大阪伝承地誌集成
三善貞司編著


大阪の記憶  大阪府域に伝わる奇談・寺社縁起・芸能・遺跡遺物・人物など万般にわたる伝承と地誌を半世紀の年月をかけて採録した、
三五七五項目を収録する。超大作。


『大阪伝承地誌集成』の利用にあたって
 ○読み物としても楽しめるよう、なるべく会話体の表記を用いた。
 ○広汎な読者の理解を得るため、現在通用の大阪弁を多用した。
 ○扱う時代は神代から明治時代を主とし、現代の話も混入する。
 ○扱う地域は大阪府域で現状の行政区域に分けて排列した。大阪市域のみは区別に分けた。
 ○地域不明の話は、別項をたてて二箇所(大阪市とそれ以外)にまとめた。
 ○収録した項目総計三、五七五話には、編著者によりタイトルが付けられている。
 ○多種多様な伝承地誌の集成であるため、その項の内容を五十二の分野に分類し、目次に掲げた。
 ○目次に掲げた分類項目の内訳は、左の通り。
  仇討ち 池井・泉・堤 遺跡・遺物 営業 鬼・天狗 絵画・彫刻 街道・坂 怪物・化物 河川・滝 合戦 河童 歌謡・詩歌 岩石 起源・語源 奇談魚貝類 教育 橋梁 行政 行事・神事 芸能 交通 古木 狐狸 災害 寺社縁起 集落 住宅・建物 書物 笑話 植物 食物 神仏 人物 スポーツ 世事・事件 船舶 俗語・俗習 地名 虫類 鳥類 道具・器物 動物 墓・碑・塚 犯罪 病気 名物・名器 薬品 山・丘 遊戯 竜蛇 霊験
 ○索引は、寺社名、人名、地名、事件などを中心に、それぞれの伝承地誌の内容を表徴する文言を見出し語とした。索引の項目は、四、五九一を掲げる。
 ○本書へのアプローチとして、まず第一は、適当に開いたところから読む。第二として、目次のタイトルを眺めて興味を持たれた箇所を開く。第三に、目次の分類項目の「仇討ち」「狐狸」などから入る。第四として、巻末の索引をチェックし、魅力ある文言から本文へ当るなど、さまざまなプロセスを楽しむことができる。



『大阪伝承地誌集成』の編成
 凡例       三頁
 目次      六〇頁
 本文   一、三七八頁
 あとがき     四頁
 参考依拠文献   三頁
 索引      五七頁


  ◎みよしていじ……元府立池田校高等学校教諭・堺女子短期大学ほか元講師


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   目次見本(PDFファイル)




 著者の関連書籍
 三善貞司編 大阪人物辞典

 三善貞司編 大阪史蹟辞典
 



ISBN978-4-7924-0647-9 C0521 (2008.5)
菊判 上製本 1506頁 本体18,000円
大阪研究者の系譜
近江晴子 大阪天満宮文化研究所研究員  
 このたび、三善貞司先生の御著作、『大阪伝承地誌集成』が清文堂出版株式会社より上梓されましたことをお慶び申し上げます。
 三善先生の『大阪伝承地誌集成』を手に取り、わがふるさとの町々の伝承を読み始めましたら、あっという間に読みふけってしまいました。「おんごく」や「本町のまがり」の項を読んでは、明治三十年代生まれの父母が話してくれたなつかしい語り口を思い出しました。父は「本町のまがりにガタロが出てな、ガタロはカワウソやで。カワウソはよぉ見た」とウソかホントかわからん話を。母は「夕方になったらコオモリがいっぱい飛んでたわ。道修町の店の庭にはオンビキが住んでてなぁ」などと。マメダやイタチやカワウソやコオモリやオンビキといっしょに暮らしていた大阪の町の風景が目に浮かびます。
 読み進むうち、府立池田高校教諭として勤務されながら、大阪府下全域にわたって、これだけの伝承・伝統を蒐集され、ついに『大阪史蹟辞典』『大阪人物辞典』『大阪伝承地誌集成』の三部作を完成された三善先生は、やはり江戸時代以来大阪に輩出した町人学者の血をひいておられると実感いたしました。本書を前にして、まず、思い浮かべましたのが、『大阪府全志』を著した井上正雄と『訪碑録』をまとめた木村敬二郎です。井上は、公務を辞して史料の蒐集に没頭し、大阪のために貴重な地誌を残しました。木村は、造り酒屋の主人としての本業の傍ら、膨大な墓碑の拓本をとり、碑文を記録しました。雑誌『上方』を編集出版した南木芳太郎、もっと近くは『大阪平野の生い立ち』を見事に解き明かした梶山彦太郎、など多くの人々が町人学者の系譜をひいておられます。
 大阪で育ち、大阪に育てられ、大阪を愛し、大阪に愛された人々が、成し遂げることができる大阪研究。三善先生はまさしくそういう大阪研究者です。
 

文化遺産学の大先達 三善貞司さん
高橋隆博 関西大学 なにわ・大阪文化遺産学研究センター長  
 平成十七年に設立した「関西大学なにわ大阪文化遺産学研究センター」(文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業)の初めてのフォーラム「大阪と沖縄の文化遺産」で、琉球大学の先生が「第二次世界大戦で沖縄から何が失われたのかがわからない、それが口惜しい」と話され、あらためて沖縄の悲痛の深さを知り、鋭く重たい衝撃が全身を貫いた。大阪もまた、すでに喪失し、あるいは途絶しつつある「もの」と「こと」があまりにも多く、暗然とした気分に陥る。よるべき自治体史といえども、もとより歴史事象と文化遺産のすべてを網羅しているわけではない。「困ったときの氏神さん」ではないが、そんな時は、三善貞司さんの『大阪史蹟辞典』(昭和六十一年刊)と『大阪人物辞典』(平成12年刊)が頼みの綱となる。
 このたび、三善さんは前二著に続いて、伝説や奇談・風説・巷説などを採録した『大阪伝承地誌集成』を上梓された。「汗水垂らして、ほんまもん見てこなあかんねん」という現地踏査主義者の三善さんの周倒な取材は、大阪府下全域におよび、ただただ驚愕するほかない。この貴重な労作は、ふるさと大阪を愛すればこその、三善さんの無私の執念と渾身の情熱によって紡ぎ出されたもので、随所に大阪弁を挿入するなど、行き届いた文章によって見事に大阪文化を浮き彫りされている。市民の方がたや研究者は無論のこと、インターネットに頼る若者にこそお薦めしたい。必ずや欣喜雀躍して現地に足を運ばせずにはおかないだろう。
 三善貞司さんという、文化遺産学の大先達をいただいていることが、「なにわ大阪文化」の誇りである。

 
大阪知識人の心意気とエスプリ
橋爪節也 大阪大学総合学術博物館教授・大学院文学研究科(兼任)  
 大阪は文化の香気ただよう、懐の深い都市であった。いつからだろう、外観は華やかでも、文化的な深さが失せて薄っぺらになっていったのは…。
 『大阪人物辞典』『大阪史蹟辞典』と続いて、大阪コレクションの一大偉観≠ニ呼びたくなる三善貞司氏の三部作が、今回の『大阪伝承地誌集成』で完結する。最新の一冊に凝縮されているのは伝説や民話、巷説など、ジャンルも内容も多種多様で、時代や地域を越えて語り伝えられてきた「物語」である。いや、三作に共通することだが、氏の関心は、人と人とが織りなす「物語」へと熱くむかう。人間という可笑しくも悲しく、滑稽にして真摯な生き物の営みが結晶した「物語」を、個人でこれほど膨大な点数、蒐集しえたのは、それを愉しむ歓びを知り、故郷大阪を愛する編者ならではと感嘆させられる。
 「物語」を検索することで、大阪の地域や文化研究に資するところも大きいが、それだけではなく、本書は一般の読み物としても面白い。千頁を越える「物語」の大海原を、気ままに漂流しながら読むうちに、現代が失った豊かさや芳醇な香気がただよいはじめ、「書物」に封印されていた大阪≠ニいう個性豊かな都市そのものが、眼前に立ちあらわれてくるのである。エネルギッシュに大阪≠堪能できる。
 その意味で本書は、文芸をはじめ美術や音楽、舞台芸術などのアーチストにとっても、創作のヒントとなる材料の宝庫になるだろう。さらに最近は都心回帰が進み、大阪都心部も外部からの流入によって人口が増えている。自分たちが住む土地にまつわる「物語」を再確認し、家族や学校で若い世代に語り伝えていくことは、地域に根付き、人生を豊かにする上でも重要である。
 大正末から昭和初期、大阪では「上方」「大阪叢書」「郷土趣味 大阪人」など滋味あふれる郷土研究誌や、基礎資料集成である『浪速叢書』が刊行された。それらを開くと、いまも江戸時代や近代の大阪の息吹に浸ることができる。こうした在野中心の知識人による出版の伝統があることも大阪の懐の深さだった。本書はまさに、近代の大阪知識人の心意気とエスプリを、現代に体現した刊行物なのである。

 
大阪の歴史の底力
南坊城充興 大阪府神社庁顧問・道明寺天満宮宮司  
 藤井寺市に鎮座する道明寺天満宮の氏地内に八島塚古墳がある。河内土師氏の長であり土師寺(後の道明寺)を建立した土師八島の塚と伝えられてきた。その壕より、昭和五十四年(一九七九)古代のトレーラー「修羅」が発掘された事は記憶に新しい。土師氏は古代の土木技術集団であり、この伝承は正しかった事が伺える好例である。伝承も大切な歴史であるが、軽視されてきた感が否めない。小生も一時、儀礼文化学会に属し、大阪の祭礼について、諸本よりの抄出を依頼された事があったが、本著があればと思い出される。また分類について云えば、当社のご祭神菅原道真公(八四五−九〇三)が、日本で初めて抄出法を使い六国史から『類聚国史』を編纂され、古代史研究の重要史料として学問発展に大いに寄与せられた事は論を俟たない。
 このたび、三善貞司先生ご自身が集大成と仰る本著が発刊される事となり、大阪を愛する一人として大変嬉しく思う。文化財行政が滞っている現状において、民間の研究者による大阪のすべてともいうべき大著は、失われていく大阪の歴史を留めて置くのみならず、今後の研究者にも本著は絶好のお手本となるだろう。大阪の歴史の底力をひとりでも多くの方に垣間見ていただければと願う。

 
大阪研究・畢生の三部作の完成
宮本又郎 関西学院大学教授・大阪大学名誉教授  
 今や大阪の歴史研究、大阪の地誌、民俗などに関心をもつ者にとって、『大阪史蹟辞典』『大阪人物辞典』(いずれも清文堂出版刊行)は必読、必見の文献である。この二つの大著を編纂・執筆された三善貞司先生がまたまた『大阪伝承地誌集成』と題する書物を上梓されることになった。
 前二書と同様に、文字通りの大労作である。著者が約半世紀にわたって個人で採集した大阪の伝説、民話、昔話、風説、逸話、奇談、稗史、口頭伝承が地域別に配列されて収められているが、その項目数はなんと三五七五項目、本文だけで一三七七頁に及ぶ。大阪の重要な伝承はほぼ洩れなく収録されたといってよかろう。このような偉業をお一人で成し遂げられたことに驚きを禁じ得ないが、さらに止目すべきは、これが単なる文献学の成果ではなく、著者の「足と手と目と耳」によって書かれたということである。
 三善先生は、大学・高校で国文学、それも主に古典を講ぜられた方であるが、もともと講義の素材収集として、文学遺跡探訪を取り入れられたのだという。古人の生涯の一部を追体験し、ロマンの生まれた舞台を歩き回ることで、古典の深層部分に触れることができるのではないかと考えられたのである。大阪府内を探索されて半世紀、次第に当初の文学遺跡や古人を探訪することを超えて、右記のような民間伝承一般の探索に拡がっていったのである。交通手段は電車・バス・自転車・徒歩のみ、愛用の古カメラとメモ帳が記録媒体。マイ・カー、デジカメ、ワープロ、インターネットなどの文明の利器とは無縁だったという。
 先生は「あとがき」で、「学問は自分で会得するものだ。よってこちらの道で聴いた説を、あっちの路上でもっともらしく喋りちらすのは、学問をする者の道ではない」との孔子の「道徳塗説」を引いて、本書は「道徳塗説」に過ぎないと謙遜されているが、決してそうではない。自らの足、自らの耳目で確認された地誌、伝承であるという意味で、自分で会得された学問だからだ。
 『大阪史蹟辞典』『大阪人物辞典』、そして今回の『大阪伝承地誌集成』は三善先生畢生の大阪研究三部作である。何人も今後、大阪研究を志す者はまずもってこの三部作にあたらなければならないし、またあたることになるだろう。著者も述べておられるように、本書にも不備があるかもしれないが、その補整を行うことが大阪研究の前進につながる。その意味で、三善先生の三部作はまさしく大阪研究のマイル・ストーンというべき業績である。
 三善先生は私の少年時代のクラス担任の先生であった。このような立派な先生に教えて頂いたことを誇りに思う。先生は「おそらく最後の著作」とお書きになっているが、益々壮健にて、大阪研究を続けられることをお願いしたい。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。