近世近代の歴史と社会
安藤精一・高嶋雅明・天野雅敏編


日・英・米の三国にわたり、理念と政策、経済と社会、経営、市場の各方面の近世近代史研究に多様な新視角を提示する。


本書の構成

T 理念と政策
第一章 「領政改革」概念の提唱―近代日本国民国家形成史の一齣―……藤田貞一郎
  コラム 『安愚楽鍋』に見える「国益」建白談義
第二章 アメリカ国民経済の形成―「アメリカ体制」の理論と政策―……楠井敏朗

U 経済と社会
第一章 熊野地方の御仕入方役所と山村―口熊野を中心として―……笠原正夫
  コラム 豊臣・徳川政権と熊野の木材
第二章 紀州藩付家老水野忠央と将軍継嗣問題……小山譽城
  コラム 「公純私録」に見る水野忠央の独立志向
第三章 都市的発展と地方財政―戦間期大阪府下の町村を中心として―……高嶋雅明
  コラム 市長が決まらない―市制町村制下の首長選挙―
第四章 石川県能美郡における同業組合と工業組合……竹内 庵
  コラム 小松織物同業組合の「業務成績」
第五章 青年会の成立と展開―和歌山県東牟婁郡古座川町の場合―……安藤精一
  コラム 若者組

V 経営
第一章 近江商人吉村儀兵衛家と酒造業……上村雅洋
  コラム 吉村儀兵衛家の店則
第二章 初代伊藤忠兵衛の対米貿易事業……宇佐美英機
  コラム 忘れられた「江商合資会社」
第三章 戦前における日本商社の豪州進出について―兼松商店と三井物産の事例を中心にして―……天野雅敏
  コラム 兼松房治郎の豪州視察
第四章 戦間期三井物産の外国石炭取引―台湾炭取引を中心に―……長廣利崇
  コラム 戦間期の日本石炭産業
第五章 鞄本貯金銀行の構成員……上川芳実
  コラム 一一代小西新右衛門・業茂

W 市場
第一章 ヴィクトリア時代の魚類の大衆的消費と魚市場―ロンドンを中心にして―……原田政美
  コラム 慈善事業と魚市場―コロンビア魚市場の開設―
第二章 昭和戦前期の大阪市における見本市・商品市……廣田 誠
  コラム 大阪市中央公会堂―昭和戦前期大阪の代表的見本市会場―




 編者の関連書籍
 安藤精一・藤田貞一郎編 市場と経営の歴史

 高嶋雅明著 企業勃興と地域経済



ISBN978-4-7924-0683-7 C3021 (2009.7) A5判 上製本 430頁 本体9500円
一国一地域から同時代の世界史像を描く書
広島大学大学院文学研究科教授 河西英通
 和歌山県の歴史といえば、誰しも本書の編者の一人、安藤精一氏を想起するであろう。近世史が氏のご専門であるが、それのみではない。近代史でも『士族授産史の研究』(清文堂出版、一九八八年)において、和歌山県をはじめとする全国各地の実態を分析されている。本書でも「青年会の成立と展開―和歌山県東牟婁郡古座川町の場合―」を執筆しているが、半世紀以上もさかのぼる一九五一年に発表した論文「後期封建社会と若者組」以来てがけてきた若者組・青年会研究の最新成果であるという。安藤氏の間口の広さと深さには驚くばかりであるが、その驚きは本書全体にもあてはまる。巻末の「安藤研究会の歩み」によれば、氏を中心とする研究会は今年二〇〇九年で一五四回を数え、本書は『市場と経営の歴史』(清文堂出版、一九九六年)に次ぐ、研究会の二冊目の論文集だという。各回の発表論題および本書所収の論文題目から、「安藤研究会」の楽しさと凄まじさが迫ってくる。
 本書は「T 理念と政策」「U 経済と社会」「V 経営」「W 市場」の四部から構成され、計一四本の論文が一八世紀後半から二〇世紀前半の時代と地域と人間をカバーし、書名の通り、『近世近代の歴史と社会』を多角的に描いている。しかし、本書の魅力でもあり、射程の深さを感じさせるのは、いわゆる「外国史」を二本収めている点である。国を二分した南北戦争をはさむ一九世紀のアメリカ史を、政策体系の展開としてトータルにとらえる視点は、明治維新をはさむ日本の近世と近代を一つの流れとして描くためのヒントであろう。また、ロンドンの魚市場の拡大過程の追跡からは、農業史的なアプローチとは異なるもう一つの近代史像、生活色にあふれる民衆史像をうかがうことができる。
 最近では一九世紀社会を一体的な時代として把握する歴史研究や、日本人研究者と外国人研究者による共同論文集の刊行が見られるが、本書はいわゆる「日本史」研究と「外国史」研究を並存させることで、同時代史という意味でのワールドヒストリーを冒険的に構想・展開しているかのようである。一国一地域の歴史はグローバルな地球の上で、さまざまな関係性を生み出しながら、一つの時代史を共同で支えていたことが見えてくる。