日葡辞書提要 にっぽじしょていよう 《付 索引》
森田 武著/索引 川口敦子編


外国人宣教師の為に作られた日葡辞書を日本語の研究に役立てるには、その構造・特質をよく知らねば正しい利用はできない。著者はこの観点に立って、見出し語、ローマ字表記と発音、語の意義用法の説明を実証的に検討し具体的に説く。また、編者が学習者の語彙拡充を目指して、機会ある毎に類義語や関連語等を併せ示す、親切な教育的意図の現われをも看過してはいない。要するに、この書は日葡辞書を活かして利用する上で、それと並べて具え置くべき必須の書である。このたび川口敦子氏の編による索引を付して復刊する。


■内容目次
第T章 解 説
    伝本と形態/編者/翻訳/略号と注記
第U章 見出し語
    見出し語の標出方針
第V章 日本語のローマ字表記と発音 (1)短音節
    母音/カ行音/サ・タ行音/ハ行音/ヤ行音/ワ行音/拗音/子音二重字表記
第W章 日本語のローマ字表記と発音 (2)長音節その他
    ア段の長音 付 Ah/ウ段の長音/オ段の直長音/オ段の拗長音/オ段長音の開合の混乱
/語の意味に対応する開合の別/入声音と促音/連声/バ・マ行音の交替とその表記
第X章 成立の過程
    日葡辞書の写本/本篇の成立過程/補遺の成立
第Y章 載録語
    載録語の性格/方言語彙/卑語/文書語と詩歌語/仏法語/教会用語/婦人語/その他の特殊語
第Z章 載録語の説明
    漢語の訓釈/日本語による語注および同義語/葡語による語義の説明/文法的説明
第[章 規範的説明と実用的説明
    規範的説明/関連的説明/実用的説明
第\章 資 料
    引用文献/引用文献各説/諺/語彙採録の資料




ISBN978-4-7924-1423-8 C3080 (2012.10) A5判 上製本 本文648頁・索引55頁 揃本体17,000円(索引のみは本体1,000円・分売可)
日葡辞書と森田武博士
京都教育大学名誉教授 大塚光信
 三十年あまりも前の事である。日葡辞書は、私にとって遠い遠い存在であった。それは一つにはポルトガル語ということばの壁、一つには手近かに披見しうる便宜に恵まれないという二つの理由からであった。したがって、日佛辞書の複刻があると聞いた時、早速に申し込んだ。実際に入手したのは昭和28年5月16日のことであったが、その書の奥付によると、昭和28年3月1日発行、三百部限定、定価四千円であった。ところが、それに附せられた土井忠生先生の解題は、当然のことながら、日佛辞書の日葡辞書との隔りに多くの筆が費されていた。こうなると、やはり日葡辞書そのものの影印が入手できたらと思うのが人情。やがて岩波書店からボドレイ文庫本の影印が刊行されたのは、奥付によると、1960年(昭和35年)12月のことであった。この本には、かの有名な「原本より以上の出来」という自賛の断り書きがついていたものの、不鮮明な箇所があまりにも多すぎた。それかあらぬか、書店は、岩波版「日葡辞書」難読語表(全56ページ)なるものを付録(非売品)として翌61年2月に発行した。全ページ森田武氏の端麗なる筆になるものであった。修正表はあるものの、一々参照するのは面倒なことである。この缺陥の解決を図ったのが勉誠社版日葡辞書であった。しかし、その初版(1973年5月)には、やはり「判読しにくい箇所」のために「参考写真」が附載されなければならなかった。そして、「一往の決定版」ができたのは、その再版(1975年2月)においてであった。ここにようやく、信頼にたる影印本日葡辞書を座右におき、容易に披見することができるようになったのである。
 ところが、影印本を座右においても、それを閲読するとなると、これまた容易なことではなかった。土井忠生・森田武・長南実『邦訳日葡辞書』の出現(1980年)はこの難解な辞書を国語学の世界だけでなく、他の各方面の人々にとっても身近かな存在とした。訳文はいうまでもなく、附せられた訳者注、引用文の出典注記、参照事項の指示など、日葡辞書を利用するうえでの必要事項が懇切に加えられている点、私はかつてこの訳書を「三人の先生方の、これ以上は望めないような至れり尽くせりの翻訳を得て、学界の共有物となった。われわれは、この上に宗教とヨーロッパの文化と現代の学問を同時に見ることができる……」(朝日ジャーナル、1980・9・5号)と評したことがある。邦訳作業の中心は森田武博士であった。博士はさらに利用者のために『邦訳日葡辞書索引』(1989年刊)を作られた。これらの作業を通して得られた日葡辞書についての博士の蘊蓄のすべてを懇切に説かれた本書は、利用されることのみ多く、読まれることの少ない日葡辞書についての専門書であるとともに、初学者の手引書としても有用な必読書であることはいうをまたない。日葡辞書と森田武、なるべくしてなったのが本書である。
 今回の再版に際して、川口敦子氏により『日葡辞書提要』でどのような語が取り上げられているか概観することができる『索引』が完成した。この索引により本書がますます利用され易くなることは、まことに喜ばしい限りである。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。