループが、同名の第一編を刊行したのが二〇〇一年、それからわずか三年後に、ほとんど一五人のメンバーを入れかえることなく、第二編の本論集を完成させた。このグループは、藩領内の諸関係、外側の世界との諸関係を多角的動態的にとらえ、それらを総合するために「藩社会」という概念を用意し、各自の個別分析を進めている。
 地域社会研究は近年の近世史の大きな流れだが、藩を地域社会として対象化することは主流になっていない。しかし藩の研究が盛り上がってきていることは確かで、幕領小藩錯綜地帯でも、非領国とするのではなく、藩の存在と意味を考えようとする動きが出てきている。私も、尾張藩のグループとは良き相互批判の関係にある岡山藩研究会のメンバーである。そうしたなかで、岸野氏らの尾張藩研究の成果は格段である。本書の第三・四編刊行も予告している。近世史で地域社会研究を行う場合、有効な方法の一つであり史料のまとまりでも良い対象になるのが藩であることを、本書の研究グループが証明している。
 尾張藩は大藩であるから、おそらく共同研究のメンバーは「藩社会」概念を用いた結集によって個々の視界が大きく拡張されたことであろう。個別分析の寄せ集めにおわらせないためには、このようなハブ概念が必要である。この研究メンバーは、論集を重ねる中で、「尾張藩を」広く深く究明する総合研究から、「尾張藩で」広く深く日本近世史を解明する総合研究へと、歩を進めることが期待される。
示唆に富む「尾張藩社会」研究
関西大学文学部教授 藪田 貫
 一九六〇年に宮本又次編『藩社会の研究』が出ている。尼崎藩や旗本能勢氏も見えるが、薩摩・佐賀・福岡といった九州の大藩中心の論集であることは明白である。そこで編者は江戸時代の国制を天下と国家に分け、「国家意思の結晶は藩単位でのみなされ、天下の意思は間接にしか国家に及び得ない」と説き、さらに「関東や近畿の非領国地帯は天下のものになっていた」と述べている。前年に出た安岡重明著『日本封建経済政策史論』が、畿内非領国を提起したことを想起すれば、この二つの作品は一対のものであると言えよう。
 このような見方に対し、私たちは、畿内を藩社会としてみる見方を提起し、「大坂諸藩研究会」を組織している。天下と国家、畿内・大坂・経済と畿外(たとえば九州)・諸藩・政治という二項対立を超えたいのである。
 こう考えたとき『尾張藩社会の総合研究』は、示唆に富む。そこでは藩を完結的に捉えず、開かれた体系として捉えようとする視点が強調されている。空間的・領域的に、階層的・身分的に、政治から経済・文化に、それぞれに開かれた社会として藩を捉えようとしている。その視点は、十五編の論文の構成にたしかに現れている。尾張藩を通して、近世社会を捉えようとする視点が、「尾張藩社会」という言葉に込められている。六〇万石の尾張藩に対し、家老の石高にすら及ばない一万石余のゴマメの如き小藩が集る大坂周辺。「藩社会とは何か」――それぞれに提起して議論したい課題である。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。