軍港都市史研究T 舞鶴編
坂根嘉弘編



刊行にあたって

軍港都市史研究会
 軍港都市史研究シリーズでは、軍港都市をめぐる様々な問題を、軍港を支えた地域社会の視点から、学際的に研究することを目的としている。その意味では、本シリーズは、いわゆる軍事史研究を目的とするものではなく、軍事的視点を踏まえつつも、より幅広い視点から、軍港都市を総合的に研究することを目的としている。軍港都市史研究は、従来の軍事史研究や近代都市史研究では、本格的に取り上げられなかった分野である。近年、「軍隊と地域」をめぐっては、陸軍の軍都に関する研究が先行しているが、本シリーズではかかる研究状況に対して、海軍の軍都(鎮守府・要港部が置かれた港湾地域)の本格的研究をすすめていくことをめざしている。加えて、本シリーズにおける様々な研究の積み重ねにより、軍港都市という近代都市・現代都市の一つの類型が浮き彫りになることを念じている。
 本シリーズの研究対象地域は、鎮守府が置かれた横須賀、呉、佐世保、舞鶴の四軍港を中心に、要港部が置かれた大湊、竹敷などの諸地域である。これらの地域は、明治以来、鎮守府・要港部の設置により、短期間に急激な変化をこうむった地域であり、戦後は海上自衛隊地方隊やその関連施設が置かれている地域である。これらの地域は、共通の問題をもっていると同時に、各地域独特の問題も抱え込んでいる。本シリーズでは、それぞれの軍港都市の分析とともに、軍港都市間の比較分析も課題としている。それらの課題を達成するため、軍港別の巻と課題別の巻という構成をとった。

 本シリーズは、軍港都市史研究会の研究成果として刊行される。本シリーズの完結に向け、皆様のご支援・ご鞭撻を賜れば幸甚である。




第T巻 舞鶴編の構成

序 章 軍港都市と地域社会……
広島大学 坂根嘉弘
  コラム 地形図にみる舞鶴軍港……山神達也
第一章 日露戦後の舞鶴鎮守府と舞鶴港……
大阪大学 飯塚一幸
  コラム 舞鶴鎮守府と東郷平八郎……飯塚一幸
第二章 舞鶴軍港と地域経済の変容……坂根嘉弘
  コラム 軍港都市には軍人市長が多いか……坂根嘉弘
第三章 軍事拠点と鉄道ネットワーク……
神戸女子大学 松下孝昭
      ―舞鶴線の敷設を中心として―
  コラム 舞鶴要塞と舞鶴要塞司令官……坂根嘉弘
第四章 「引揚のまち」の記憶……
京都府立大学 上杉和央
  コラム 「引揚のまち」の現在……上杉和央
第五章 近代以降の舞鶴の人口……
立命館大学 山神達也
  コラム 旧加佐郡における市町村合併……山神達也
第六章 舞鶴の財政・地域経済と海上自衛隊………
鳥取大学 筒井一伸
  コラム 「海軍」・「海上自衛隊」と舞鶴の地域ブランド戦略……筒井一伸


ISBN978-4-7924-0693-6 C3321 (2010.1) A5判 上製本 426頁 現在、品切中です。

「軍港都市」という新たな都市類型の提示

國學院大學文学部教授 上山和雄
 興味深い、近代都市の新しい類型が付け加えられつつある。都市史と軍事史研究の深まりの中で、両者が融合しつつ陸軍が拠点を置く都市史研究が進展していたが、それに加え、「軍港都市」という近代都市のもう一つの、新しい類型が明らかにされようとしている。

 「軍港」とは、鎮守府あるいは要港部が設置されていた港湾都市、すなわち横須賀・呉・佐世保・舞鶴・大湊(要港)を指す。鎮守府がおかれていた四市が「軍港都市連絡協議会」を組織していたこと、さらに現在も海上自衛隊地方隊がおかれている四市が、「旧軍港市振興協議会」を組織していることを知っている人は多くないであろう。

 筆者は、数年前から横須賀市史編さんに従事することになり、横須賀の歴史を勉強しはじめた。軍港というのは、共通する多くの側面を有している。ありふれた小さな漁村に海軍施設が建設されることにより、その漁村だけでなく、周辺を巻き込んだ大きな変化が進んでゆく。鎮守府と隷下部隊のみでなく、大規模な官営工場である海軍工廠、陸軍の要塞なども設置されて人口増加がはじまり、軍施設とそれを支える地域の維持のために、鉄道や道路、水道などのインフラ整備が急速に進む。ところが官営工場であるため、税収が少なく、他都市以上に財政難に悩まされ、軍港都市は連携して政府からの援助を引き出すために努力したのである。

 本書は、四軍港市の中では、もっとも新しく、また規模も小さい舞鶴を対象としているが、原稿を拝見すると、人口増加と財政難、軍の影響の大きさなど、抱える基本的な問題は横須賀と同種である。しかし舞鶴の特殊性も盛り込まれている。舞鶴港開港問題や「引揚のまち」の記憶などは舞鶴ならではである。さらに戦後の舞鶴と海上自衛隊の関係、自衛隊も含めた海軍を戦略的に活用しようとしている舞鶴市の動向を記している第六章も大変興味深い。

 各章末に付されているコラム(地形図・東郷平八郎・地域ブランド戦略など)は読みごたえもあり、内容も興味深い。このシリーズが完結することを祈りたい。 


 
■軍港都市史研究 全巻構成


既刊
第U巻 景観編〈上杉和央編〉
本編では、地図や空中写真、統計資料を駆使しつつ、軍港都市(横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊)の景観変遷をたどると同時に、近代から現代におよぶ軍港都市の空間的な諸様相、軍港都市の景観の行方に焦点をあてる。

第V巻 呉編〈河西英通編〉
本編では、「呉市から海軍を差し引いたら、何も残らない」(獅子文六『海軍随筆』)と言われた呉の地域社会の実相を多面的に描くとともに、軍港都市呉を中心とした瀬戸内空間がどのような歴史性をはらんでいたのか検討する。

第W巻 横須賀編〈上山和雄編〉
日本海軍で最初に設置された鎮守府を有し、呉と並ぶ最有力の軍港都市であった横須賀市、すなわち軍港都市研究の「本丸」に対し、各執筆者が横須賀の軍港都市としての共通性とその固有の性格を明らかにするという問題意識を共有しつつ、しかし、多様な角度から切り込んだ意欲的な集団研究。

第Y巻 要港部編〈坂根嘉弘編〉
まず要港や要港部の変遷と事例を説明し、ついで各章で大湊、竹敷、旅順、鎮海、馬公が扱われる。もう一つの特色は、関東州、朝鮮、台湾という外地に所在した要港が、軍港と植民地都市の二重性ゆえ持った特色が描かれていることである。

第Z巻 国内・海外軍港編〈大豆生田稔編〉
本書は軍港都市史研究の最終巻で、各軍港都市の諸問題を取扱う「補遺」に位置づけられる。国内軍港編は、「海軍工廠の工場長の地位」、「海軍の災害対応」、「海軍志願兵制度」、「軍港都市財政」をテーマにした四編の論文であり、海外軍港編は仏・独・露三国の代表的軍港であるブレスト軍港・キール軍港・セヴァストポリ軍港の専門的通史である。


続刊
第X巻 佐世保編〈北澤 満編〉


 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。