伏見の自然と環境
京・伏見学叢書第2巻
聖母女学院短期大学伏見学研究会編




自然を生かす、自然に学ぶ ―伏見のまちづくりの基本と提案― 久米直明
はじめに  まちづくりの基本  伏見の特徴と問題点  伏見の将来像  おわりに

京都盆地周辺の地震考古学―伏見地震を中心に― 寒川 旭
はじめに  地球と地震と考古学  伏見地震の記録  伏見地震の痕跡  伏見地震をひきおこした活断層  京都の地震  二一世紀に発生する超大型地震  まとめ

稲荷山と京都盆地―地形・地盤の成り立ちを訪ねて― 武蔵野實
稲荷山へ登る  京都の土台作り―古代の海の時代―  川と海の時代  京都盆地の形成

竹の生態と竹文化 渡辺政俊
竹の生態  竹文化  伏見の竹

巨椋池干拓地周辺に生息する野鳥 西台律子
巨椋池干拓地の歴史  巨椋池干拓地周辺の開発  巨椋池干拓地に特徴的な野鳥  宇治川河川敷のヨシ原  巨椋池干拓地周辺の生息環境の展望と今後の課題


京・伏見学叢書 第1巻
伏見の歴史と文化


京・伏見学叢書 第3巻
伏見の現代と未来


ISBN4-7924-0554-8 (2004.6) A5 判 並製本 228頁 本体2800円
歴史・文化をうみだした伏見の多様な自然
聖母女学院短期大学 伏見学研究会 久米直明
西尾信廣
星宮智光
 伏見の自然、と言えば『伏水』、すなわち、伏見の酒を産みだすもととなった地下水があまりにも有名である。有名に過ぎてそれしかないように思われがちであるうえ、伏見に暮らす人々にも、それ以外の自然について思いを馳せることが少なくなっているのではないかと、実は心の中で憂慮している。
 伏見の自然の特徴をひとことで言えば、その多様性であろう。『伏水』もそのひとコマであるが、所詮、ひとコマに過ぎない。鴨川、桂川、宇治川、山科川、七瀬川などの自然河川や、高瀬川、琵琶湖疏水、濠川などの人工河川、ついこの間まで大きな面積を誇った巨椋池や横大路沼、といった表面水もまた、伏見を彩る自然であろう。それだけでなく、地形的には、高塚山・醍醐山と続く山岳信仰の行場であった峻険な山々、稲荷山・大岩山・桃山とつづくなだらかな京都東山から伸びる尾根、それらの山麓に拡がる扇状地形、河川の氾濫原である冲積平野、山地と平地の境界を生みだした活断層、と、きわめて多様である。さらにそれらの地形を産みだすもととなった地質と、それに適応したさまざまな植生ならびにそこに息づく多くの種類の動物たちもまた、大都市近郊には珍しくはなはだ多彩であることを、この巻の幾多の記述からうかがうことができる。
 この巻では「伏見の自然と環境」と題しながら、伏見の自然環境の豊かさを単に記載し賞賛するのではなく、それがどのように伏見の歴史や文化と関わってきたのか、それをどう人々の暮らしや社会に生かしてゆくのか、にも言及している。自然はその地域の歴史や文化と深いかかわりをもっているが、きらびやかな歴史や芸術の香り豊かな文化だけではなく、その根底に、自然環境から恵みを受けまたそれに翻弄されてきた人々の暮らしとその中で育まれて来た知恵や工夫があったはずである。そのことに思いを馳せ、そのありように肉薄することもまた、「伏見学」の大きな使命ではないかと思う。この観点から、叢書の各巻は独立したテーマを持ちながら、互いに深くクロスオーバーしている。          (「あとがき」より抜粋)

※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。