南紀熊野の諸相〈古道・民俗・文化〉
杉中浩一郎著



熊野古道・中辺路町生まれの著者による、熊野文化論集成。



■本書の構成

T熊野参詣道
   熊野参詣道の呼称と経路/大辺路の変遷/古道中辺路の地名/参詣記等にみられる岩田川付近/中辺路の箸折峠/聖護院門跡入峰の中辺路通行

U民俗の小景
   熊野の里芋、特にボウリについて/随想 椎葉のトビ・熊野のトビ/上富田の年中行事/熊野のクラ・吉野のクラ/小栗伝承とハンセン病

V廃絶の山村
  義務教育免除地道湯川/森林地兵生の今昔/廃村平治川の残照

W海外との接触
   周参見の唐人墓碑をめぐって/周参見浦漂流人〈善助・弥市〉/ハワイで活動した姉妹/ユニテリアンの使徒神田佐一郎

X田辺の文化人
   天明の東行俳人玉置香風/明治の碩学湯川退軒/言論人毛利柴庵側面記/近代の文学者・那須辰造

Y熊野来訪の歌人文人
   熊野懐紙の歌人たち/熊代繁里の『熊野日記』/茂吉・迢空の熊野への旅/瀞峡を訪れた文人たち


       
  ◎杉中浩一郎(すぎなか・こういちろう)……1922年、現・和歌山県田辺市生まれ 慶応義塾大学在学中、学徒出陣で入隊。復員後、中学校教諭として勤務。元、和歌山県田辺市立図書館長




 著者の関連書籍
 杉中浩一郎 熊野の民俗と歴史



ISBN978-4-7924-0970-8 C3021  (2012.5) A5判 上製本 431頁 本体8,500円
 すでに七十余年も前のことであるが、熊野の山間地で生まれ育った私は、東京で学生生活を送るようになり、戦時下ながら、人並みの教養を身につけようとして、読書に精を出したりしていた。そのうちに、柳田国男の民俗学に心を引かれるようになり、また、自分の郷里が日本の歴史の一端をになっていることを知って、熊野地方の歴史に関心を持ち始め、やがて自分なりに調べて、それをまとめたりすることに興味が移っていった。
 ところで、この小著のなかで、熊野古道、とくに中辺路関係の占める割合が大きい。それは平成十六年(二〇〇四)に「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されたということもあるが、それよりも若いころから古道を歩き、資料を集めていたからであり、同時に私の先祖が古道とかかわりが深いことにも由来している。
 平安朝貴族藤原宗忠の天仁二年(一一〇九)の熊野参詣記に、滝尻から近露までの間で、「 柚多和 ゆうがたわ ・大坂を過ぐ」という記事がある。柚多和は 上多和 うわだわ 、大坂は逢坂峠のことである。江戸時代にも、上多和や逢坂峠は、熊野参詣や西国巡礼の通路にあたっていて、私の先祖は何代にもわたり、そこで茶屋を営んでいた。明治元年生まれの祖父の話では、祖父の代を含めて四代は逢坂峠で、その前の二代は上多和で茶屋をしていたというのである。
 この小著を作成するにあたって、多くの人々に教えてもらったり世話になったりしたことを感謝するとともに、不自由な山中の峠に住んで、わびしい生涯を送った数代の先祖の霊を慰めたいという気持ちもある。私は高齢になっているが、健康が保持できれば、なお熊野について研修につとめられたらと願っている。
 (杉中浩一郎)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。