畿内戦国期守護と地域社会
小谷利明著
畠山氏とその支配地域を検討することで、新たな畿内政治史像を描くことに成功した。これによって、細川氏中心の戦国期畿内の政治史は終わりを告げることになるだろう。さらに、従来、別々の研究として扱われてきた本願寺・一向一揆・寺内町研究と守護権力研究を共通の土台の上で議論することに成功した。本書は、戦国期の政治権力、本願寺・一向一揆権力・寺内町・真宗教団に関心を持つ人々、研究者にとって必読の書物である。

ISBN4-7924-0534-3 (2003.4) A5判 上製本 396頁 現在、品切中です  
■本書の構成
序章
第一節 畿内領国化論と「大坂並」体制論
第二節 畿内戦国期守護文書論の課題
第三節 畿内地域論
第一部 戦国期守護文書論
第一章 戦国期の守護権力―判物の発給者
付論1 文書の文面は誰が決めるのか―「寺内」安堵文言をめぐって
第二章 奉書様式文書と奉行人文書―義就流畠山氏の河内支配
付論2 堀銭考―畠山義就の山城占領
第三章 守護近習と奉行人―政長流畠山氏の支配構造
付論3 室町前期の九条第修理と日根庄代官草賀国宗
第四章 国人・侍文書からみた軍事編成
第五章 守護権力と宗教権力―贈答文書論
付論4 戦国期の畿内守護文書の研究と展示
第二部 戦国期の畿内の権力構造
第一章 河内国守護畠山氏の領国支配と都市―畠山政長・義就期を中心に
付論1 戦国期の摂河泉の都市と民衆像をめぐって
第二章 畿内戦国期権力と真宗寺院―河内国渋川郡慈願寺を中心に
第三章 戦国期の河内国守護と一向一揆勢力
付論2 山城上三郡と安見宗房
第三部 京都近郊の村と地域
第一章 鞍馬寺と門前住人
第二章 中世後期鞍馬街道五ケ村の領有関係と地域結合
第三章 天文法華一揆の還住交渉―松ケ崎惣庄の政所と小百姓
第四章 土倉沢村について
あとがき
索引
地域研究の新たな展開
新潟大学人文学部教授 矢田俊文
 本書は、河内・紀伊・南山城・大和を支配下に置く守護畠山家とその守護代家・守護内衆家発給文書の徹底的な収集と分析により、畿内の戦国期権力、本願寺、一向一揆権力、寺内町を解き明かした論文集である。
 著者の小谷利明氏は、八尾市立歴史民俗資料館に学芸員として勤務し、河内の寺院文書の調査に努め、『真観寺文書の研究』(単著)、『慈願寺史』(真宗大谷派、共著)を公表している研究者である。
 一九七〇年代、今谷明氏によって、細川京兆家は、明応二年(一四九三)、クーデターで絶大な権力を握り、以後、畿内を領国としていったとする歴史像が打ち出された。この説に対しては多くの批判が出されたものの、今谷氏が描く畿内の政治史とはことなる歴史像を描くことができなかったため、この説は今日まで生き続けた。しかし、小谷氏は畠山氏とその支配地域を検討することで、今谷氏とはまったくことなる新たな畿内政治史像を描くことに成功した。これによって、細川氏中心の戦国期畿内の政治史は終わりを告げることになるだろう。
 さらに、河内を中心とした豊かな地域像を再現することにより、従来、別々の研究として扱われてきた本願寺・一向一揆・寺内町研究と守護権力研究を共通の土台の上で議論することに成功した。大坂本願寺を中核とした「大坂並」体制地域の基盤となる村は、守護権力の基盤となる村であり、守護と一向一揆勢力が対立するものであるという論の立て方では戦国期の社会は描けないことを明らかにした。本書により、河内など畠山分国は守護権力が弱く、そのため本願寺・一向一揆権力が自立し、巨大な権力となったという歴史の理解も消えることになるだろう。
 また、本書の古文書学を駆使した研究はすばらしく、家格論や守護内衆が段銭免除権・段銭徴収権をうることで地域権力化したという指摘は、今後の研究に大きな影響をあたえるものとなるであろう。
 本書は、戦国期の政治権力、本願寺・一向一揆権力・寺内町・真宗教団に関心を持つ人々、研究者にとって必読の書物である。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。