■中世日本海の流通と港町 |
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仁木 宏・綿貫友子編 | |||||
北陸においては、放生津を除き、守護所が置かれた中世の有力な港町から近世城下町への展開が図られていくという特徴に着目し、これらの港町の形成と展開を地形などさまざまな角度から具体的に解明する7本の論考と、陸奥国十三湊から石見国益田に至る港津12ヶ所について個々に概説したコラム【港町をめぐる】で構成する。 ■本書の構成 序 章 中世港町における寺社・武家・町人 ―北陸を中心に― ……仁木 宏(大阪市立大学) 第一章 越後府中の復元と変遷……中西 聰(上越市教育委員会) 【港町をめぐる】奥州津軽十三湊……榊原滋高(五所川原市教育委員会) 【港町をめぐる】出羽酒田……山口博之(山形県立博物館) 第二章 中世放生津の都市構造と変遷……金三津英則(射水市教育委員会)・松山充宏(射水市教育委員会) 【港町をめぐる】越中岩瀬……古川知明(富山市教育委員会) 【港町をめぐる】越中氷見……大野 究(氷見市立博物館) 第三章 中世三国湊の通行税をめぐる相論とその背景……綿貫友子(大阪教育大学) 【港町をめぐる】越前三国湊……赤澤徳明(福井県埋蔵文化財調査センター) 【港町をめぐる】越前敦賀……外岡慎一郎(敦賀市立博物館館長) 第四章 中世港湾都市小浜の成立……下仲隆浩(御食国若狭おばま食文化館) 【港町をめぐる】丹後府中……伊藤 太(京都府文化財保護課) 【港町をめぐる】因幡布施……岡村吉彦(鳥取県立公文書館) 第五章 中世山陰の流通と港町……長谷川博史(島根大学) 【港町をめぐる】出雲杵築・宇龍……井上寛司(島根大学名誉教授) 【港町をめぐる】石見温泉津……目次謙一(島根県古代文化センター) 第六章 室町・戦国期における港町の景観と微地形 ―北陸の港町を事例として― ……山村亜希(愛知県立大学) 【港町をめぐる】石見浜田……榊原博英(浜田市教育委員会) 【港町をめぐる】石見益田……木原 光(益田市教育委員会) ◎おしらせ◎ 『日本歴史』813号(2016年2月号)に書評が掲載されました。 評者 高橋慎一朗氏 |
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ISBN978-4-7924-1024-7 C3021 (2015.3) A5判 上製本 320頁 本体8,200円 | |||||
都市論と流通論、政治・宗教権力の問題の総合研究 |
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東京都立大学名誉教授 峰岸純夫 |
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以前には「裏日本」という言葉があり、日本列島の太平洋側の「表日本」に対して日本海側をこのように表現していた。これは表に対して裏というマイナーな地域という印象はぬぐいえなかった。しかし、前近代とりわけ中世では、日本海側の沿岸部は、中国・朝鮮との交流や荘園公領制を支える流通システム、あるいは民間の水上交通による物流などの拠点となる多くの重要な港町を抱え込み、日本列島の表舞台の繁栄した地域として機能していた。 本書は、このような日本海流通の拠点としての港町に注目し、都市論と流通論、そして地域の政治・宗教権力の問題を串刺しにして考察した大きな総合研究の成果であると思う。 編者である綿貫友子氏の解題と仁木宏氏の序章(北陸の港町と寺社・武家・町人の考察)に続いて、中西聰(越後府中)、金三津英則・松山充宏(放生津)、綿貫友子(三国湊)、下仲隆浩(小浜)、長谷川博史(山陰地域)、山村亜希(港町の景観と地形)など各氏の論考が続く。さらに、「港町をめぐる」という特論ともいえる解説では、前記の論考に漏れた港町十二か所の詳細な紹介記事を掲載している。すなわち、港と執筆者各氏は次のとおりである。 奥州津軽十三湊(榊原滋高)、出羽酒田(山口博之)、越中岩瀬(古川知明) 越中氷見(大野究)、越前三国湊(赤澤徳明)、越前敦賀(外岡慎一郎) 丹後府中(伊藤太)、因幡布施(岡村吉彦)、出雲杵築・宇龍(井上寛司) 石見温泉津(目次謙一)、石見浜田(榊原博英)、石見益田(木原光) 総じて、港湾の立地・自然環境、流入する河川との関係、そこに展開する漁業・水運業の特質、それを支える都市的・港湾的諸施設、守護や戦国大名など政治権力の館や城郭、展開する寺社勢力とその宗教施設、などなどが論者による重点の置き方は若干異なるものの詳細に叙述され、また、自然的・経済的・政治的条件による発展・衰退などの諸段階が示されている。自然的条件の中には、土地の隆起・沈降、土砂堆積、自然災害などによるものがある。また、文献史料のみでなく発掘された考古資料(遺構・陶磁器・木簡など)などによってもその裏付けがなされている。 流通関係では、綿貫氏が三国湊を中心に水運通行税賦課相論をとりあげ、流通権益をめぐる諸権門の対立を検討し、廻船の抑留問題や新関停止令の問題にも触れている。 全体として、優れた港湾都市研究となっており、日本海側の方々のみならず、各地域の多くの方々の参考に供され、このような総合研究が太平洋岸、瀬戸内海などの港湾都市について引き続いてなされることを期待したい。さらには、日本国内はもとより東アジア世界との水運・流通問題(往復の積荷)の解明につなげていって欲しいと思う次第である。 多くの方々が本書を携えて、船に乗った気分で、これらの港町への旅をしていただければ幸いである。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |