■中国の監獄改良論と小河滋次郎 |
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孔 穎著 | |||||
中国刑獄の悪名は西洋列強に中国内政への干渉に大きな口実を与えることになり、清末監獄改良運動への大きな推進力となった。本書では、中国における監獄制度の近代化に関して、いかに日本を模範として西洋的な監獄制度を導入したかについて解明する。なかでも、近代日本監獄学の木鐸である小河滋次郎が、どうして清末の監獄改良の事業に多大な情熱と熱望をかけたかについて詳述する。 序………松浦 章 序 章 清末中国における日本監獄制度受容研究の課題と展望 第一編 清末中国における西洋近代監獄制度の啓蒙 第一章 西洋人が見た明清時代の中国監獄 16、17世紀のポルトガル人の伝えた中国監獄のイメージ 啓蒙時代の批判 パークスと清国監獄 宣教師の影響 「蘇報事件」と「沈尽事件」の刺激 第二章 中国官民が見た19 世紀後期の西洋監獄 19世紀後期における清末中国官民の西洋監獄視察 清末中国官民の西洋監獄視察の特徴 19世紀後期における中国官民の西洋監獄視察の役割 第三章 清末中国における監獄改良論の高揚 清末中国における西洋獄制の早期文献 清末中国の先駆知識人による監獄改良論の創始 清末新政時期の新聞紙上に見られる監獄改良論の高揚 第二編 清末中国における日本監獄視察の潮流 第一章 清末中国官民の日本監獄視察の概論 19世紀後半の清末中国官民の日本監獄視察 20世紀初期の清末中国官民の日本監獄視察の潮流 20世紀初期の清末中国官民の日本監獄視察 第二章 清末直隷官紳の日本監獄視察 清末中国における法政人材の需要 直隷官紳の日本監獄視察の類型 日本監獄視察と直隷監獄改良 第三章 清末中央政府派遣の日本監獄視察団 清末中央政府派遣の日本監獄視察団の時代背景 清末中央政府派遣の日本監獄視察団の経緯 清末中央政府派遣の日本監獄視察団の成果 第四章 1906年中国地方政府連合派遣「調査日本監獄員」――浙江省を中心に 1906年浙江省官派「調査日本監獄員」 浙江省「調査日本監獄員」の在日活動 浙江省「調査日本監獄員」の帰国事跡 第三編 清末中国語訳された日本監獄学書籍の動向 第一章 清末中国語訳された日本監獄学書籍の書目 清末における日本監獄関係書籍の中国語訳一覧 日本監獄学専門書類の訳書 百科全書類の日本監獄学訳書 第二章 清末中国語訳された日本監獄学書籍の著者と訳者 清末中国語訳された日本監獄学書籍の著者 清末中国語訳された日本監獄学書籍の訳者 第三章 清末中国語訳された日本監獄学書籍の伝播 中国語訳された日本監獄学書籍の販売方法 中国語訳された日本監獄学書籍の出版広告 地方官吏の法政受験参考書 清国皇帝及び高官への贈呈 第四編 小河滋次郎と清末中国の監獄改良 第一章 小河滋次郎と清国留学生 法政大学の法政速成科 東斌学堂 東京警監学校 第二章 小河滋次郎の監獄学中国語訳本 小河滋次郎の履歴 小河監獄学著述の中国語訳本 第三章 小河滋次郎と1906年清政府派遣の日本監獄視察団 清国視察団の日本監獄協会への訪問 小河滋次郎と帰国した清国視察団成員との交流 第四章 清末獄務顧問としての小河滋次郎 監獄管理の人材の育成 京師模範監獄の設計 大清監獄則草案の編定 「清国の獄制」の記録 終 章 清末中国における日本監獄制度受容研究の意義 付録一 清末における中国官民の西洋監獄視察の一覧表 付録二 清末における中国官民の日本監獄視察の一覧表 付録三 清末中国語訳された日本監獄学書籍の目次 ◎孔 穎(こう えい)……1971年中国浙江省杭州市生まれ 浙江大学人文学院大学院修了 現在、浙江工商大学日本語言語文化学院副教授 博士(文学・関西大学) ◎おしらせ◎ 『史学研究』(広島史学研究会)第299号(2018年3月号)に新刊紹介が掲載されました。 評者 堀 優馬氏 |
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ISBN978-4-7924-1038-4 C3022 (2015.3) A5判 上製本 382頁 本体8,500円 | |||||
近代中国の監獄改良と小河滋次郎 |
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本書は、中国における監獄制度の近代化に関して、いかに日本を模範として西洋的な監獄制度を導入したかについて論述している。清末までの中国監獄の劣悪な状況については、古くは16世紀の宣教師たちの記録からもうかがえる。とくに19世紀後半に渡来した使節や新聞記者によって世界に晒された。中国刑獄の悪名は西洋列強に中国内政への干渉に大きな口実を与えることになった。これが清末監獄改良運動への大きな推進力となった。 日清戦争を契機に、中国において、古くから日本を見下してきた見方は大きく変化した。そこで、監獄視察団の派遣、留学生の派遣、日本監獄学書籍の翻訳、日本人の獄務顧問の招聘など主に4つのルートで、清政府は明治日本を見本に本格的に監獄改良を実行していくのである。 本書では、まず、第一編において、清末中国における西洋の近代的な監獄制度がどのように中国の人々に認識され、旧態の監獄制度の問題点を啓蒙したかを述べる。第二編においては、清末中国における日本監獄視察の潮流に関して究明している。特にあまり注目されてこなかった清末地方政府の日本視察派遣の一例として、直隷官紳を取り上げ、日本監獄視察の時代背景、視察類型、視察成果に分け、中国近代化における日本視察の影響を検討した。 日本監獄制度の受容法として、視察のほかに、書籍の翻訳も見落とせない役割を果たした。当時、日本や中国では監獄関係の漢訳本が多数出版されていた。そこで第三編においては、清末中国において中国語に翻訳された日本監獄関係の書籍について、その内容だけにとどまらず翻訳にたずさわった中国人留学生のはたした役割も明らかにする。大隈重信の『開国五十年史』が清国皇帝に贈呈されていたことなどにふれながら、漢訳本が中国国内にあたえた影響についても解明することを目指した。 最後に、近代日本監獄学の木鐸である小河滋次郎と清末中国の監獄改良の関係を論究した。中国人留学生の教育機関であった法政大学法政速成科・東斌学堂・東京警監学校の存在に注目しながら、小河と沈家本ら清政府との関係、さらに、小河はどうして清末の監獄改良の事業に多大な情熱と熱望をかけたかについても探究している。 今年は、本書の主人公の一人である小河滋次郎氏の逝去90周年にあたる。この中国であまり知られていない日本人の功績を多くの読者に知っていただくことを願うとともに、「監獄制度」という限られたテーマではあるが、近代の日本と中国との関係史研究に寄与できれば幸いである。 |
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(孔 穎) |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |