「領政改革」概念の提唱
訓詁学再考
藤田貞一郎著


地道な「訓詁学」の精神に立ち返ることから
用語の使用された時代の原義を甦らせ、
歴史の真実を喝破する



■本書の構成


第一章 「領政改革」概念の提唱  ―近代日本国民国家形成史の一齣―
 問題の所在/幕藩体制史観懐疑論の動き/「国益」思想と領知経済の自立化/国民国家と貨幣システム/「領政改革」概念の提唱

 コラム 『安愚楽鍋』に見える「国益」建白談義

第二章 近代日本臣民国家の成立  ―領知経済自立化の所産―
 思考基盤/近世史研究における訓詁学または原典批判学/幕藩体制なる用語/近世史における天皇なる称号/領知経済の自立化と国益思想/東アジア社会における日本社会/近代日本臣民国家の成立/展望

第三章 訓詁学再考
 近世の用語と用語法/近代の用語と用語法/訓詁学再考

第四章 近世城下町の生鮮食料品市場
 問題の所在/いわゆる「城下町」とは何か/「近世城下町の生鮮食料品市場」の特質/結論的覚書

第五章 明治前期「国益」思想追跡行の一里塚  ―『明治建白書集成』を手掛りに―
 序/『第一巻』の事例/『第五巻』の事例/『第七巻』の事例/『第八巻』の事例/『第九巻』の事例/覚書

 あとがき/索引




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ISBN978-4-7924-0946-3 C3021  (2011.6) A5判 上製本 234頁 本体3,300円
「訓詁学」の重要性
京都府立大学名誉教授 水本邦彦
 国益思想や同業組合の研究でつとに著名な藤田貞一郎先生が、『「領政改革」概念の提唱―訓詁学再考―』と題する新著を上梓された。
 本書で提案される「領政改革」とは、従来の「藩政改革」概念を批判してのものである。近世社会の公式用語でなかった「藩」を安易に用いることで、自律的な大名領知に向かう社会改革の意義がまったく見落されてしまう、と先生は強く指摘される。明治に入り意図的に導入された「幕府」や「藩」という呼称を無意識・無自覚に使用することで、我々は知らず知らずのうちに「王政復古」イデオロギーに絡め取られているのではないか。そうした研究状況に対する大いなる警鐘である。
 ことは近世史に留まらない。「国益」をスローガンにした大名領知の自立化を正しく把握することで、初めて、日本近代史を「国民国家創出」という人類史に結び付けて理解できる。また、なぜ日本近代が天皇を舁ぎ出し「日本臣民国家」として展開したか、についても解くことができる。先生はこのように主張される。「天皇」と「皇帝」の使い分けに気付けば、日本の近代化が東アジア国際体制の中で進展したことを見てとることが出来る、とも提言される。明晰な論理と切れ味のよい文体に、目から鱗の落ちる思いである。
 史料用語や用語法に細心の注意を払う立場を、先生は訓詁学と呼ばれる。本書に限っても注意を喚起された言葉は多い。「国益」はいうまでもなく、「山下(ヤマシタ)」「楽市場」「藩」「幕府」「領知」「領分」「領国」「家中」「公儀」「国民」「天皇」「皇帝」「戦争」「事変」等など。そして、それらの意味を時代の中で虚心坦懐に捉えることで、比較史研究もまた進展する、とされるのである。
 「原史料と史実を知悉する歴史研究者は、史料の用語と用語法の原点に立戻って、近世・近代史を整理・叙述し、広く社会一般の人々に、これを提供する責務がある」(一三九頁)。この指摘を、近世史研究に携わる後学の一人として、肝に銘じようと思う。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。