真宗教団の構造と地域社会
大阪真宗史研究会編

広い視野に立って、限られた史料の緻密な解読から、真宗教団の構造と地域社会にまつわる多くの新事実を炙り出す

■本書の構成
序  大澤研一
T部 真宗教団の構造
第一章 初期本願寺と天台門跡寺院  大田壮一郎
第二章 了源上人の教化と興正寺の建立  熊野恒陽
第三章 戦国期本願寺の堂衆をめぐって―大坂本願寺時代を中心に―  安藤 弥
第四章 戦国期真宗御坊の空間構造―大坂本願寺を中心に―  藤田 実
第五章 大坂退城後の坊主衆の動向―一六通の起請文からみた顕如・教如対立の一断面―  太田光俊
第六章 本願寺東西分派史論―黒幕の存在―  上場顕雄
第七章 近世における歎異抄に関する覚書―その依用と公開―  青木忠夫

U部 真宗教団と地域社会
第一章 大和平野南部における興正寺教線の伸展  岡村喜史
第二章 戦国期小浜の真宗  吉井克信
第三章 大坂本願寺戦争をめぐる一揆と地域社会  川端泰幸
第四章 雑賀一揆と雑賀一向一揆  武内善信
第五章 近世初期の都市大坂と真宗寺院―『大坂惣末寺衆由緒書』の分析を通して―  大澤研一
第六章 近世河内中本山真宗寺院の葬送とその存立基盤  木下光生
あとがき  吉井克信



ISBN4-7924-0589-0 C3021 (2005.8) A5 判 上製本 410頁 本体8500円
『真宗教団の構造と地域社会』刊行によせて
東洋大学文学部教授  神田千里
 中世・近世に、日本社会に真宗が重大な影響を与えたことは、戦国時代の一向一揆や、近世の東西本願寺教団の勢力を考えれば明らかといえよう。真宗の影響は社会の多岐にわたる部面に及んでいる。既に『寺内町研究』を継続的に刊行するなど、畿内の真宗についての研究を公にしてきた新進気鋭の研究者たちが上場顕雄氏を中心に「大阪真宗史研究会」を設立し、この度、真宗のこのような歴史的実態を解明するという作業にとりくんだ結果、本書が刊行されることになった。
 最大の真宗教団である本願寺教団を考えるには、教団内のみならず外部との交渉も考察する必要がある。本書では石山合戦などの際に行われた教団外の諸勢力との交渉を始め、場合によっては教団自体が、豊臣政権のような政治権力の内部抗争に巻き込まれるに至る為政者との交渉があり、特に為政者が行った城下町建設のような大事業によって、教団や僧侶・門徒関係のありようは多大な影響を受けたことが論じられている。
 また門徒の圧倒的多数が俗人として生活している以上、彼等の日常も教団を規定する大きな要素である。寺院や僧侶も、町人組織のような、門徒の属する社会集団と密接な関係をもち、教団組織にさえ、本山所在地を取り巻く地域状況が影響を及ぼすこともあったこと、またよく言われる都市や流通と真宗門徒との密接な関係、或いは寺院の空間構造、著名な『歎異抄』の流布や、寺院僧侶の葬礼も本書の中でとり扱われている。
 さらに本願寺教団自体、純粋培養で形成されたわけではなく、当初本所だった天台寺院も本願寺の歴史の要素であり、真宗諸教団、特に荒木門流の影響もある。初期本願寺の実態、また荒木門流から現れた仏光寺教団の初期の実態や鎌倉武士との関係、彼等の多くが本願寺派へ流入して形成された興正寺派についても、本書では考察されている。
 広い視野に立っての考察とともに、限られた史料の緻密な解読と、各地に散らばる法宝物の銘や史実に直接的にはつながらない由緒書等から断片的な情報を丹念に拾うという、地味で困難な作業に支えられた本書は、今後の学問的論議を呼ぶものと思われる。