平安時代複合動詞索引
東辻保和・岡野幸夫・土居裕美子・橋村勝明編
本書は、平安時代に成立した仮名文学(物語18作品、日記・随筆10作品、和歌・歌謡22作品、説話6作品)56作品に含まれる複合動詞語彙を既発表索引を用いて、その構成要素からどの作品にどういう語があるかを検索できるようにした。巻末には「ジャンル別複合動詞語数一覧」「前項率・後項率一覧」「見出語一覧」「構成複合動詞数一覧」の別表を付して利用者の便を図った。




ISBN4-7924-1375-3 (2003.4) A5 判 上製本 478頁 本体13,000円
■本書の特色
索引
●平安時代に成立した文献(主として仮名文学作品)に用いられた複合動詞語彙を、その構成要素から検索できるようにした。
●調査の対象とした文献は次の56作品である。
物語…竹取物語 伊勢物語 大和物語 平中物語 落窪物語 宇津保物語 多武峯少将物語 源氏物語 夜の寝覚 浜松中納言物語 狭衣物語 栄花物語 大鏡 篁物語 堤中納言物語 源氏物語絵巻詞書 今鏡 とりかへばや物語 
日記・随筆…土左日記 蜻蛉日記 紫式部日記 枕草子 和泉式部日記 更級日記 讃岐典侍日記 梁塵秘抄口伝集 厳島御幸道記 高倉院昇霞記
和歌・歌謡…八代集(古今和歌集・後撰和歌集・拾遺和歌集・後拾遺和歌集・金葉和歌集・詞花和歌集・千載和歌集・新古今和歌集) 紀貫之全歌集 小町集 業平集 遍昭集 友則集 能因法師集 範永朝臣集 曾禰好忠集 道命阿闍梨集 紫式部集 和泉式部集 堀河院御時百首和歌 極楽願往生歌 梁塵秘抄
説話…三宝絵詞 法華百座聞書抄 今昔物語集 打聞集 宝物集 古本説話集

別表
●ジャンル別複合動詞語数一覧
ジャンルを「物語」「日記」「和歌・歌謡」「説話」の四分類とし、複合動詞を構成要素数により、二語・三語・四語の三分類でカウントした。
●前項率・後項率一覧
二語からなる複合動詞の構成要素のうち、前項率の高いものと、後項率の高いものを表にした。
●見出語一覧
本書索引に立項されている見出語一覧で、通し番号、見出語、構成要素ごとの複合動詞の語数を掲る。
●構成複合動詞数一覧
「見出語一覧」に基づき、構成する複合動詞の数の多いものから順に50位までを一覧する。

『平安時代複合動詞索引』の刊行を喜ぶ
名古屋大学教授 田島毓堂
 このたび、東辻保和先生をはじめとする方々の御編集により、本書が出版されるというご案内を得て、早速喜びの言葉を述べさせていただきます。
 本書は、平安時代の物語18作品、日記・随筆10作品、和歌・歌謡22作品、説話6作品に含まれる「複合動詞」と目される語を既発表の索引を用いてどの作品に、どういう語があるかを示したものであります。見出しに立てた動詞を含む複合動詞を示し、それを含む作品を一覧しております。
 例えば、「あかす (明・四)」は、「あかしかぬ」「あかしくらしわぶ」「あかしくらす」「あかしはつ」と前項に用いられ、「あかしかぬ」は「宇津保・源氏・寝覚・狭衣・厳島・高倉・拾遺・後拾」にあり、「あかしくらしわぶ」は「源氏」にあり、…といったように示されます。ついで「あかす」が語中や語末にあるものを、「あそびあかす」「いひあかす」…「おもひあかしくらす」などと示し、同様に、それを含む作品名を上げています。このような、見出しが、「愛す」に始まり「をんなぶ」まで、一、七二二項目有ります。その一覧表が、「見出し語一覧」として揚げられ、二要素の語、三要素の語、四要素の語と分けて語数が示されます。二要素の語については、それが、前項に来るもの幾つ、後項にくるもの幾つと示します。そして総計は二六、二三三、内、四要素の語は二四四、三要素の語は三、四一一、二要素の語は二二、五七八と多数です。面白いことに、二要素の語では、前項に来るもの、後項にくるもの共に正確に半分ずつなのです。もちろん語によっては、前後一方にしか来ないものがあります。「もて」「こぐ」は100%前項にしかきません。一方、「そむ」「をはる」「かぬ」「ます」は100%後項用です。それぞれ多数ある中でのことですから、説得力があります。こんなに、一方的でなくても、大多数が前項とか、後項というものもあり、その興味深い統計も示されています。そのほか、作品ごと、ジャンルごとの統計も示され、作品の大きさも関係しますが、源氏・今昔が三千語以上、宇津保二千語以上、一千語を超える語を持つ作品も他に7作品に及ぶことが分かり、興味津々たるものがあります。
 個々の語についてみても、百語以上の複合動詞形を持つものが、45項目あります。「あふ」309、「あり」131、「いだす」105、「いづ」355、「いふ」302、「いる・入四」177、「いる・入下二」115、「たつ・四」258、「たつ・下二」145、「とる」265などで、多いのは、「うつ」622、「おぼす」424、「おもふ」464などが目につきます。それぞれが前項に幾つ、後項に幾つと書かれています。
 日本語において、古くは複合動詞というものはなかったといわれることがあります。いくつかの根拠を上げて、単にそれらは動詞が連続したにすぎないというのです。連濁をしないということなどは必ずしもそうとは限らないと思いますし、本書に示されたように、語によって複合語において一定の位置的決まりのようなものがあることが示されれば、もはや単なる動詞連続だとばかりはいえなくなるのではないでしょうか。
 本書についてお聞きして、最初に思った事は、宮島達夫氏の『古典対照語い表』であり、同氏の「総索引への注文」という論文です。本書をお作りになるにも、それに勝るとも劣らぬご苦労があったと思います。ただ、一つだけ、無い物ねだりをさせていただくならば、それぞれの作品における延べ語数を示していただければと思ったことです。
 とにかく、近頃嬉しい本です。