近世の軍事・軍団と郷士たち
長屋隆幸著



第一に、江戸時代前期における武士の軍事面における役割・存在意義と、軍事・軍役へ彼らが抱いていた意識について考察し、第二に郷士と呼ばれた存在の軍事的な意義について明らかにする。軍団が、戦争の世の中で最適化していた姿から、平和な時代に対応した姿へと、社会状況の要請によって姿を変えていったことを解明する。




■本書の構成

序 章 研究史と本書の課題
  はじめに/一 研究史の概観/三 研究史上の問題点/四 本書の構成

  第一部 近世軍団機構の実態

第一章 「戦功書上」の成立について
  はじめに/一 「戦功書上」の機能・特徴/二 「戦功書上」の成立過程/三 「戦功書上」の副次的利用/おわりに

第二章 大坂夏の陣における遭遇戦の実態
 ――八尾・若江の戦いにおける津藩藤堂家を例に――
  はじめに/一 八尾・若江の戦い/二 鉄炮足軽隊の戦闘/三 八尾・若江の戦いにおける士分の戦闘/四 戦場での危険度の違い/おわりに


第三章 室町末〜織豊期における武具統一政策
 ――主に後北条氏を例に――
  はじめに/一 後北条氏の軍隊編成/二 永禄期における武装統一状況/三 元亀二〜四年時の武装統一政策/四 完了しない武装統一/五 甲斐武田氏に見る武装統一/おわりにかえて――御貸具足の発生


第四章 江戸前中期における土佐藩の陣立
 ――主に鉄炮隊・長柄鑓隊について――
  はじめに/一 土佐藩における陣立と鉄炮隊・長柄鑓隊編成の時期的変遷/二 鉄炮隊・長柄鑓隊の編成変化の理由/おわりに


第五章 十七世紀中期の城受け取りと大名の軍役への意識
  はじめに/一 広島城受け取りに見る土佐藩の軍役への意識/二 島原城受け取りに見る平戸藩の軍役への意識/おわりに

  第二部 軍事・軍団との関わりから見た郷士

第一章 九州地域における郷士層の存在意義
 ――平戸藩在郷家臣を例に――
  はじめに/一 正保四年以前の在郷家臣の状況/二 正保四年の地方知行制廃止/三 地方知行制廃止の狙い /四 正保四年以降における中小姓以下の地方知行/五 在郷家臣の残存理由/六 貞享三年の地方知行制完全廃止と在郷家臣/おわりに


第二章 騎馬層形成政策に見る土佐藩郷士の武力編成過程
  はじめに/一 藩政初期の政治状況と騎馬層形成政策/二 兼山失脚以前における騎馬層形成政策/三 兼山失脚以後における騎馬層形成政策/おわりに

第三章 高野山騒動に見る紀州藩地士の武力編成過程
  はじめに/一 高野山騒動以前の紀州藩地士/二 高野山騒動と紀州藩/三 高野山騒動と地士/四 高野山騒動以後の地士/おわりに

第四章 尾張藩非常守から見る幕末の農兵
  はじめに/一 非常守の設置/二 武田家と武田晨正/三 清洲非常守から見る非常守の実態・性格/おわりに

第五章 郷士・帯刀人の分類についての一試論
 ――軍事的役割を指標に――
  はじめに/一 苗字帯刀免許についての確認/二 郷士の分類/三 帯刀人の分類/四 郷士を自称する者達/おわりに


終 章 総括と今後の課題
  はじめに/一 軍団の機構について/二 軍団との関わりから見た郷士の存在意義/三 今後の課題



  ◎長屋隆幸(ながや たかゆき)……1972年山形県生まれ 高知大学人文学部卒業、愛知県立大学大学院国際文化研究科博士後期課程満期退学 博士(国際文化) 現在、名城大学非常勤講師



 
◎おしらせ◎
 『日本歴史』第821号(2016年10月号)に書評が掲載されました。 評者 津野倫明氏

 『軍事史学』第52巻2号・通巻206号(2016年9月)に書評が掲載されました。 評者 金澤裕之氏



ISBN978-4-7924-1041-4 C3021  (2015.10) A5判 上製本 350頁 本体8,500円

  近世の軍事・軍団と郷士たち


 江戸時代の社会は、将軍を頂点とした巨大な軍団に武装・非武装の区別なく組み込まれた兵営国家だったとの説がある。武士は戦闘に従事し、百姓は兵站を維持し、町人は武器・武具の生産・流通を行うというように、公儀の軍団の一員として何らかの役割を果たすことが義務づけられた社会だったとする説である。かかる観点にたてば、藩もまた藩主を頂点とした兵営国家である。

 しかし実際には、多くの藩政史研究は中央集権的藩政の確立に主眼がおかれ、藩政機構や家臣団編成を軍団の機構との関わりから理解しようとする視点は等閑視されてきた。したがって、現在のところ、近世における軍団の機構に関しては、未だ不明な部分が少なくない。

 そこで、本書では、大別して以下の二点を扱うこととする。第一は、江戸時代前期における武士の軍事面における役割・存在意義と、軍事・軍役へ彼らが抱いていた意識について考察することである。軍団は、戦争の世の中で最適化していた姿から、平和な時代に対応した姿へと、社会状況の要請によって姿を変えたのである。江戸時代の社会全体を大きな一つの軍団とみなす兵営国家論の観点から見た場合、軍団は社会構造の枠組みとして社会自体を規定する面がある一方で、軍団の機構自体が社会状況の影響を受け変容していった面もあったと言える。

 第二は、江戸時代において郷士と呼ばれた存在の軍事的な意義について明らかにすることである。郷士の存在は藩のみならず、幕府との関係に規定される形で、軍事的役割を担わされていた。言い換えれば、幕藩制国家の軍事の一部を担う重要な要素だったと言うことができる。郷士の存在は、軍団へ予備的な戦闘員を供給する母胎だったとみなすことができよう。

 以上、軍団と社会との関係が相互に影響しあうものであるという理解から、本書の刊行を企図した。今後、未解明の部分があきらかにされることを期待しつつ、本書の批評をまちたい。
(長屋隆幸)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。