尾張藩社会と木曽川
杉本精宏著


尾張藩はどのように木曽川の舟運支配権などを拡張していき、やがて「木曽川は尾張川」といわれるようになっていったのか。木曽川を通じて尾張藩政と尾張藩社会の変化していく様子を活写する。


本書の構成

  序
第一章 尾張藩の木曽川支配
  はじめに/木曽山の木材伐採と輸送/第一次林政改革における木曽川/第二次林政改革における木曽川/おわりに

第二章 木曽川の年貢米輸送
  はじめに/上川筋よりの年貢米輸送/上川筋の舟運支配/下川筋の年貢米輸送/幕府による年貢米輸送/おわりに

第三章 尾張の穀物と美濃・伊勢
  はじめに/尾張からの穀物移出/天保の凶作時における食料事情/穀物の値段騰貴と民衆/穀物による尾張と美濃の繋がり/おわりに

第四章 木曽川舟運の発達
  はじめに/上川地域の舟運の発達/上川筋の塩問屋/美濃焼の輸送と野市場河岸の発展/下川筋の川石輸送/木曽川三湊(北方・円城寺・笠松)問屋の塩支配/下川筋の舟運と製油業/肥料の輸送/おわりに

第五章 木曽川の漁業
  はじめに/公儀献上鮎木曽川通り殺生場(漁場)/万石以上家臣石河氏の殺生場(漁場)/横井伊折介家の鷹場付殺生場(漁場)/おわりに

第六章 木曽川堤普請
  はじめに/宝暦治水と尾張への影響/天明二年の木曽川自普請/庄内川の冥加普請/再度の木曽川自普請/藩による木曽川堤普請/おわりに

結び
あとがき




 著者の関連書籍
 杉本精宏著  尾張藩財政と尾張藩社会



ISBN978-4-7924-0665-3 C0021 (2009.3) 四六判 上製本 286頁 本体2800円
近世木曽川流域住民から見た尾張藩社会
名古屋芸術大学教授 岸野俊彦  
 木曽川は、信州木曽からの木曽川と、飛騨高山からの飛騨川が、美濃で合流して、尾張と美濃の国境を流れ、伊勢湾に注ぐ大河である。多くの魚鳥類が生息し、その漁で生活する人々がいた。木曽や飛騨の材木は筏に組まれて流され、これを渡世とした人々がいた。種々の産物や年貢米、また塩や肥料などが船で川を上下した。また渡船が東海道と中山道を結んだ。川湊の問屋や船頭など物流にも多くの人が関わった。流域には、尾北の養蚕業、尾西の綿織物業、水車を利用した製油業等多様な産業も展開し、近世後期には、犬山城下町の外に、幾つかの在郷町もできた。木曽川は、多様な職種・階層の人々の生活を支えてきた。近世には尾張・美濃十二万石・信州木曽が尾張藩領となり、流域住民の多くは尾張藩支配の下に置かれた。本書はこの流域住民の実態と、尾張藩や幕府笠松代官所、流域の旗本との関わりや軋轢を詳細に明らかにしたものである。
 本書の著者杉本精宏さんは、木曽川河畔の愛知県江南市に生まれ育った。大学卒業後は、地元の小学校や中学校の教諭として、定年まで多くの児童・生徒と関わった。地域の歴史に関心を持った杉本さんは、教え子の家庭訪問を通じて、家族と対話を深め多くの近世史料を発掘し、コツコツと解読していった。流域住民の様々な生産・生活の姿が次第に明らかになり、この成果を『江南市史』や『木曽川町史』などに執筆した。定年後は、『愛知県史』尾西・尾北編の調査・執筆を担当し、さらに多くの史料を発掘し格闘を続けた。また、この間「尾張藩社会研究会」の主力メンバーとして、次々と研究報告をし、『尾張藩社会の総合研究』第一篇に「尾張藩領の養蚕地帯と絹織物」、三篇に「近世尾張の結城縞」、刊行予定の四篇には「尾張藩財政と尾張藩社会」を執筆している。
 本書はこうした研究の経緯の中で、「尾張藩社会と木曽川」に焦点を当てて執筆されたものである。本書の特徴は、「尾張藩社会」という枠組みを設定することで、木曽川流域住民の生活と藩政の矛盾、尾張藩と他領主との領主間矛盾、地域産業と消費地である江戸や上方との関係などが具体的に明らかにされていることである。「尾張藩社会研究」シリーズの重要な著作であるので、是非多くの皆さんに読んでいただきたいと思う。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。