汽船の時代と航路案内
松浦 章著


十九世紀後半から二十世紀前半は、汽船の時代であったといえる。汽船が人の移動、商品の流通、情報の伝播に果たした役割は大きい。日本の船会社は、世界へ航路を拡大していったが、その際に乗客を勧誘する手段として利用したものに「航路案内」という印刷物の存在がある。日本と中国・台湾・北米航路を中心に、日本郵船・大阪商船ほかの「航路案内」を紹介しながら、さまざまを読み解く。「航路案内」から汽船の時代を鮮やかによみがえらせる。


■本書の構成

序章 アーカイヴズとしての航路案内
 
 1 緒言/2 日本の汽船会社による航路案内の歴史/3 日本汽船会社の海外航路案内――青島航路を例として/4 小結

第一編 汽船の時代と文化交渉の変容

第1章 近代中国における汽船時代の到来と文化交渉の変容
  1 緒言/2 清朝輪船招商局公司と日本郵船会社/3 汽船時代の海上航路による文化交渉(汽船による人的移動――中国の人々がアメリカへ/汽船による物的流動――中国茶葉が英国・米国へ/汽船による情報伝播――世界の情報が中国へ)/4 小結

第2章 19世紀末の北アメリカと上海間の定期航路
  1 緒言/2 Pacific Mail Steamship Company(PMSS Co.)の上海寄港――アメリカ定期航路の運航/3 Occidental and Oriental Steamship Co. (O.&O. SS Co.)の北太平洋定期航路の運航/4 Canadian Pacific Railway Company’s Royal Mail Steamship Line(CPRMSS)の北太平洋定期航路の運航/5 アメリカ・カナダの汽船で北太平洋航路を渡航した中国人/6 小結

第3章 20世紀初期の日中幹線航路の展開
  1 緒言/2 日本からの汽船航路――上海航路の開始/3 20世紀前半における日本から上海への基幹航路/4 小結

第二編 日本郵船会社と航路案内

第1章 20世紀前半における日本汽船会社の中国への航路案内
  1 緒言/2 近代日本の中国への汽船航路/3 近代日本の汽船会社の中国への航路案内(上海航路案内/天津航路案内/青島航路案内)/4 小結

第2章 中国沿海港市と日本郵船会社の定期航路
  1 緒言/2 日本郵船会社の創設/3 日本郵船会社の中国・香港航路(日本郵船会社の上海航路/日本郵船会社の青島航路/日本郵船会社の香港航路/上海・漢口線の開設)/4 小結

第3章 1930年代日本郵船会社の「上海航路案内」
  1 緒言/2 日本郵船会社の上海航路/3 日本郵船会社の上海への航路案内(1930年の上海航路案内/1933年の上海航路案内/1936年の上海航路案内)/4 小結

第4章 日本郵船会社の台湾航路案内
  1 緒言/2 日本郵船会社の台湾航路/3 日本郵船会社の台湾航路案内(「臺灣航路案内」/1919年(大正8)11月の「臺灣航路案内」)/4 小結

第三編 大阪商船会社と航路案内

第1章 大阪商船会社の北米航路案内
  1 緒言/2 大阪商船会社の北米航路/3 大阪商船会社の北米航路案内(大阪商船株式会社『北米航路案内』(1929年(昭和4)7月)/1930年の大阪商船株式会社『北米航路案内』(1930年(昭和5)9月))/4 小結

第2章 大阪商船会社の「台湾航路案内」について
  1 緒言/2 大阪商船会社の台湾航路/3 大阪商船会社の台湾航路案内/4 小結

第3章 野村治一良と日本海航路――大阪商船・北日本汽船・日本海汽船
  1 緒言/2 野村治一良と海運業との邂逅/3 野村治一良と北日本汽船会社・日本海汽船会社(北日本汽船会社時代/日本海汽船会社時代)/4 小結

第四編 社外船と航路案内

第1章 原田汽船会社と青島航路
  1 緒言/2 原田十次郎と原田汽船の創業/3 原田汽船会社の「青島航路案内」/4 小結

第2章 阿波国共同汽船会社の中国東北沿海航運
  1 緒言/2 阿波国共同汽船株式会社の航運事業/3 阿波国共同汽船会社の中国東北沿海の航路/4 小結

第3章 嶋谷汽船会社と日本海定期航路
  1 緒言/2 嶋谷汽船会社の沿革/3 嶋谷汽船会社の日本海航路と航路案内/4 小結

第4章 南洋郵船会社の航路案内
  1 緒言/2 日本の南洋航路の開設/3 南洋郵船会社の設立/4 小結

補論 大阪鉄工所造船“浅吃水船”と中国内河航行
  1 緒言/2 大阪鉄工所建造の“平底型汽船”/3 湖南汽船会社/4 浅吃水船の中国内河航行(湘江丸/沅江丸/鳳凰丸/華山丸・唐山丸の建造)/5 小結

  
初出一覧/後記/索引





◎松浦 章(まつうら あきら)……1947年奈良市生まれ 関西大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学 現在、関西大学文学部教授・関西大学アジア文化研究センター長




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ISBN978-4-7924-1062-9 C3021  (2017.2) A5判 上製本 375頁 本体8,900円

 古代から中国と海外諸国とを結ぶ海上交通路については多くの研究がされてきたが、海上交通路の研究は、古代に限定されるものではない。19世紀後半から汽船が恒常的に登場して中国と欧米などの諸国とを結んだ汽船の時代においても海上交通路について考えるべき課題が見られるのである。そこで第1編第1・2章では人的、物的移動に貢献した汽船時代の中国における海上交通路について検討する。多くの中国人が北アメリカに移民する契機となったのは、北アメリカから横浜・上海に寄港して香港に到る定期航路が運航されていたからであった。アメリカのPMSS Co.・O.&O.SS Co.・カナダのCanadian Pacific Steamship Co.の3汽船会社を、中国人旅客がどのように利用していたかを明らかにする。また、第3章では日中の基幹航路であった上海・日本間の航路の運航を中心に考察する。

 ところで、19世紀末から日本の汽船会社は中国への航路を拡大していったが、その際に乗客を勧誘する手段として「航路案内」という折り込みで1枚程度のものから、数頁になる冊子体の印刷物を配布していた。しかし時代とともにその多くは忘却の彼方に置き去りにされていた。しかし、それらの「航路案内」は、汽船会社の活躍した時代の重要な証拠である。おもに第2編では、日本郵船会社の発行した航路案内を中心に、第3編では大阪商船会社が発行した航路案内を中心に述べる。航路案内から、日本の近代化のさまや外交政策の変化を読み解くこころみでもある。

 第4編においては、日本郵船会社と大阪商船会社を社船と呼称するのに対して、社外船とされた中小の汽船会社の中国沿海や日本海において航行した足跡を航路案内などに依拠して述べている。

 さて、私事で恐縮だが2011年から関西大学東西学術研究所に設立された「アジア文化研究センター」によるプロジェクトの代表者に任ぜられるとともに、個人としては東アジアの船舶資料のアーカイヴズに関する研究に従事することとなった。本書は、このプロジェクトのまとめともいえるし、江戸時代の日中関係の研究を開始して以来、来年2017年3月に退職を迎えるまでの半世紀に及ぶ研究生活の一区切りともいえる。自由な研究生活を育んで頂いた関西大学並びに同僚の諸先生方に感謝するとともに、本書に関して諸賢の御批正を希う次第である。
(松浦 章)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。