■近世東北地域史の研究 | |||||
渡辺信夫歴史論集第1巻 | |||||
大藤 修編 | |||||
戦後長い間、東北の近世史研究をリードしてこられ、2001年正月に急逝された渡辺信夫氏の遺稿論文集全2冊を大藤修・平川新両氏の編集により刊行する。 近世東北地域史の研究 目次 T奥羽仕置と大名権力 第一章 天正十八年の奥羽仕置令について/第二章 仙台藩の成立(文禄検地の問題点)/第三章 近世初期人返令の展開 U東北地域の国際関係と慶長遣欧使節 第一章 伊達政宗の国際認識/第二章 慶長遣欧使節の意味するもの(東北の国際化を考える) 皿流域と都市の地域史 第一章 東北の流域史/付論 酒田と石巻にみる港町の性格/第二章 近世都市の基本問題(地子免除と町検地) W地域経済の構造と動向 第一章 元禄の貨幣改鋳と領国貨幣の消滅/第二章 村山地方の石盛について/第三章 近世中・後期の米価動向について(地域米価の事例を通して)/第四章 江戸時代後期における農村市場の形成とその構造(羽州村山郡の紅花生産を中心として)/第五章 商業的農業における雇傭労働/第六章 明治初期石巻商社の研究 X幕未期の羽州村山地域と農兵 第一章 幕末の農兵と農民一揆/第二章 村山農兵制再論 Y地域概念の歴史的形成と自己認識 第一章 会津藩の自己認識/第二章 仙台圏の歴史的・文化的特性/付論 歴史に学ぶみやぎの将来 所収論文初出一覧/未所収関係論文一覧/著者略歴/あとがき−大藤 修 関連書籍 渡辺信夫歴史論集第2巻 日本海運史の研究 渡辺信夫編 宮城の研究 全8巻 大藤 修著 検証 イールズ事件 平川 新・千葉正樹編 都市と村(講座 東北の歴史 第二巻) |
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ISBN4-7924-0519-X (2002.7) A5 判 上製本 525頁 本体11,000円 | |||||
多面的な歴史研究と渡辺氏の学風 | |||||
山形大学名誉教授 横山昭男 | |||||
本書は戦後長い間、束北の近世史研究をリードしてこられた渡辺信夫氏(東北大学名誉教授)の遺稿論文集の一つである。渡辺氏の研究業績については本書あとがきに詳しく記されているが、その分野は、大名権力論、近世都市と商品流通、江戸後期の農業経営と農村市場、幕末の農民一揆など多岐にわたり、しかもそれぞれ学界でも注目すべき論文として発表されたものであった。編者はこれらの論文を、読者の便宜を考え、六つの部門にわけて編集している。 はじめの三部門は、近世成立期の諸問題が中心で、渡辺氏の研究業績の中では後期に属するものである。秀吉の奥羽仕置における検地方針について、仙台藩の成立と文禄検地について、また藩政成立期の人返し令に関する三論文は、これまでの諸研究に対する再検討を行い、幕藩制成立期の基本問題として、その意義を論じたもので、この基本問題の中には、近世大名が城下町建設にあたってだされた地子免除政策について、町の石高の有無との関係から、古くて新しい問題として提示した論文もある。東北地域の国際関係では、東北の王者伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節についてとりあげ、近世初頭における東北大名の独自性の再評価とその意義を説いている。近世の港湾都市としての酒田と石巻の特徴の対比も、現代的課題でもある地域社会の歴史的形成を分かり易く説いた提言の一つといえよう。 本書後半の、地域経済の構造と動向、幕末の農兵と農民一揆の部に収録した論文の大部分は、一九六〇年代はじめから七〇年代はじめに発表したもので、渡辺氏の業績の前期にあたる。元禄の貨幣改鋳と領国貨幣の消滅と羽州村山地方の石盛の問題は、幕藩制成立期の政治的問題であるが、その由来と意味について具体的に検討したものであり、他の論文は、近世中・後期における社会経済の構造とその変動についての地域に則した実証的な研究である。 ここに収録した米価動向、農村市場および商業的農業と雇傭労働に関する三論文は、最上紅花生産地帯の中心にあたる在町谷地や城下町山形の周辺の農村を対象としている。この地域は一九六〇年前後の歴史学研究会大会で、地主制、商品生産と在方商人、農民一揆をテーマにしばしばとりあげられたところであった。「商業的農業における雇傭労働」は渡辺氏が五九年度大会での報告をもとにまとめられた論文である。その中で渡辺氏は、紅花生産を中心とする農村には、農民の小商品生産が展開し、地主豪農から中小地主の農業経営まで、日雇労働が一般化している実態を指摘して、農村市場の形成を積極的に評価している。この評価については異論もあったが、渡辺氏の史料調査は徹底していた。この地域は渡辺氏の出身地でもあるが、農村史料の豊富なところである。その精力的な分析と論証にはまさに迫力もみられた。村山地方における農兵制の研究は、大学の卒業研究をその後再検討のうえ発表したものであるが、東北の農兵研究の先駆的なもので、その後これを大きく越えた研究はない。 さいごの部門の二つの論稿は、近年の歴史・文化運動又は地域史研究について、その基礎的間題となる地域概念を歴史的形成の視点から、会津と仙台を例にとりあげている。現代的課題への歴史家の提言とでもいうべきものである。 渡辺氏の諸論文には、多面的であるとともに、たえず基本的問題にたちかえり、そして豊かな実証性がみられる。しかも現代的課題への挑戦も積極的である。これらは渡辺氏の歴史学者としての学風とでもいうべきものであろう。新しい近世史研究、東北地域史の研究にたずさわるものに限らず、とくに東北の歴史・文化に関心をもつ方々にも広く活用されることを薦めたい。 |
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東北近世史研究の基礎を築く | |||||
山形大学人文学部教授 岩田浩太郎 | |||||
二〇〇一年正月に急逝された故渡辺信夫先生の遺稿論文集二冊が、大藤修・平川新両氏の編集により刊行される運びとなった。木書には、先生が多数執筆された近世東北地域史関係のご論稿のなかから主要なものが選ばれて収録されている。本書を通読してあらためて東北近世史研究における先生の足跡の大きさを痛感した。 本書の特色は、編者が立てたT〜Xの構成からあきらかなように、極めて多岐にわたるテーマに及んでいる点にある。と同時に、各論稿を貫く渡辺先生の研究の視点が鮮明に読み取れる。その主たるものは、統一権力ないし国家権力により実施された政治や政策、制度について、つねに個々の地域の歴史的具体的な状況に即してその意義を問い直す視点である。例えばTで、豊臣秀吉や幕府と奥羽の各大名の個別具体的な政治関係の違いにより太閤検地をはじめ初期検地の実施状況に大きな差異があったことを論証し、いわゆる太閤検地の基調論で近世初期の東北史を画一的に論じることに対して痛烈な批判を述べておられる。またUでは、イスパニアとの対等関係にもとづき新イスパニア(現メキシコ)貿易に参入し通商平和条約を提案した伊達政宗の国際認識の積極性を指摘され、鎖国に至る過程を国家史の視点からではなく地方大名と世界との関係から見直すことを提起されている。さらにVでは、山形や仙台城下町などの事例研究から町地の石高の意味を再検討し、石高制による土地把握原理は当初より町地には適用されなかったのではないかと堤言されている。Wでは、羽州村山郡の石盛が極めて擬制的なものであることを初期検地のあり方との関わりで検証し、石高制のフィクション性をはやく告発されている。これらの諸論稿は、土地制度をはじめ近世社会の基礎知識や基本概念をとらえ直す研究であり、かつ東北地域史の具体的な実態分析にとって不可欠な知見を築かれたものとして、今日なお重要な意義をもつものである。 W・Xに収録された羽州村山郡社会経済史に関する渡辺先生のご研究は、地域の旧家を訪ね歩き史料発掘を重ねながらご自身の研究者としての道を切り開かれた作品群である。若き日の渡辺先生の調査は、地元の古老の懐かしい思い出となっている。人間関係を築きながら地域史研究を実施していく醍醐味や学問的姿勢を、本書の若い読者に是非読み取っていただきたい。先生の卒論テーマであった農兵制に関するご研究や、農村紅花市場および日雇層の形成に関する実態検討から小ブルジョア経済の展開を惰熱を傾けて追求された諸論稿の実証性は高く、村山郡研究史の記念碑的な位置付けにある。先生が積極的に評価された中農層が堀米家をはじめとする地主豪農層といかなる関係にあるのか、地域社会構造の全体像をいかに把握すべきなのかなど、先生と議論をする機会は永遠に失われてしまったけれども、後進のわたしたちが先生の遺された業績に学びながら研究を発展させていかなくてはならないと思う。 本書が示すように、渡辺信夫先生が先鞭をつけられた論点は数多い。本書に収録された多岐にわたるご研究から、わたしたちは近世東北地域史研究に関する基礎的な知見を獲得でき、また今後の課題について貴重な示唆を得ることができる。 |
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編者から | |||||
東北大学大学院文学研究科教授 大藤 修 | |||||
元東北大学文学部国史学講座教授で東北大学名誉教授の渡辺信夫先生は、二〇〇一年一月一五日、急性の病魔に襲われ不帰の人となられた。享年六八歳であった。翌年に迎えられるはずであった古稀に向けて祝賀行事の準備が進められていた矢先であった。 東北の大地に生を享け、その風土に育まれて精神形成と人格形成をされた先生は、歴史研究の道に進まれてからも一貫して東北の地に根を下ろし、近世東北地域史研究に取り組まれてこられた。その特徴は、政治・経済・交通と都市・農村の動向を有機的に関連づけて把握し、その根底に流れる東北独自の論理を探り出し、東北の視座から日本近世史全体を見渡すことをめざされた点にある。したがって、その御研究は多分野にわたっているが、基軸をなしたのは交通・流通史研究であり、西廻り・東廻り海運と河川交通・陸上交通を連結して近世の交通体系全体を解明し、それとの関連において幕藩制的商品流通の形成と展開、および東北の都市・農村の動向を追究された。また、全国的な交通・流通が東北の生活文化に及ぼした影響にも目を向けられていた。 ただ残念ながら先生は、一九六六年に『幕藩制確立期の商品流通』( 柏書房)を上梓された後の御研究を、論文集という形に集大成する時間的余裕を得られないまま他界されてしまった。そこで、東北大学関係者が御遺族に相談して、先生の御研究を後世に伝えるために遺稿集を刊行する計画を立て、近世海運史関係と近世東北地域史関係の二冊の論文集を編むことにし、前者を平川新氏が、後者を大藤が分担することにした。 本書は、海運史関係を除いた近世東北地域史関係の論稿を大藤が通覧し、六つテーマを立てて編集したものである。もとより、先作御自身が編集されていたならば、これとは違った構成になったであろう。先生の意に沿うものであるかどうか、まことに心もとない。しかし、これだけ多様な柱となるテーマが立てられるところに、いかに先生が近世の東北地域史に多面的にアプローチされ、総合的に理解されようとしてきたかが、よく示されていよう。ただ紙幅の関係で収録しえなかった論稿も多い。それについては未所収関係論文の一覧を掲げておいたので、併せて御参照いただければ幸いである。 先生は常々、地域史研究が盛んであるにもかかわらず、いまだ地域の論理での歴史理解が劣っており、日本史全体を一つの論理で説明してしまう傾向が強いことを力説しておられた。本書が東北の学術・文化の発展のために、また地域史研究の一つの範として多くの人に活用されることを願ってやまない。 |
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渡辺信夫略歴 1932年山形県西村山郡北谷地村(現河北町) に生まれる。 1954年山形大学教育学部社会科課程卒業。 1957年東北大学大学院文学研究科修土課程修了。 1961年東北大学大学院文学研究科博士課程国史学専攻編入学。 1962年国立平(現福島) 工業高等専門学校講師に就任。 1967年文学博士の学位取得。学位論文は著書『幕藩制確立期の商品流通』。 1967年東北大学文学部附属日本文化研究施設助教授に配置換え。同文学部助教授に併任。研究・教育は国史専攻で行う。 1967年東北大学大学院文学研究科担当となる。以後、定年まで。 1975年東北大学文学部教授(国史第二講座担当) に昇任。 1989年東北史学会会長に就任(1995年10月まで在任) 。 1991年東北大学文学部長に選出される。同大学院文学研究科長・同文学部附属日本文化研究施設長を併任。 1995年定年により東北大学を退官。 1995年東北大学名誉教授となる。 1998年放送大学教授・宮城学習センター所長就任。 200I年逝去。享年68歳。内閣総理大臣より正四位・勲二等に叙され、瑞宝賞を授与される。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |