松平定信政権と寛政改革
高澤憲治著


松平定信政権の成立と展開について、定信とその同志、一橋治済、御三家それぞれの連携と政権の樹立、勘定所職員に対する統制等について論述。さらに、定信政権の崩壊過程、及び白河藩政との関わり方についても検討する。




本書の構成

  序 章
第一部 松平定信政権の成立と展開
  第一章 松平定信の幕政進出工作
  第二章 御三家と一橋治済の提携
  第三章 田沼意次に対する追罰
  第四章 御三家による幕政参与と藩政
  第五章 寛政二年における幕閣首脳部と改革批判の高揚
  第六章 寛政三年“家格令”と勘定所統制

第二部 松平定信政権の崩壊と白河藩政
  第一章 大奥対策
  第二章 政権崩壊への道程
  第三章 白河藩政の動向
  第四章 政権崩壊前後における白河藩政
  第五章 寛政九年老中松平信明の勝手掛専管

 終 章



  高澤憲治(たかざわ のりはる)……1951年東京生まれ  高輪高等学校教諭・國學院大學非常勤講師


ISBN978-4-7924-0632-5 C3021 (2008.5) A5 判 上製本 508頁 本体11,500円
松平定信政権に関する精緻な研究書 
國學院大學栃木短期大学教授 深井雅海  
 寛政改革の研究は、第二次大戦後、津田秀夫氏などによって進められたが、その後は竹内誠氏により精力的に行われ、一九八〇年代以降、藤田覚氏など戦後生まれの研究者によって深められてきた。その有力な研究者の一人である高澤憲治氏は、一九八三年に勘定所統制に関する論文を発表されて以後、一貫して松平定信政権の研究に専念してこられた貴重な存在である。氏の研究スタイルは、幅広く史料を捜索し、その史料を丹念に読んで、精緻な研究を行うことである。これは、論文の丁寧な註を一見するだけでも明らかであり、氏の誠実な人柄をうかがわせる。
 寛政改革については、農政・商業・都市・外交・海防政策や朝幕関係に関してはかなり研究が進んでいるが、改革を推進した権力構成や、白河藩政との関係は意外に研究が少ないのが現状である。定信政権は、松平信明・本多忠籌などの同志の他、御三家と将軍実父一橋治済が強い発言権を行使している点に特徴があるが、彼らはそれぞれの思惑もあり、決して一体ではなかった。結局、そのことが定信の老中解任につながるわけであるが、本書では政権のあり方の変化が詳細に明らかにされている。また、白河藩政の実態や白河藩政と幕政改革との関わり方についても、具体的に考察されている。
 このように本書は、松平定信政権と寛政改革を研究する際の必読の文献である。是非一読をお薦めしたい。
 
寛政改革と松平定信のイメージを一新した研究
國學院大學教授 根岸茂夫   
 寛政改革は、近世史の重要な課題であり、社会変革の画期としても注目され、数多くのすぐれた研究成果が存在する。ただし、その多くは農政や経済政策・都市政策・対外関係、最近では朝幕関係などを詳細に分析し、そこから改革の性格や歴史的な位置づけを論じており、松平定信政権下の政局を本格的に検討した研究は少なかった。そのようななかで、高澤憲治氏は、定信政権の内部構造と政局運営を追究した唯一の研究者といっても過言ではなかろう。  
 高澤氏は、水府明徳会彰考館文庫に存する寛政改革前後の御三家・御三卿の往復書簡、定信の家老服部半蔵の日記『世々之姿』などの新史料を駆使して、定信の周囲にあった田沼意次・一橋治済・御三家・松平信明・本多忠籌や大奥などの動向と思惑、政権の内部や政局の展開を詳細に論じた。また半蔵の日記を通して、理想的と称された白河藩政の実態を明らかにし、虚像を排した。その克明さは、研究書というより実録を読んでいるような部分すらある。本書の刊行により、寛政改革の研究は一段階進むだけでなく、渋沢栄一『楽翁公伝』以来の高潔な青年宰相・名君という定信のイメージも大きく変わるはずである。  
 氏は、國學院大學、学習院大学大学院を修了したのち、東京の私立高校で教鞭をとりながら長年にわたり研究を続けられ、一貫して定信政権を追究した。本書はその貴重な成果であり、近世史研究者はもちろん、多くの人の目に触れることを願うものである。
 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。