近世史研究と現代社会
歴史研究から現代社会を考える
荒武賢一朗編


官僚政治、財政、消費者、教育制度……
歴史研究はどのように現代社会と向き合うのか?


■本書の構成


総論 歴史研究から現代社会を考える意義……
関西大学 荒武賢一朗

  第一編 国家・地域の行政機構をとらえ直す

第一章 江戸時代における国家官僚=旗本家をめぐる特権構造……
一橋大学 野本禎司

  時代考証…………野本禎司

第二章 藩財政を考え直す……………
佐賀大学 伊藤昭弘

  世界遺産と地域遺産…………伊藤昭弘

第三章 地域的公共圏の歴史的展開 
熊本藩領の手永を事例に…… 熊本大学 今村直樹

  阿蘇たにびと博物館の活動について…………今村直樹

  第二編 人々の価値観と意識を見つめ直す

第四章 公家家職から見た天皇制 
入木道という家職のあり方…… 国文学研究資料館 西村慎太郎

  NPO法人歴史資料継承機構の活動…………西村慎太郎

第五章 働き方と自己責任を問われる賤民たち 
近世後期、平人身分社会の稼働…… 奈良教育大学 木下光生

  差別の伝え方…………木下光生

第六章 食品流通構造と小売商・消費者の存在……荒武賢一朗

  公文書のゆくえ…………工藤航平

第七章 幕末維新期にみる地域教育態勢の展開……
国文学研究資料館 工藤航平




  本書の関連書籍
  伊藤昭弘著 藩財政再考

  荒武賢一朗著 屎尿をめぐる近世社会

  平川 新編 通説を見直す―16〜19世紀の日本―

  荒武賢一朗編 世界とつなぐ 起点としての日本列島史


ISBN978-4-7924-0941-8 C3021  (2011.4) A5判 上製本 270頁 本体5,600円
歴史学研究の初志にかえる
滋賀大学教授 宇佐美英機
 私たち歴史学徒は、一体何のために研究をしているのだろうか。誰しもが自らに問いかけながら、それぞれに関心を抱いた主題に向き合っていることは言うまでもないことだろう。しかし、この問いかけに答えることは、実は容易な事ではない。歴史学はともすれば、研究のための研究に埋没し、社会から遊離した営みに陥りやすいという危険性をはらんだ学問領域なのだということを自覚するには、かなりの自意識と社会経験を必要とするようである。
 本書の執筆者たちは、日本近世史・近代史を専攻し、現在の職場において様々な立場から研究・教育などにあたっている。そして、現代社会の諸問題と自らの研究主題を相互に関わらせながら史実を解釈し、歴史学研究の新たな方向性を模索しようとしている。
 ここに編まれた論稿を一読すると、執筆者たちは現代社会に生起している諸問題と真摯に向き合い、自らの研究主題との双方向性を意識しながら自問自答している様子を窺い知ることができる。それが成功しているのか、また、この方法で歴史学研究の新しい方向性は見えてくるのか。その当否・是非を確かめるためにも、意識的・意欲的に叙述された本書を手に取り、味読する価値が十分にある一書であることは疑いを入れない。
 執筆者たちは全員が三〇歳代であり、自分の経験からして歴史学研究を面白く感じ始めた世代といえよう。自らを振り返って、同じ年代の時に、これほどまでに現代社会の諸問題を解決するため、処方箋を書く目的意識で研究を行っていたのかと考えると、内心忸怩たる思いをさせられた論稿が編まれていることに驚かされる。
 個人的な感懐になるが、本書を一読して、私は自らが歴史学研究をなぜ選んだのかを、改めて考える機会を得たのである。


 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。