■中部の産業 | |||||
構造変化と起業家たち | |||||
安保邦彦著 | |||||
起業家から企業家へ。名古屋を中心とする中部地域に視座を据え、幾多の起業家の軌跡を検証する。激動の潮流を読み解き、いまの“ものづくりのメッカ”を築いた企業群を解き明かす。 本書の構成 江戸時代から明治まで 第1章 徳川時代の治水、用水と干拓 治水と用水/新田開発 第2章 江戸時代までの産業 陶磁器の興り/繊維(木綿)の興り 第3章 名古屋城築城 名古屋城と堀川/清洲越えの商人/御扶助町人の誕生/御用達商人の誕生 第4章 尾張の産業の興り 知多の起業家達/尾張の綿業/生糸、絹織物/加藤民吉が九州へ 第5章 明治維新のころ─揺れる尾張藩─ 第6章 殖産振興の要は繊維 絹、綿業の官営模範工場/民営紡績会社の勃興/中部の動き 明治時代 第7章 近代産業のめばえ 時計製造の開始/楽器の製造/鉄道、港湾の整備/基幹産業の芽吹き/電燈会社の興り 第8章 近代化への基盤整備 名古屋商業会議所/電気鉄道の始まり 第9章 商工業の発展 豊田佐吉にみる起業家精神/日本陶器の興り/名古屋に大隈製麺機商会/車両製造の始まり/織機、木工機械、自転車など/名古屋瓦斯会社の設立/御園座の興亡/新聞界の動き/百貨店事情/トマト製品の始まり 大正時代 第10章 名古屋政財界と「三角同盟」 九日会の発足/稲永遊郭疑獄事件 第11章 明治末期から大正期の産業界 第一次世界大戦で息吹き返す/各種産業の勃興/電気製鋼および製鉄と航空機/伝統産業と金融業の発展/1920年代の産業動向/名古屋の米騒動 昭和・第二次世界大戦前 第12章 自動車の国産化 自動車前史/関東大震災/国産車推進の動き/中京のデトロイト構想 第13章 トヨタ自動車の動き 豊田佐吉の“一人一業”の考え/豊田自動織機製作所の設立/佐吉の死/自動車の研究開始/自動車の事業化を正式決定/わが国自動車政策の転換/トヨタ自動車工業の誕生/戦時統制強まる/戦時下の生産と終戦へ/終戦まで 第14章 第二次大戦前までの航空機産業 三菱重工業と愛知航空機の誕生/航空機産業を支える協力工場群/空襲の広がりで工場は壊滅へ/終戦へ 昭和・第二次世界大戦後 第15章 第二次大戦後の経済復興 財閥解体/復興の原動力となった諸工業/ドッジラインと朝鮮特需/トヨタ自動車の危機/本田技研工業の誕生と西野新兵衛/西濃運輸の歩み 第16章 復興から自立経済へ 中京地区の二輪車事情/繊維産業の動向/陶磁器業界の動向/機械工業の動向/1950年代前半からの産業界の動き/放送界の動き 第17章 高度成長期へ 臨海工業地帯の出現/四日市石油コンビナートと公害/ものづくりのメッカへ/同族経営の功罪/スーパーの台頭/第一次および第二次石油危機(オイルショック)/航空機開発 昭和から平成へ 第18章 日本経済の転換期─円高時代へ─ 第19章 時代のトピックス 松坂屋の社長解任劇/名古屋オリンピック招致の失敗/日本ガイシの排ガス浄化用フィルター/リニア中央新幹線/瀬戸の陶磁器業界における円高影響/次世代産業と東海地区の堅実経営 第20章 バブル経済の崩壊 バブル経済の成立ち/株、土地のバブル/バブル崩壊で金融、証券の再編成始まる/非自民党政権の誕生/金融機関の破綻/大型金融機関の再編成へ 第21章 五摂家の変容と名古屋マーケットの特徴 五摂家の変容/名古屋マーケットの特徴/ポスト万博、中部国際空港開港後の展望 別録 豊田家の家系図について/中部産業史の年表/引用・参考文献 |
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ISBN978-4-7924-0664-6 C0060 (2008.11) A5 判 上製本 338頁 本体3800円 | |||||
過ぎし時代が中部の未来に繋がる | |||||
名古屋大学総長 平野眞一 |
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私の育った愛知県半田市周辺には、多くの山車が現存する。5年に一度、これらの山車が半田市の中心地に集結し、からくり人形の技を一堂に披露する催しがある。また、人形師の九代目玉屋庄兵衛氏と知己も得ており徳川時代からの人形師の技が現代のロボットや車などの組立て産業の発展へとつながっているという説にはうなずける。 中部地区には、トヨタ自動車をはじめとして、セラミックスなどの森村グループ、カゴメ、ミツカングループ、ヤマザキマザックなど時代を先取りしながらシェアを広めた先駆的な企業が多い。しかし、これら企業の創業のいきさつや、創業者の生き様、その後の経営危機をどうやって乗り越えたかなどは意外に知られていないと思う。それは、それぞれの企業には、長く歩んできた道があり、それを誰もが自然に理解することはできないから当然であろう。 一方で、明治以来、昭和20年代まで当地を支えてきた産業は、繊維、陶磁器、自転車、ミシン等の軽工業であるが、時代が進むにつれて機械、輸送機器、鉄鋼など重化学工業の割合が高くなっている。こうした産業の構造変化を知るためには、前述した先駆的な企業の歴史と同じように何らかの知識の入力が必要になる。 さて、今日という時代は、過去の蓄積の上に成り立っている。未来を見据えるには、今日までをより良く振り返ることから始まる。その意味で、中部の明日を考える時にその遺産が濃縮されている本書は、未来に繋がる書であると思う。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |