大名の相貌  ―時代性とイメージ化―
シリーズ士の系譜@
高野信治著



代社会のメディアに至るまで再生産され続けてきたイメージ化も射程にいれながら、政治・経済・思想・民俗などの諸観点から多面的に考察する。大名に関する総合史としての「藩」研究の一つの試みでもある。



■本書の構成


  まえがき

序章 研究と展示の交錯
  1 大名と藩   2 研究の動向   3 大名展の性格   4 問題の設定

一章 近世国家と大名
  1 大名の成り立ち   2 「公儀」と大名   3 大名の多様性と統合性

二章 大名と家臣
  1 家臣の包摂   2 家臣と知行   3 軍制と役職の組織

三章 大名の治政
  1 文武と仁政   2 民政の展開   3 「家」と「国家」

四章 大名のイメージ化
 1 記録類の編纂   2 大名像の形成   3 御家物としての鍋島猫騒動

  おわりに  参考文献  あとがき



  
◎おしらせ◎
  『史学雑誌』第124編第3号(2015年3月号)に新刊紹介が掲載されました。 評者 畑山周平氏



ISBN978-4-7924-1014-8 C3321 (2014.7) 四六判 上製本 282頁 本体1,900円

「士の系譜」のなかの近世大名

     高野信治
  
 本書は、清文堂出版で企画された「士の系譜」と銘打つシリーズの一冊として執筆したものである。
 ここでいう「士」とは、ヨーロッパの騎士、東アジアの士大夫、日本の武士がイメージされている。騎士は騎馬戦士として領主化し、主君から叙任された従者層をいい、キリスト教観念に基づく忠誠・勇気・公正などの道徳観を基軸とする騎士道を形成した。中国や朝鮮の士大夫は、科挙に基づき選抜された官僚で、高難度の試験に及第する学問環境を持つ経済的有力者の地主・商人層が出身母体とされ、儒者・文人としての素養を身につける。武士は本来騎馬武者で、「さぶらひ(侍)」として仕える主君から与えられた領地を支配する領主の立場も獲得しつつ、「もののふ(武士)」独特の規範観念を生み出した。武士については、主従制や領主制の二つの側面からヨーロッパ封建制(騎士層)との比較がなされ性格が論じられてきた。しかし、集権的な近世化の過程で、領主の側面が後退、主従関係での契約性も薄れて主君に対する従属性が強まり、役人化した武士が儒学素養を身にまとい、士大夫的性格を具備する、との指摘もある。一方で、忠孝や名誉・公正などの徳目を内包し近世期に成立するという武士道は、儒学ないし騎士道と対比して捉えられてきた。
 このようにみれば、武士の時代変化は、騎士的な側面から士大夫的な側面が強まるものの、主君に仕える戦士としての性格を持つ限りにおいて、騎士的側面も内在し続けたともいえる。
 もちろんこれは一つの見通しに過ぎず、「士の系譜」とは、横軸(他地域との比較)と縦軸(時代的な変化)を交差させながら、騎士・士大夫と武士の関係性をみていく、そのような意味合いを持つことになろう。私は勝手にかかる思いを描きながら、将軍の従者、武士層(家臣)の主君、領民にとり領主、いわば様々な性格を兼備する日本の「士」階層である大名について考えてみた。ただし、近世という時代性は、家臣の士としての変容に大名自らを関わらせ、将軍の従者としての立場にとどまらない公儀性を大名に与え、そのことは、領主としての質を守護大名・戦国大名などと異ならしめた。これら大名(領)の性格は、新井白石をはじめとする近世日本の儒者が、中国の国家制になぞらえ「藩」と呼称することに集約されているのかもしれない。
 本書は、従者・主君・領主などの役回りを持ちつつ、自らの「家」相続に腐心した、そのような近世の「士」・大名の相貌をめぐり、現代社会のメディアに至るまで再生産され続けてきたイメージ化も射程にいれながら、政治・経済・思想・民俗などの諸観点から多面的に考察したものである。その意味で、本書は、大名に関する総合史としての「藩」研究の一つの試みともいえよう。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。