口承文芸研究のネットワーク
野村純一著作集 第九巻


口承文芸学を形成した知的連携の全容をしめす。著者のまなざしが読み取れる、全9巻の総合索引を付す。


●本書の構成●
口絵

第一篇 口承文芸研究のネットワーク
  
●総説―声を文字にするということ―
言葉と文字の相互補完/昔話の小宇宙―いま昔話を〔編む〕―
●先覚者たちの昔話集
体系化への身繕い―『日本民俗誌体系』全12巻の意義―/昔話の方法―佐々木喜善―/本涯の昔話採集者―江頭源次―/確然とした昔話研究の理念と方法―村岡浅夫『芸備昔話集』―/
柳田学の実践と継承―佐久間惇一『絵姿女房―越後の昔話―』―/県境をこえて―山本明『陸前伊具昔話集』―/丹念、執拗な蒐集―森脇太一『石見昔話集』―/特異な話型、特異な人―細川頼重―/“彦八話”と自在な笑い―井口宗平『西播磨昔話集』―
●佐藤義則―小国郷の聴き耳―
『ききみみ』の意図/佐藤義則前後/なぜかたくなに噤む―佐藤義則のこと―/詩人義則の夢と願望―『羽前小国昔話集』―/佐藤義則の目―清野久雄『庄内昔話集』―
●佐々木徳夫―仙台の聴き耳―
生活者の昔話研究―佐々木徳夫氏の仕事―/刻印された日々/集大成への祝辞/新たなる口承の世界へ
●大学研究会の昔話調査とその方法
ひたむきで不断の向学心―鈴木暹『伊豆昔話集』―/昔話研究の指標


第二篇 採訪実感:考えつつ歩み、歩みつつ考える

話の来た道/下北半島の昔話/遠野宮守村の昔話/岩手県南の昔話―『聴耳草紙』以遠―/仙北の昔話/由利の昔話/話の来た時機/酒田の口承文芸/置賜の昔話/相馬の昔話/岩船郡の昔話/阿賀野川上流の話/奥飛騨の昔話/東礪波の昔話/奥越の昔話/奥越の昔話によせて/奥能登の昔話/丹波の昔話/一人歩きの昔話集

第三篇 昔話集を読む

稲田浩二・福田晃編『蒜山盆地の昔話』/臼田甚五郎監修・國學院大學説話研究会編『津軽百話』/佐々木徳夫編・菅野新一校訂『むがす、むがす、あっとごぬ』/佐々木徳夫編『遠野の昔話』/佐々木徳夫編著『遠野の昔話―笹焼蕪四郎―』/吉川祐子著『遠野物語は生きている 白幡ミヨシの語り』/野添憲治『阿仁昔話集』/野添憲治『高堰祐治昔話集』―期待の一冊―/臼田甚五郎監修・武田正編『木小屋話―置賜の昔話―』/臼田甚五郎監修・石川純一郎編『河童火やろう』/臼田甚五郎監修・山本明編『鬼の子小綱』/臼田甚五郎監修・柾谷明編『金の瓜―上州・利根の昔話―』/柾谷明編『吾妻昔話集』/真鍋真理子編『越後黒姫の昔話』/山田左千夫著『方言で読む越後魚沼の昔咄』/國學院大學民俗文學研究會・國學院大學説話研究会『上川のおんな語り』―越後の昔話蘇生の途―/田中瑩一・酒井董美編『鼻きき甚兵衛』/細川頼重編『あめご八の話―祖谷山むかしばなし―』/ 比江島重孝編『塩吹き臼―宮崎の昔話』/荒木博之編『甑島の昔話』/県立鹿児島東高校民俗研究班『葛山民俗』第八号―川辺町の昔話―/『北の語り』に寄せて

第四篇 瓢箪の本棚―書評と紹介―

●昔話の理論と実践
臼田甚五郎著『昔話叙説』T・U・V/臼田甚五郎著『天人女房その他―昔話叙説V―』/武田正『日本昔話「語り」の研究』
●民俗の基層へ―信仰と神話―
五來重著『鬼むかし―昔話の世界―』/矢野憲一著『鮑』/矢野憲一著『枕』/筑土鈴寛著作集第一巻『宗教文学・復古と叙事詩』/M・パノフ 大林多良他著 大林太良 宇野公一郎訳『無文字民族の神話』/ロルフ・W・ブレードニヒ著『運命の女神 その説話と民間信仰』/金両基著『韓国神話』
●歌謡と芸能、そして漂泊
浅野建二著『わらべ唄風土記』(上)/浅野建二著『わらべ唄風土記』(下)/倉田隆延編『蒲江音頭口説集』/西角井正大著『祭礼と風流』/鈴木道子著『奥三河・花祭と神楽』/阿彦周宜編著『天楽丸口伝 遊芸の世間師』/阿部正路著『辺境漂泊の世界』
●「現在の事実」という「文学」
松谷みよ子『現代民話考』―「現在の事実」に戦慄する―/大森亮尚『悲のフォークロア』/相馬庸郎著『柳田国男と文学』/岩科小一郎著『山村滞在』/岩科小一郎著『山の民俗』/『愛知県現存若ぃ者文献集』・『薩摩士風健児社物語』解説/徳田和夫編『お伽草子事典』
●他文化・多文化へのまなざし
川田順造編『「未開」概念の再検討』1/『上井久義著作集』全七巻―民俗宗教の基層を問う―/福田晃・湧上元雄編『琉球文化と祭祀』/福田晃編『沖縄地方の民間文芸』/任東権著・熊谷治訳『韓国の民話』/里見実著『ラテンアメリカの新しい伝統―〈場の文化〉のために―』


【付 未刊稿】言わず、もがなのあとがき―立派な言葉―
  
  解説 野村純一の足跡、ここにあり……石井正己
  解題 つながりの昔話研究……飯倉義之
  野村純一著作集編集の経緯―あとがきに代えて―……小川直之
  
  野村純一博士略年譜
  野村純一著作集総索引


  
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ISBN978-4-7924-0711-7 C3339  (2013.4) A5判 上製本 526頁 本体10,000円

『野村純一著作集』全九巻の完結にあたって


 日本の口承文芸学に大きな足跡を残した野村純一博士の著作集が、二年半ほどの歳月をかけ完結を迎えることができた。野村博士の業績には、昔話の「語り手」と、その語り手が受け継ぐ昔話の系譜に焦点をあて、日本の口承文芸のありようを明らかにしたこと、「口裂け女」や「こんな晩(六部殺し)」など、世間に跋扈する、いわゆる世間話の生成や展開を丹念に辿り、これが流布する姿を明らかにしたこと、文字に記された記載文芸としての説話と口承の文芸の関係性を論じ、国文学研究に一石を投じたことなど、多くがある。原本の入手が難しくなっている、学位論文の『昔話伝承の研究』も第一巻、第二巻に収録した。著作集にはこうした野村博士の、まさに「口承文芸学」が独特の文体で躍如し、読むほどに引き込まれていくといってよい。
 日本社会は戦後の高度経済成長によって大きく様変わりし、今やいろり端での「語り」は求めがたく、「語り手」とその語りの系譜研究は難しい。野村博士は、こうした将来の変化を見抜いていたかのように、昭和三十年代から「語り手」とその「語り」を求めて列島を歩き回り、独自の研究世界を構築した。今や、語りや話しの世界は、在地のいろり端を離れ、地域文化活動ともいえる民話語りの会へと移行しつつある。こうした現代の民話語りの実践においても、野村博士が拓いた語りや話しの世界は、必定、踏まえなければならない。国文学研究においても、そのスケールを広げるには、記載文芸と口承文芸の関係性を見据えることが必須となる。
 また、野村博士の業績として忘れることができないのが、インドや中国と日本の、比較口承文芸研究である。よく知られた「鼠の嫁入り」の話を、中国、そして古くは天竺と呼んだインドへとつなげてくれた。これからの口承文芸学研究にとっては、大きな贈り物といえる。
 最終巻の第九巻は、無類に広い野村博士の研究ネットワークを主題とした。これは、野村によって蒔かれた口承文芸学という種の在処と、野村自身の研究を支えた人たちとの交流の記録でもある。九巻巻末には、著作集の総索引を附した。索引づくりを終えて気づいたことは、ここには野村博士の口承文芸学の視点や方法がはっきり表れていることである。その視点と方法は口承文芸学にとどまらず、人文学全体にとっても示唆的である。
野村純一著作集編集代表 小川直之(國學院大學教授)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。