■寺社造営勧進 本願職の研究
豊島 修・木場明志編


中世後期に出現する寺社造営勧進を主な活動とする「本願」。事例をもとに、本願の組織的・宗教的個性を多面的に描くと共に、本願・組織体としての本願所をとらえなおし、その文化史的意義を明らかにする。


■本書の構成

  序 論
寺社造営勧進「本願」研究の現状と課題……豊島 修

  第一部 本願基本論
大規模な熊野三山本願所の展開……山本殖生
近江国多賀社本願の成立と展開……祐川恵理
縁起作成と本願 ―清水寺本願・成就院― ……鈴木善幸
祇園社本願の基礎的研究 ―本願とその組織― ……加藤基樹
津島社の社僧と勧進……石黒智教
箱根・伊豆山権現および三嶋社の本願組織について……高野弥和子

  第二部 本願特論
本願と修験道 ―願集団「熊野方」の場合― ……鈴木昭英
熊野本願と諸国定着の熊野比丘尼 ―備前国邑久郡下笠加村定着の比丘尼を中心として― ……根井 浄
杵築大社における本願の排斥……大谷めぐみ
近世木食遊行「聖」の宗教と実践…… ―正禅養阿の道路改修事業をめぐって― 平野寿則
本願寺造営・再建における勧縁募財調達システム……木場明志

  第三部 諸寺社本願概説
会津 虚空蔵堂 圓蔵寺(本願院)/信濃 善光寺(大勧進・大本願)/紀伊 高野山金剛峯寺(穀屋)/紀伊 紀三井寺(穀屋坊)/紀伊 粉河寺(十穀坊)/山城 清凉寺/山城 伏見稲荷大社(愛染寺)/山城 醍醐寺(上醍醐穀屋)/山城 松尾大社(本願所)/山城 東寺(本願所・穀屋)/河内 叡福寺(穀屋)/大和 長谷寺(本願院)/大和 金峯山寺(安室・穀屋)/大和 信貴山朝護孫子寺(本願坊)/大和 東大寺(龍松院)/安芸 厳島神社(大願寺)/土佐 金剛福寺(密蔵院)/豊前 宇佐神宮

  第四部 本願年表
本願関連年表




 編者の関連書籍
 熊野本願文書研究会編著 熊野本願所史料

 豊島修著 熊野信仰史研究と庶民信仰史



ISBN978-4-7924-0699-8 C3021  (2010.3) A5判 上製本 395頁 本体8500円
寺社再建をはたした本願の総合研究
慶応義塾大学名誉教授・日本山岳修験学会会長 宮家 準
 中世後期に戦乱などで崩壊した寺社を庶民にその信仰を唱導し、浄財を集めて再建に導いた勧進聖―本願・穀屋―の解明は、日本宗教史の重要な課題である。大谷大学では五来重教授が先鞭をつけられて以来、故佐々木孝正・鈴木昭英氏らによって、本研究が積極的になされてきた。その成果はすでに二〇〇三年に鈴木昭英・豊島修・根井浄・山本殖生氏らからなる熊野本願研究会から『熊野本願所史料』(清文堂出版)として刊行され、内外に大きな影響をもたらした。私もかつて本書に導かれて國學院大學のCOE研究の一端として、熊野・伊勢・金峰山の本願の報告書をまとめて見た。
 今般同研究会ではその後十年近くの共同研究の成果をもとに、豊島修・木場明志氏を編者として十二人余の共同執筆者から成る好書『寺社造営勧進 本願職の研究』を完成された。本書では、まず序論で豊島修氏がこれまでの本願研究史を年代別に整理され、近年、絵画史料や戦国大名との関わりを考慮した新しい視点が見られることを指摘する。その後に各執筆者による熊野、近江の多賀社、祇園、津島社、清水寺、杵築大社、伊豆・箱根・三島と主要な寺社の本願の研究論文が続く。これらは諸寺社の本願が守護大名などの助成も得て成立し、山内の機構を整えて展開するが、やがて近世期に各藩の寺社政策の影響で消滅する経緯が跡付けられている。また熊野本願、近江多賀社などに関しては比丘尼・修験者の在地の勧進活動が述べられている。
 そして最後に木場明志氏が、東本願寺がたびたびの焼失を、これらの本願の活動を攝取して、寺主が本願主として勧進帳にあたる「消息」をもとに信仰を呼びかけ、その意をうけた御堂衆が全国各地で勧募にあたって再建させた経緯を細かく分析されている。巻末には「諸寺社本願概説」として、高野山、伏見稲荷、金峯山寺、東大寺、善光寺、東寺など十六寺社の本願や穀屋の紹介と、十五世紀から十九世紀に至る本願関係の年表が付されて、便利である。
 このような内容の本書は勧進聖の研究者のみでなく、広く日本宗教史研究者さらに現在実際に唱導・勧募にあたっている宗教者にも示唆を与える好書として、広くおすゝめしたい。

 
新しい第一歩をしるす一冊  ―豊島修・木場明志編『寺社造営勧進 本願職の研究』―
奈良大学教授 下坂 守
 わが国の古い寺社のほとんどすべてに共通する歴史的な活動に「勧進」がある。貴賤から一紙一銭の寄附を求め続けた「勧進」活動なくして、中世・近世の激動の時代を乗り切れた寺社はないといっても過言ではない。そして、その意味でわが国の寺社の歴史と文化は「勧進」を抜きにしては語れないともいえる。
 このためこれまでも「勧進」とそれを行った本願(職)に関しては、民俗・歴史はもとより美術・芸能など諸分野からの研究が行われてきた。しかし、それら諸研究を統合・整理し、「勧進」と本願が果たした役割を問う作業はいまだ行われていない。というよりそれはあまりにも困難な作業であり、誰もがその前でたじろいでいたというのが実情であった。
 本書はそのような困難な作業に第一歩を踏み出した記念すべき論文集である。
 豊島修氏の序論(研究史の整理)に続く本論は四部から構成され、第一部の「本願基本論」、第二部の「本願特論」には、あわせて十一人の研究者の研究成果が収録される。そこでは熊野三山をはじめ多賀社、清水寺、祇園社、津島社など多くの寺社における本願の活動が丁寧に論じられている。いずれもが本願の活動を新たな視点から捉えなおそうとした意欲作であり、特に本願と為政者との関係や本願における修験道の問題などに独自の展開が著しい。
 第一・二部の研究論文とともに本書の大きな特色となっているのが、第三部の「諸寺社本願概説」と第四部の「本願年表」である。これによって第一・二部で取り上げられた諸寺社だけでなく、それ以外の多くの寺社における本願の概要と歴史を容易に理解できるようになったことは実に喜ばしい限りである。今後の「勧進」と本願の研究に欠かせない概説と年表といえる。
 わが国の歴史と文化を知る上で必見の一冊として本書を推薦するものである。