共時方言学攷(きょうじほうげんがくこう)
−課題と方法−
神鳥武彦著


聞き手の目前で、方言は変容する。ことばを体系として捉えるには、同一の時間すなわち共時においてしかできないとした、1世紀前のソシュールの説をどのように受けとるべきか。筆者は、方言共時態を「機能的構造体」と捉えるべきだとする。この考えに基づいて、方言の音声・敬語・表現・語詞など体系の各事項とともに、方言認識や認知についても、共時的研究法追究の実践を行う。この結果から、「共時方言学」の体系を提示し、方言記述のあり方を述べる。


■本書の構成

序章 共時態認識とその問題点

第1部 発音の上に認められる変容
 発音事象とその課題/一集落における[ai]連母音の動態/音節・モーラ音素とアクセント/教育の普及と音変容

第2部 地域社会の敬体表現とその待遇心意
 敬態表現をささえる基底/述部における敬態表現法/対人認知と敬語形式の選択/敬語形式の選択に認められる話し手の許容期待度/敬語と敬語認識

第3部 表現と語詞との間
 文表現のレベルと語のレベル/あいさつ表現に見られる地方人の表現心意/親族語彙に認められる変容/非同居親族間における呼称/同居親族間における呼称/家称語彙/人相互の関係・呼称・命名と「場」

第4部 方言漢語語詞の世界
 地域ととしての漢語語彙/方言における漢語語詞の性格/方言漢語語詞の性格/広島県安芸郡熊野町方言における漢語語彙の性格/地域社会における漢語語彙の生活

第5部 方言と生活環境
 地域社会と方言語詞の認識・受容・使用/新居住地方言の需要/方言使用と生活環境/都市地域内の新形成集落と方言/方言語詞の受容と亡失

第6部 「方言」に対する好悪の意識
 特定地域の「方言」に対する好悪の意識/社宅居住者の「広島弁」に対する好悪の意識/自然発生的集落居住者の「広島弁」に対する好悪の意識/社宅居住者と自然発生的集落居住者との比較/方言意識と方言変容

終章 方言共時態の本質とその現象の相




神鳥武彦(かんどり たけひこ)……1929年広島県生まれ 広島大学名誉教授



ISBN4-7924-1350-8 (2001.7) A5 判 上製本 600 本体18,000
※上記のデータはいずれも本書刊行時のものです。