尾張の絵画史研究
吉田俊英著




本書の構成

第一章 総論・名古屋の絵画史
  第一節 名古屋の近世絵画前史/第二節 狩野派/第三節 土佐派と復古やまと絵/第四節 浮世絵派/第五節 南画(文人画)派/第六節 京派/第七節 江戸の宗教美術/第八節 美術の広がりや変質

第二章 尾張藩社会と絵画の展開
  第一節 狩野派の絵師たち/第二節 町絵師たち

第三章 浮世絵と風俗画
  第一節 名古屋の浮世絵作家たち/第二節 上方役者絵『翠釜亭戯画譜』の作者について/第三節 北斎来名以前の名古屋(尾張)浮世絵画壇/第四節 牧墨僊再検証/第五節 尾張の挿絵画家たち

第四章 南画(文人画)
  第一節 尾張の南画/第二節 丹羽嘉言と尾張初期南画の状況/第三節 山本梅逸研究序説/第四節 雲煙過眼〜画人・伊豆原麻谷の生涯〜

第五章 郷土の美人画
  郷土の・美人画・考



  ◎吉田俊英(よしだ・としひで)……1949年仙台市生まれ 東北大学文学部卒 現在、奈良県立美術館副館長


ISBN978-4-7924-0663-9 C3071 (2008.11) A5 判 上製本 442頁 本体9,400円
 一都市、あるいは一国(藩)の中に、狩野派、土佐派・復古やまと絵、南画(文人画)派、浮世絵派、円山四条派・岸派など、江戸時代を彩った画派のほとんどが出揃うのは、江戸、京都、大坂以外ではあまり見られないことである。それだけ名古屋あるいは尾張地域の日本絵画史に占める位置は重要であり、またそれらの各画派を支えていた人々や美意識が、しっかりと江戸尾張社会に根付いていたということも出来る。
 本書は学芸員である著者が三十年にわたって調査し、発表して来た尾張(名古屋地域)の絵画に関する論文集であり、また尾張絵画史の入門書としても機能するように編集してある。先行する尾張の絵画史に関する著書、田部井竹香『古今中京画談』(明治四十四年刊)や、服部徳次郎『図説中京書家画人考』(昭和四十九年刊)、『愛知書家画家事典』(昭和五十七年刊)などの成果を受け継ぎつつも、それらとは異なる、実作品を基本においた視点で組み立てた研究書である。
 名古屋城の築城に始まる狩野探幽らの江戸狩野派の影響下に生まれた、狩野派と武士が中心の初期尾張の絵画は、その後、江戸中期に京都からの新しい風を受けて南画と肉筆浮世絵の画家たちを生み出した。やがて経済や交通の発展もあって、画家や享受層が成熟して来た江戸後期には、復古やまと絵の田中訥言、浮田一宸轣A南画の中林竹洞、山本梅逸ら、浮世絵の牧墨僊、森玉僊らの代表画家によって黄金期を迎える。そして幕末から明治にかけて多くの画派が衰退する中で、京派のみが輝きを見せ、やがて新時代の美術学校卒業生たちによって近代の絵画が切り開かれて行く。それは江戸、上方双方の影響を受けつつも、東でもない、西でもない尾張地域独自の文化圏をも意識させる。
 いくつもの地方(地域)の美術史を撚
(よ)って太い太い綱になってこそ、もしくは、それらが多彩なままに存在してこその「日本美術史」。それを目指すささやかな第一歩でもある。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。