国境の歴史文化(くにざかいのれきしぶんか)
上川通夫・愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科編



「くにざかい」という場は創造性に満ちている。接触し交錯する境界地域の歴史文化学。



■本書の構成

第T部 「グローバル」時代の国境

第一章 「国境」における天皇制 
―ペルー「日系」概念からの皇室の「国際親善」― ……川畑博昭
第二章 国境ならぬ国境 
―韓国の領土条項と統一条項― ……國分典子
第三章 ナショナリズムと「日本文化」論 
―「文化」の境界を越えるために― ……樋口浩造

第U部 フィールドの中の国境

第一章 河川開発と社会的儀礼 
―河川の近代化と「筏の終焉」― ……井戸 聡
第二章 暦 神 考 
―三隣亡と鬼宿日― ……小池淳一
第三章 近代大阪の地域経済構造 
―摂河泉とくに北摂の地域形成を中心に― ……中島 茂
第四章 中世津島の景観とその変遷……山村亜希

第V部 歴史と国境

第一章 小津安二郎と体験史の方法 
―中国大陸で見た画面と戦場― ……與那覇潤
第二章 元禄十三年濃尾国境の山論に関する一考察……大塚英二
第三章 国境の中世寺院 
―三河国普門寺― ……上川通夫
第四章 日本古代における二つの「国境」の成立・覚書……丸山裕美子




  本書の関連書籍
  大塚英二著 日本近世地域研究序説

  大塚英二著 近世尾張の地域・村・百姓成立



ISBN978-4-7924-0965-4 C3020  (2012.3) A5判 上製本 350頁 本体7,500円
刊行にあたって
 国境くにざかいという場は創造性に満ちている。文化が接触し交錯する境界地域は、歴史の前線として表舞台に立つことがある。固定性や閉鎖性から免れた地域空間は、時に軋轢や紛争を醸し出しつつも、価値観と意志ある生活者の地域づくりが意識される時には、新時代の個性的な歴史文化を創造する活力がひき出されるのであろう。本書は、以上のような考えの基で進めてきた共同研究の一部を公刊するものである。この共同研究では、重層的で多元的な国境の実態を、地元地域、日本列島、東アジア、地球世界、といった様々な次元で考察している。とくに歴史文化という時間軸に留意するのは、境界の生成・変化・消滅・賦活といった動態をとらえたいからである。
 さて、第T部「グローバル」時代の国境≠ナは、近代・現代の日本と直接・間接に関係する国際比較と、「国境」や「文化」についての原理的な思考を促す論考を配列する。第U部フィールドの中の国境≠ヘ、現代から近代、そして近世、中世末へとさかのぼり、歴史文化の実態を社会生活の場にそくしてとらえる論考から成り、第V部歴史と国境≠ナは、歴史研究の論文によって、日本の近現代、近世、中世、古代へと時代をさかのぼる。
 愛知県立大学は、尾張・三河・美濃の三国国境に近い。未来に進むべき現代人の認識からは脱落しがちだが、来し方、この地には豊かな歴史文化の個性が刻み込まれてきた。中国に範をとった高級陶器の発信地たる猿投や瀬戸、中近世の節目にかかわる長久手の戦い、国際イベントとして計画された愛知万博、それに愛知県立大学。それらがこの場所を舞台にする理由については、未解明の必然性があるのかもしれない。本書の諸論文でそのことを集中的に研究しているのではなく、むしろ多様で広い対象を扱っている。しかし、研究集団が拠って立つ職場の環境が、問題意識と結びつく場面をもつのは確かである。本書自体が、国境からの知的発信として意味を持つことを、構成員一同が念願している。
(上川通夫)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。