日本人の一生 上・下
初心者のための宗教民俗学入門
吉田 清著



日本人の生命観がいかなるものだったのかを考察する宗教民俗学入門。上巻では誕生から死までの循環を論じ、日本人と生活文化の関係を解き明かす。下巻では女性の民俗学、生と死の歴史民俗といったテーマから、渾沌とした現代日本人を見つめ直す。


■本書の構成

上巻
  はしがき
  序論
  第一章 民俗学の方法
  第二章 誕生
  第三章 子供の世界
  第四章 青春の時代
  第五章 人生の挽歌



下巻
  第六章 女性の民俗学
  第七章 生と死の歴史民俗――常世とタマシイの再生と循環
  第八章 各宗の「授戒会」と「伝法」
  第九章 カミとホトケ
  第十章 講と念仏芸能
  あとがき




上ISBN978-4-7924-0672-1 C0039
下ISBN978-4-7924-0673-8 C0039
(2009.11) 四六 判 上製本 上258頁・下290頁 本体各2600円
日本人の人生観の根底を説く
國學院大學文学部教授 小川直之
 吉田清師の『日本人の一生―初心者のための宗教民俗学入門―』は、上巻、下巻あわせると五〇〇頁を超える大冊である。民俗学の方法から始まり、誕生、子どもの世界、青春の時代、人生の挽歌、さらに女性の民俗学、生と死の歴史民俗、各宗の「授戒会」と「伝法」、カミとホトケ、講と念仏芸能を扱っている。
 大谷大学や龍谷大学での長い間の講義録などをもとに執筆されたもので、副題の通り、初めて民俗学を学ぶものにとっては、柳田国男、折口信夫、五來重など民俗学の泰斗の諸説が紹介されながら論述が進み、入門というにはふさわしい。しかし、そのふさわしさはこれだけではない。ごく最近出版された民俗学の書冊や論文までめくばりされている。著者の研究への弛みない姿勢のあらわれである。しかも本書では、的確な資料が使われ、学術研究のあり方が提示されている。読者にとっては読み進めるなかで、自ずと資料分析や研究法を学ぶことになる。説明的な概説書ではないのである。
 こうした点が副題の所以だろうが、学問的な特色は、著者の長年にわたる仏教民俗学や仏教史、仏教哲学の研究成果が基盤にあって、また民俗学のなかでも京都学派とでもいえる特色である文化史学の素養を兼ね備えた上での、「日本人の一生」である。日本人が人生の節目の儀礼として、あるいは人生のなかで体験する民俗について、伝承資料をもとに誕生から順序立て叙述し、その意味を分析するが、いずれもこうした習俗の歴史的深度が、『万葉集』や『古事記』、さらにさまざまな中世史料などによって裏付けられている。歴史民俗学の観点からは「初心者」の「入門」では済まない高度な内容となっている。私自身、こうした史料があったのかと、本書から教えられたことがいくつもある。
 仏教民俗や仏教史に対する知見は随所にちりばめられているが、特に各宗の「授戒会」と「伝法」を扱った章などは、従来の一般的な民俗学では論述し得なかったところで、著者の真骨頂である。こうした問題を本書に含めているのは、日本では「仏教は、カミ信仰と合体・習合」し、「日本の風土の中で育った民族宗教なのである」という、僧侶でもある著者の宗教哲学に基づいている。
 そして何よりも、この書は、日本人の一生は「イノチとタマシイ」そして「カミとホトケ」によって織りなされてきたと説くことで、日本人の人生観の根底にある思想を教えてくれる。