和歌の浦の誕生
―古典文学と玉津島社―
村瀬憲夫・三木雅博・金田圭弘 著


聖武天皇の紀伊国(玉津島)行幸において誕生した万葉の「若の浦」は、その後平安、中世と時代が進むなかで、豊かに多角的に継承され、また独自に展開して、和歌の聖地としての「和歌の浦」に成長していく。その種々相を追う。



■本書の構成


  第一部 若の浦の誕生――万葉の若の浦

第一章 神代よりしかぞ尊き玉津島山
  
玉津島の神・明光浦の霊/聖武天皇の即位と若の浦――脈々と受け継がれる皇統

第二章 聖武天皇の詔の表現と漢籍
  
『続日本紀』神亀元年十月十六日の聖武天皇の詔の分析/詔中の「登山望海」に関して――中国の「望海」には特別な意味がある/詔中の和歌の浦の称号「明光浦」に関して――中国の「明光」の持つ特別な意味/中日比較文学の立場から見た聖武天皇詔

第三章 若の浦に潮満ち来れば――弱浜から若の浦へ
  
弱浜、明光浦、若の浦/聖武天皇紀伊国行幸の目的

第四章 葦辺をさして鶴鳴きわたる――若の浦の景観
  
山部赤人の歌/藤原卿の歌、柿本人麻呂歌集の歌/作者未詳の歌

  第二部 和歌の浦の誕生――「若の浦」の継承と展開

第一章 古今和歌集の和歌の浦
  
古今和歌集の和歌の浦――万葉集から古今集へ/『古今和歌集』以降の和歌の浦/「若の浦」から「和歌の浦」へ――和歌の聖地を意識した表記の変貌

第二章 藤原公任の和歌の浦訪問をめぐって
  
藤原公任とは/藤原公任の和歌の浦訪問をめぐって/和歌の浦訪問記評釈/藤原公任の和歌の浦訪問の意義

第三章 衣通姫とその神性
  
記紀万葉の衣通姫/和歌の神・衣通姫/和歌の浦の神となった衣通姫/衣通姫と和歌の浦を結びつけるもの

第四章 紫の上と和歌の浦――衣通姫から紫の上へ、二人を結ぶ和歌の浦
  
関戸遺跡と平安期文学作品との関連性/源氏物語の和歌の浦/紫の上と和歌の浦を結びつけるもの

第五章 『源氏物語』以降の和歌の浦――藤原頼通と和歌の浦
  
散佚した物語に登場した和歌の浦/頼通の和歌の浦訪問

第六章 小野小町と玉津島――中世玉津島信仰と小町
  
玉津島神社の「小町袖掛けの塀」の由来――能「鸚鵡小町」と玉津島/能「卒キ婆小町」と玉津島/丹生・高野明神と玉津島/中世の玉津島をめぐる信仰のあり方――結びにかえて



著者紹介……村瀬憲夫(むらせ のりお)1946年愛知県生まれ 近畿大学名誉教授/三木雅博(みき まさひろ)1954年和歌山市生まれ 梅花女子大学文化表現学部教授/金田圭弘(かねだ よしひろ)1967年和歌山市生まれ 近畿大学附属和歌山高等学校教諭



 
 ◎ニュース和歌山に本書の紹介が掲載されました(2016年4月16日)
   
千年続く和歌の浦願い 古典文学専門家3人が出版

  ◎わかやま新報に本書の紹介が掲載されました(2016年5月11日)
   千年先の道しるべに 『和歌の浦の誕生』出版

  ◎毎日新聞 和歌山版に本書の紹介が掲載されました(2016年5月25日)
   蓬莱山巡り大胆仮説 専門枠超え研究者3人共著




ISBN978-4-7924-1048-3 C0091  (2016.4) A5判 上製本 222頁 本体3,600円

  日本文学史上における「和歌の浦」


 「千年の景観の地」とも称される和歌の浦は、長く厚い歴史と深く豊かな文化を有している。しかしその実態を解明しきれているとは言いがたく、謎も多い。歴史学、考古学、民俗学、社会学、政治学、経済学等々の諸々の分野からの総合的な解明が必要であるが、本書では三人の専攻に応じて、古典文学の和歌の浦に焦点を定めた。

 聖武天皇の紀伊国(玉津島)行幸において誕生した万葉の「若の浦」は、その後平安、中世と時代が進むなかで、豊かに多角的に継承され、また独自に展開して、和歌の聖地としての「和歌の浦」に成長していく。その種々相を追った。三人の執筆者は、和歌の浦への学術的な関心と、和歌の浦(現在は「和歌浦」)の将来〔保全と活性〕への並々ならぬ思いを懐くという共通基盤を有しており、本書の執筆にあたっては十分に連絡を取り合い、一書としての統一と調整を図ってきた。もちろん三人の見解に相異のある部分もあるが、たんに三人の文章の寄せ集めではない、一貫した和歌の浦へのまなざしを汲みとっていただければ幸いである。

 なお、本書はいわゆる一般書(啓蒙書)であると同時に研究書でもあることを目指した。小見出しを付す、系図、図版、写真を入れる等、読みやすく親しみやすくなるよう工夫をしたが、やはり論文調で堅いところもある。ひとつの見解の主張のためにキリキリと追い込んでいくような緊迫感もお楽しみいただけたらと思う。

 ところで、本書の契機は二〇一一年から二〇一三年の三年間にわたって、和歌の浦の玉津島神社を会場に「玉津島講座」が開かれたことによる。この玉津島講座の立ち上げ、実行、そして本書の出版に向けて、主導的な役割を果たした米田頼司(元、和歌山大学教授)が、体調ままならず、本書の執筆に加わることのできなかったことが誠に心残りである。

 万葉の「若の浦」から平安以降の「和歌の浦」へという、和歌の浦の原点とその成長発展のさまを広々と見わたし、その日本文学史上の位相を解き明かすとともに、「和歌の浦の未来」を考えるきっかけになれば幸いである。
(共著者) 


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。