日本中世付加税の研究
永松圭子著


日本の中世に成立した多様な付加税が、近世になって口米に帰着する流れは、どのように理解すべきだろうか。この問いを念頭に置きつつ、古代中世移行期から近世初頭を対象に、付加税の考察を試みる。


■本書の構成

序 章 付加税の研究史と課題
第一章 平安時代の前分と付加的徴収法
第二章 鎌倉時代の年貢付加税  ―口米・莚付・数(員)米の検討―
第三章 中世前期の交分と収納慣行
第四章 交分と斗出
付 論 中世の衡制と斤  ―長寛元年「飛騨国調所解」を中心に―
第五章 単 米 考
第六章 鎌倉時代後期の付加税と収納法  ―保立道久氏の所論を中心に―
第七章 中世後期の付加税
第八章 付加税をめぐる紛争と太閤検地口米令
終 章 中世的付加税の成立と終焉




  ◎永松圭子(ながまつ・けいこ)……1952年大阪市生まれ 大阪大学大学院文学研究科後期課程単位取得退学 園田学園女子大学・関西学院大学等非常勤講師



ISBN978-4-7924-0691-2 C3021 (2010.3) A5判 上製本 338頁 本体7800円
『日本中世付加税の研究』の刊行をよろこぶ
大阪大学大学院文学研究科教授 平 雅行
 中世荘園における租税負担は、主に年貢と公事であったが、それ以外にもさまざまな付加税が付随していた。荘官得分として認められた定率の莚付や交分のほか、年貢計量の際に莚に残った米を沙汰人の得分とした莚払などがある。
 付加税というと些末なもののように思うが、荘園によっては年貢額の七割もの付加税を徴収している。その負担は決して軽いものではなく、付加税の減免を求めた農民闘争まで起きている。それだけにその実態を解明することは、日本の中世社会を考察するうえで基本的な前提となるが、なにぶん史料が断片的なこともあって、その全容は不明なままであった。
 そうしたなかにあって永松圭子氏は、十五年にわたって史料を丹念に収集し、厳密にそれらを精査した。こうして氏は、口米・交分・莚付・数米・装束・竈米・庭物など、多様で複雑な中世の付加税の全貌を明らかにすることに成功した。本書の登場によって、私たちはようやく荘園民衆の租税負担の全容を見通すことが可能となった。本書の研究史的意義は非常に大きい。
 それだけではない。永松氏は、律令制下の付加税から中世への付加税への歴史的転換過程を具体化された。さらに氏は、太閤検地によって中世的付加税が整理され、近世では三%程度の定率の口米に収斂したと述べている。この労作によって、私たちは古代から中世、そして中世から近世への付加税の歴史の全体像を展望することが可能となった。
 篤実な研究者の静かな情熱と志によって、今ここに日本中世史の重要な欠落が埋められようとしている。本書は、荘園史・社会史・村落論はもちろんのこと、中世史一般に関心をもつ人々がひもとくべき労作である。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。