■律令兵制史の研究 | |||||
松本政春著 | |||||
軍事制度は国家権力に直結し、国家の特質はその国の軍制にあらわれるといってよい。内乱史の研究が盛んになったのにくらべ、立ち遅れている律令国家の軍制の研究水準を高める一書。 |
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ISBN4-7924-0522-X (2002.6) A5 判 上製本 328頁 本体8000円 | |||||
■本書の構成 序論 第一編 法と軍事指導 第一章 大宝軍防令の復原的研究/第二章 軍防令差兵条に関する二、三の考察/第三章 捕亡令追捕罪人条について/第四章 征夷使と征東使/第五章 郡司の軍事指導とその基盤 第二編 古代王権と軍事 第一章 天武天皇の信濃造都計画について/第二章 古代三関考−停廃記事をめぐって−/第三章 桓武天皇の鷹狩について 第三編 呪術・陰陽と軍事 第一章 広嗣の乱と隼人/第二章 恵美押勝の乱と寺奴/第三章 奈良朝陰陽師考−その軍事史的意義を中心に− |
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学界の水準を高める業績 | |||||
大阪市立大学名誉教授 直木孝次郎 | |||||
著者松本政春さんとは、大阪大学の井上薫氏や京都大学の岸俊男氏や私などが始めた「続日本紀研究会」での、二十五年来の友人である。松本さんは大阪教育大学の大学院を修了したあと、大阪の府立高校に務めながら、毎月二回ないし三回の前記の研究会に勤勉に出席しておられ、ともに古代史の研鑚に励んだ仲である。その松本さんが、このたび専攻された日本古代兵制史の論文集を清文堂から公刊される。まことにうれしいことである。 由来、軍事制度は国家権力に直結し、国家の特質はその国の軍制にあらわれるといってよい。しかし私のみるところ、八世紀のわが律令国家の軍制の研究は、内乱史の研究が戦後一九五〇年代から盛んになったのにくらべて、立ち遅れていると思われる。養老の軍防令、宮衛令、延喜の兵部式などで概略はわかるが、それは表面だけで、制度の意図や運営の実態などはわからないところが多い。松本さんは敢てこの困難な問題に取り組み、学窓を出て以来三十年、営々と築きあげた成果の論考十一篇をここに集成された。兵制史研究の水準を高める業績である。 さて本書の冒頭には、続日本紀・令集解・正倉院文書等、各種の文献で綿密に復原した「大宝軍防令」の研究が置かれている。実証的・基礎的である本書の特色を示すものである。以下軍事指導(指揮系統)に関する論文四篇、王権との関係にかかわる論文三篇、呪術・宗教に関する論文三篇である。 いずれも着実な研究であるが、中国・朝鮮との国際的関係を視野に入れ、一方、かつて地方豪族のもった伝統的な軍事的権力の存在も忘れてはいけない。郡司が軍事的指導権を持っていたという意表をつく指摘はこの観点から生れる。各論文の詳しい註が示すように、既往の研究に目配りのきいているのも本書の特色である。初学者にとってはよい手引きであり、年功を経た研究者も啓発されるだろう。 本書が世に広く読まれることを望む次第である。 |
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古代軍事史研究の新展開を喜ぶ | |||||
大阪教育大学教育学部教授 吉田靖雄 | |||||
本書は、松本政春氏が大阪府立高校に三十年あまり勤務しながら書き続けた諸論文に新作の論文を加えて一書にまとめたものである。 松本政春氏は一九七一年に本学大学院修士課程を修了し、その際提出した論文『律令軍団制の基礎的研究」は秀逸と評価され、その一部「大宝軍防令の復原的研究』は大阪教育大学『歴史研究』に掲載され、本書の巻頭論文になっている。松本氏の研究生活はここから始まり、以後は勤務の傍ら續日本紀研究会に参加して研鑚を続けられた。 私が大阪教大に赴任して二十年になるが、松本氏との付き合いも同年になる。この間卒業生らによる古代・中世史料の講読会に松本氏も出席し何回となく発表者になったが、そこで分かったことは、氏の史料に対する慎重な態度と先行研究に対する丁寧な取り扱いとであった。この慎重さと丁寧な態度は本書に一貫してながれている。 戦後の日本古代史研究についていえば、社会経済史の隆盛さに比べ、軍事史研究は極めて手薄であったといえる。私の貧しい知識では軍事史関係の研究書を持つ著者として、直木孝次郎・井上満郎・野田嶺志・笹山晴生・橋本裕の諸氏など数人の名を挙げうるにすぎない。軍事は財政とあいまって国家と政権を成立させる重要な要素であるから、その研究の深化が期待される分野である。このたびの松本氏の著作は、右の研究者らの驥尾に付すものであり、かつ新しい分野を開拓したと評価される一面を有していると思う。 それは「第三編呪術・陰陽と軍事」の項で、「広嗣の乱と隼人」・「恵美押勝の乱と寺奴」・「奈良朝陰陽師考−その軍事史的意義−」などの諸論考は、上記の研究者がほとんど注目していない分野であり、本書の独自にして最良の部分であるといってよいと思う。本書の刊行を喜ぶとともに江湖の読書人に一読をお勧めする次第である。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |