中世寺院と「悪党」
山陰加春夫著


本書の構成

第T部 中世寺院の成立
第一章 中世『寺院縁起』の案出と「新史実」化―讃岐国善通寺の場合―
新刊紹介@ 頼富本宏・白木利幸著『日文研叢書23 四国遍路の研究』
第二章 中世高野山の成立―『御室御所高野山参籠日記』を主たる素材として―
新刊紹介A 矢野建彦・日野西眞定著『高野山四季の祈り―伝灯の年中行事』

第U部 中世寺院と「悪党」
第三章 鎌倉末期の社会変動と天野社・高野山
第四章 中世寺院と「悪党」―高野山金剛峯寺の場合―
第五章 「高野合戦」攷―鎌倉末期政治史の一齣―
第六章 正文を押領人に渡した話―紀伊国南部荘の事例―
新刊紹介B 根来寺文化研究所編『根来寺の歴史と美術』

第V部 寺領荘園の再編
第七章 室町初期における荘園の再編―金剛峯寺領紀伊国官省符荘の場合―
史料紹介 室町時代初期の高野枡について
第八章 鞆淵八幡神社の中世文書―「歩付帳」の歴史的位置―
書評 鞆淵荘の調査と報告書



 著者の関連書籍
 山陰加春夫著 新編 中世高野山史の研究

 山陰加春夫編 きのくに荘園の世界 上・下



ISBN4-7924-0608-0 C3021 (2006.6) A5 判 上製本 340頁 本体7800円
待望の二冊目  鎌倉末・南北朝の悪党をめぐる政治史の解明
東京学芸大学教授 木村茂光
 本書は、長年高野山領荘園の研究を続けてきた高野山大学教授山陰加春夫氏の二冊目の著書である。前著『中世高野山史の研究』(清文堂、一九九七年)で、それまでの高野山史研究を大きく飛躍させた著者が、本書では、「悪党」を真正面に据えて、鎌倉末・南北朝期の公武権力の動向と高野山領荘園の特質に鋭く迫っている。
 本書は、「中世寺院の成立」「中世寺院と「悪党」」「寺領荘園の再編」の三部から構成されており、書名にもとられた「中世寺院と「悪党」」(第四章)や「室町時代初期の高野枡について」(第V部史料紹介)など興味深い論考も所収されているが、やはり本書の圧巻は、鎌倉末期の悪党問題を公・武連携の「悪党召し捕りの構造」という政治史の視点から解明した第五章「「高野合戦」攷」と、高野山独特の支配形態である「分田支配」を本格的に再検討し、高野山領荘園の再編問題の本質に迫った第七章「室町初期における荘園の再編」であろう。この二つの論考は、高野山領研究や悪党研究にとどまらず、今後の鎌倉末期政治史研究と中世後期の荘園制研究にとって必読の文献になることは間違いない。
 この二編はもとより、本書全体を通じて著者ならではの手堅い実証と目配りの利いた論旨が展開されており、高野山領研究、悪党研究に携わる研究者にとっては、まさに待望の書といえよう。是非、多くの方々にご一読いただき、最高水準の研究成果をご堪能いただきたい。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。