旅と交流にみる近世社会
高橋陽一編著


従来の宿駅・助郷・関所や寺社参詣にとどまらず、国益思想の一環としての旅人統制、藩の番所の運用、飯盛女、文化の地震後の象潟をめぐる環境保全と領民の生業確保の相剋、江戸勤番武士の生活圏、俳諧と心学、地士の誇りや教養と参詣、名所宮島と清盛伝説等、環境史や思想史も関連する多様な側面から人の移動や交流から近世史通観を試みる。




■本書の構成

序文 『旅と交流にみる近世社会』刊行によせて ………… 平川 新

序章 旅と交流にみる近世社会
 ―本書のねらい― ………… 高橋陽一
  旅をみる視点と課題/共同研究と本書の内容


  第一部 領域・境界・道中・権力

第一章 幕藩制社会と寺社参詣
 ―米沢藩の旅人統制と国益思想― ………… 原 淳一郎 
  はじめに/出国者への対応/寺社参詣統制令の経過/入国者への対応/東北諸藩の事例/おわりに 

第二章 藩境と街道
 ―境を守る・境を抜ける― ………… 菅原美咲 
  はじめに/境目番所の配置と警備/境目取締り・境目番所の構成員/境目番所と兵具/境目番所における通行人の取締り/おわりに

第三章 流入する他所者と飯盛女
 ―奥州郡山宿と越後との関係を中心に― ………… 武林弘恵 
  はじめに/人口減少と他所者引き入れ/飯盛女流入の展開/おわりに 

第四章 景勝地と生業
 ―出羽国象潟の開田をめぐって― ………… 高橋陽一 
  はじめに/象潟と生業/象潟の開田/おわりに―近世旅行政策の特質― 


  第二部 人・地域・交流

第五章 江戸勤番武士と地域 ………… 岩淵令治 
  はじめに/行動の概要と屋敷の近辺地域/近接・近隣地域―「図式」の世界―/「図式」の近辺地域/おわりに 

第六章 民衆の旅と地域文化
 ―阿波商人酒井弥蔵の俳諧と石門心学・信心― ………… 西 聡子 
  はじめに/酒井弥蔵と俳諧を通じた交友/石門心学活動と生活実践/寺社参詣と俳諧・石門心学/おわりに

第七章 高野山麓地域の日常生活と信仰・旅
 ―地士中橋英元を事例に― ………… 佐藤 顕 
  はじめに/年中行事にみる村の生活/中橋英元の教養と自意識/中橋英元の信仰/中橋英元の寺社参詣/おわりに 

第八章 宮島の名所化と平清盛伝説 ………… 鈴木理恵 
  はじめに/宮島の名所化/名所と清盛像/信仰と遊興の表裏一体性/おわりに




◎高橋陽一……東北大学東北アジア研究センター助教




  著者の関連書籍
  高橋陽一著 近世旅行史の研究―信仰・観光の旅と旅先地域・温泉―

  本書の関連書籍
  佐藤 顕著 紀伊の霊場と近世社会




 ◎おしらせ◎
 
『交通史研究』第91号(2017年10月号)の新刊紹介コーナーで本書が紹介されました(望月一樹氏執筆)。



ISBN978-4-7924-1065-0 C3021  (2017.3) A5判 上製本 308頁 本体5,600円

  
『旅と交流にみる近世社会』を推薦する

交通史学会会長 山本光正  

 本書は近世交通史研究の新たな時代への扉を開くものである。

 近世の交通史研究は幕藩体制下における宿駅運営・助郷・関所研究を中心に進められてきた。これらの研究はまだまだ深化させなければならないが、マンネリ化していることは否定できない。

 現在の社会状況もあるだろうが、研究のマンネリ化は交通史研究を手がける若手研究者の減少を招くことになった。……聞くところによれば交通史の分野に限ったことではないようであるが……。

 こうした状況の中で私自身も交通史学会として次に向けての展望を示さなければと考えていたが、中堅・若手研究者によってそれが示されたのである。

 本書は旅―人の移動―を軸としたものであるが、私が旅行史の研究を始めた頃は「旅日記」の表面を捉えることで精一杯であったが、旅日記が何か大きな可能性を秘めていることは確信していた。その後その可能性を若手研究者らが少しずつ引き出し、本書の成果に繋がったと言ってよいだろう。

 推薦文において各論文をそれぞれ評価することはできないが、いずれも読みごたえがあるというか示唆に富み、これからの交通史研究を志す学生・若手研究者の指針となるであろうと確信している。

 旅行史研究の先駆者新城常三先生も泉下において旅行史研究の発展を喜ばれていることだろう。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。