古代地名の研究事始め
山城・丹後の伝承・文学地名を中心に
糸井通浩著


古代の和語地名がどう漢字表記されたのか? 深い学識による文献の活用と、研究対象の地名の歴史と環境を理解する現地調査からの大著。京都に生まれ、丹後で育った著者が、一般的な地名論のみならず、山城や丹後にまつわるさまざまな和歌や伝承と地名の関係について、該博な知識を縦横無尽に駆使して解き明かしていく。



■本書の構成


Ⅰ和語地名の研究のために

 
 日本語の歴史と地名研究  
  難読・難解地名の生成(上)(下)

Ⅱ地名の諸問題

  「原」「野」語誌考・続貂
  地名(歌枕)の語構成―連体助詞「の・が」を含む地名
  古代音節「す・つ」をめぐる問題―「次」の訓をめぐって
  「あしずり」語誌考

Ⅲ京都・山城の地名を考える

  木簡にみる山城の郡郷名
  (参考)もう一つの「山背」
  (参考)乙方(おちがた)(宇治市)
  難読地名「一口(いもあらい)」と疱瘡稲荷
  (参考)一口(いもあらい)(京都府久世郡)
  (参考)稲荷(伏見区)
  五条(現・松原)という空間
  (参考)夕顔の宿
  「嵐の山」から「嵐山」へ―小倉山との関係をめぐって
  (参考)定家の山荘名―「小倉山・嵐山」考補遺
  三年坂(産寧坂)考―伝承と地名
  京の「アガル・サガル」(付イル)考
  (参考)地所表記のカタカナ―「上ル」か「上る」か

Ⅳ丹後の地名を考える

  木簡が語る古代丹後
  地名「間人」について―『はし』という語を中心に
  (参考)古代文学と言語学(抄)
  丹後の地名由来
  歌枕「大江山」考―小式部内侍の百人一首歌をめぐって
  山名「大江山」、丹後定着への道
  

  初出一覧
  あとがき―「糸井」という地名




  ◎糸井通浩(いとい みちひろ)…………京都府生まれ 京都大学文学部卒 京都教育大学・龍谷大学名誉教授




  本書の関連書籍
  糸井通浩著 日本語論の構築

  糸井通浩・神尾暢子編 王朝物語のしぐさとことば

  曽田文雄・糸井通浩編 私家集総索引

  糸井通浩著 谷間の想像力


 
◎おしらせ◎
 『日本歴史』第864号(2020年5月号)に書評が掲載されました。 評者 笹原宏之氏



ISBN978-4-7924-1443-6 C3081 (2019.4) A5判 上製本 334頁 本体8,600円

  
古代地名研究の成果と指導の書

三重大学名誉教授 鏡味明克  

 本書は京都府や京都市の地名を中心に、全国の地名を深く研究、論述してきた著者のこれまでの研究の一応の総まとめであり、「事始め」とは謙虚に書かれた言であるとともに、研究成果を基礎から述べて、広く教えようという考えからの題名と考えられる。目次の構成と概要は次の通りである。


 Ⅰ 和語地名の研究のために
  日本語の歴史と地名研究、難読・難解地名の生成、地名難読化の要因、枕詞と地名。

 Ⅱ 地名の諸問題
   「原」「野」、地名(歌枕)の語構成、古代音節「す・つ」をめぐる問題―「次」の訓をめぐって、地名に用いた「次」の字の読み、「三次」(みよし)「吹田」(すいた)の場合など、その他「す」「つ」交代例、タ行音・サ行音の音価の推移、丹後の古地名「久次」の探究、「あしずり」語誌考。

 Ⅲ 京都・山城の地名を考える
   木簡にみる山城の郡郷名、難読地名「一口(いもあらい)」と疱瘡稲荷、五条(現・松原)という空間、「嵐の山」から「嵐山」へ、三年坂(産寧坂)考―伝承と地名、京の「アガル・サガル」(付イル)考。

 Ⅳ 丹後の地名を考える
   木簡が語る古代丹後、地名「間人」について、丹後の地名由来(日置・朝妻…等)、歌枕「大江山」考、山名「大江山」丹後定着への道、丹後の「大江山」の異称と伝承、山名「大江山」の丹後への定着。


 糸井さんは京都生まれ、青少年期には丹後で育った。京都大学文学部で国語学・古典文学を専攻し、愛媛大学、京都教育大学、龍谷大学で国語国文学を教え、現在は京都教育大学と龍谷大学の名誉教授である。著書は『日本語論の構築』、エッセイ集『谷間の想像力』(ともに清文堂出版)のほか、綱本逸雄氏との共著『地名が語る京都の歴史』(東京堂出版)など多くの論著がある。

 糸井さんは京都地名研究会の現副会長であり、龍谷大学名誉教授の縁で、京都地名研究会の例会や講演会などの会場を龍谷大学に設営することが多く、研究交流の場造りの功労者でもある。

 糸井さんの論考には深い学識による文献の活用と、研究対象の地名の歴史と環境を理解する現地調査が研究の基盤となっている。

 古代の和語地名がどう漢字表記されたのかをくわしく学ぶことのできる大著である。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。