古代日韓造瓦技術の交流史
清水昭博著



第2回住田古瓦・考古学研究奨励賞受賞
古代日本と百済の造瓦技術・生産体制を比較検討することから、その交流の実態を明らかにする。



■本書の構成

  序 研究の課題と本書の方法

第1部 日本の造瓦技術と初期瓦生産体制 

  第1章 飛鳥寺式、斑鳩寺式軒丸瓦の成立と展開
  第2章 奥山廃寺式、豊浦寺式軒丸瓦の成立と展開
  第3章 船橋廃寺式軒丸瓦の成立と展開
  第4章 初期瓦窯の造瓦技術 
隼上り瓦窯を例として
  第5章 初期瓦窯の操業体制 
隼上り瓦窯と楠葉平野山瓦窯
  第6章 初期瓦生産期の造瓦技術と生産体制

第2部 百済の造瓦技術と瓦生産体制
 
  第1章 熊津、泗時代の素弁蓮華文軒丸瓦の系統とその展開
  第2章 百済における「大通寺式」軒丸瓦の造瓦技術
  第3章 消費地からみた泗時代の瓦生産 
軍守里廃寺を例として
  第4章 泗時代の瓦窯における生産と技術 
亭岩里窯跡を例として
  第5章 百済の造瓦技術と瓦生産体制

  結 論 古代日本と百済の造瓦技術と瓦生産体制
       


  ◎清水昭博(しみず・あきひろ)……1966年宮崎で生まれ、京都で育つ 大阪市立大学文学部史学地理学科卒業 橿原考古学研究所主任研究員、同研究所附属博物館主任学芸員をへて、現在 帝塚山大学人文学部准教授・博士(文学・大阪市立大学)



ISBN978-4-7924-0964-7 C3021 (2012.3) A5判 上製本 374頁 本体9,500円

   静かな情熱

大阪市立大学名誉教授・特任教授 栄原永遠男

 今から約20年前の1991年(平成3)1月に、本書の著者、清水昭博氏は、甎仏を素材にして寺院建築内部の壁面装飾のあり方を検討した卒業論文を提出した。

 それは、当時知られていた甎仏の事例を、日本や中国についてできるかぎり集め、出土状況や甎仏の形状を粘り強く分析し、些細な小片からも大きな構想を導きだしたものであった。卒論演習における発表で、だいたいの内容は事前に把握していたが、それをよくまとめ、優れたものに仕上がっていた。

 その後の清水氏の足跡を考えると、この卒業論文が氏の研究者としての最初の扉を押し開けたことはまちがいない。最初の論文には、後になってふりかえってみると、不思議にその人の原点が現れているものだ、とはよく言われることであるが、わたくしには、この論文と本書とは二重写しに見える。

 第1部「日本の造瓦技術と初期瓦生産体制」では、飛鳥寺や隼上り瓦窯などの寺院跡や瓦窯跡出土の瓦を厳しく観察し、製作技法にとどまらず、生産体制の解明にとり組んでいる。これを受けて、第2部「百済の造瓦技術と瓦生産体制」では、百済に舞台を移して、韓国における研究もよく消化しつつ、瓦の製作技法や生産体制を解明した。そして、結論「古代日本と百済の造瓦技術と瓦生産体制」で、両者を比較しつつ、その系譜関係を的確に指摘している。

 清水氏は、本書で、主として百済と日本の造瓦技術の交流がどのようにして行われたのか、瓦の生産体制にはそれぞれどのような特徴があるのか、その実態を軒瓦そのものの徹底的な検討を通じて明らかにした。資料収集の徹底ぶり、分析の粘り強さ、国際的な目配りその他は、清水氏の生来のものである。

 清水氏は、いつも柔和な顔をしていて感情をあらわにすることは少ない。しかし、その内面は情熱に満ちていることをわたくしは知っている。その静かな情熱が産み出した良質の作品として、本書を推薦したい。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。