畿内の村の近世史
渡辺尚志編


よみがえる上神谷・小谷家文書の世界
家・村・地域社会の構造と変容を解明する


■本書の構成


序 章●渡辺尚志
第一章●近世前期の地域秩序と村域形成……長谷川裕子
第二章●近世初期の山年貢について……神谷 智
第三章●所有・経営からみた土豪の存在形態とその変容過程……小酒井大悟
第四章●近世前期の地域社会における土豪の位置……小酒井大悟
第五章●近世初期の「名寄帳」について……神谷 智
第六章●17〜19世紀における上神谷山と小谷家……渡辺尚志
第七章●18・19世紀における郷士の由緒と藩の対応……野尻泰弘
終 章●渡辺尚志




ISBN978-4-7924-0926-5 C3021  (2010.10) A5判 上製本 350頁 本体7500円
中近世移行期を中心に新たな在地社会像を提示
関西学院大学文学部教授 志村 洋
 和泉国大鳥郡上神谷(にわだに)(現・大阪府堺市)の小谷家文書といえば、村落史研究者ならば誰しもが聞いたことのある著名な史料群である。村政や家経営のみならず、近世初頭以来の上神谷村々の支配文書をも含んだ、中近世移行期の在地社会像を知ることのできる、まことに希有な史料群といえる。
 この小谷家文書については、一九五〇年代から多くの著名な歴史家が研究を重ね、近年では吉田ゆり子氏が小谷家の新たな評価を行っている。本書の意義のひとつは、そうした多くの研究史に正面から向き合って、それらを乗り越えるべく、新たな上神谷社会の全体像を提示しようとしている点にある。とりわけ、近世初・前期における土豪の経営と谷レベルの行政的活動――いわゆる政治と経済の両面――について、詳細かつ総合的に明らかにしたことの意義は大きい。
 本書ではさらに、従来小谷家文書では看過されてきた観のある、近世後期の諸問題も正当に扱っている。上神谷の惣山をめぐる各種争論に関する論考や、小谷家の家格上昇運動を論じた論考などは、近年の地域社会論や由緒論、身分的周縁論などの諸成果を摂取し、その批判的継承を目指したものともいえよう。
 本書に集った研究者は、出身も、研究フィールドも、「学派」もさまざまな人たちである。そうしたこともあってか、本書は、全体として一つのまとまりを持ちつつも、各章がそれ独自で固有の論点を深めることに成功している。中近世移行期の「村切り」を再検討した論考や、史料論的手法から名寄帳の再検討を行った論考などは、個性的であると同時に本書をさらに魅力的なものとしている。
 以上の内容をもつ本書は、取り扱う対象こそ、農業と山稼ぎを二本柱とした畿内の特定の中山間地域ではある。しかし、明らかにされた地域的個性はきわめて重要なものであるし、本文中示された研究手法や論点は、他地域・他分野の研究者にも大いに参考になる。地域・専門分野を問わず、全国の読者にぜひご一読をお薦めしたい。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。