■「満洲国」農事改良史研究 | |||||
海 阿虎著 | |||||
政治が中心であったこれまでの「満洲国」研究の中で欠けていた技術的な観点からの研究。実態が解明されていなかった旧満蒙地域の土地関係と労働関係を読み解くことからはじまり、日本人当局者の実態調査報告書を用いて北海道農法の導入や大豆、綿花、緬羊の品種改良といった具体的な事例を検討する。農事改良のあり方と実績、さらに戦後の国民党、共産党当局の評価から農事改良政策の意義と限界を明らかにする。 ■本書の構成 序 章 本書の課題と構成 本書の課題 分析の対象地域 本書の構成 第一章 「満洲国」興安南省のモンゴル人農村社会 ―科爾沁左翼中旗第六区郎布窩堡村を事例に― 東蒙古について 東蒙古地域の農耕化 郎布窩堡村における土地関係 郎布窩堡村における労働関係 第二章 農法の改良と普及をめぐって ―北海道農法と満洲在来農法― 営農問題と在来農法への批判 北海道農法の導入と普及実績 満洲在来農法と北海道農法の合理性 第三章 大豆の品種改良と普及をめぐって 農政機構と農事試験研究機構 品種改良の沿革 品種の特性 改良大豆の原種生産 改良大豆の奨励普及と実績 第四章 棉花の増殖・品種改良と普及をめぐって 満洲国の棉花増殖政策と実績 海城県における棉花の増殖 棉花の改良と普及 第五章 緬羊の品種改良と普及をめぐって 緬羊品種改良と普及の要因 緬羊品種改良の沿革 改良緬羊の普及奨励 終 章 総括と今後の課題 まとめ 農事改良の歴史的な意義 今後の課題 ◎海 阿虎(ハイ アフウ)……広島大学大学院文学研究科博士課程後期修了 文学博士 現在、内モンゴル師範大学歴史文化学院講師 |
|||||
ISBN978-4-7924-1081-0 C3021 (2018.6) A5判 上製本 326頁 本体7,800円 | |||||
現場の視点から――本書が持つ意義 |
|||||
広島大学文学研究科教授 勝部眞人 |
|||||
海 阿虎氏は、満鉄調査など日本側の史料を駆使しつつ、自身の郷里を含む旧「満州」地域の農事改良事業を丹念に分析している。言うまでもなく、農業は自然・風土に大きく左右されるものであるから、文字史料がどれほど充実していてもその行間を読み取れないこともしばしばある。 その意味で、現地の気候・風土に通じている海氏が、農事試験場などによる改良施策の結果を読み解いたことの意義は大きいと考える。加えて、同地の重要農産品であった大豆や綿花、緬羊の品種改良に関する歴史像を、初めて具体的に明らかにしたことは、日本の学界に大きく裨益するとも考える。政策は、現場の実態・功罪を見てはじめて評価され得るのであるから……。同時に、日本語史料を深く読み込み詳細に実証している点で、中国国内における研究水準をも大きく凌駕していると思う。 本書は、海 阿虎氏によって初めてなし得る一書であったと言える。 海 阿虎氏は、内蒙古師範大学で学んだ後、島根大学生物資源研究科の伊藤康宏教授のもとで修士号を取得した。その後松江市内で社会人を経験して、広島大学文学研究科博士課程後期に入学してきた。研究に対する姿勢・手法は、伊藤教授のもとで鍛えられてきたため、その点では私が指導する必要は全くなかった。とにかく研究に対して貪欲であった。必要とあればどこにでも調査に出かけ、旧「満州」の農事試験場で技術改良・指導に当たっていた方のところにも出向き直接話を聞いている。 いっぽうで、彼にはもう一つの想いがあった。内蒙古地方では本格的に日本史学を学べる機会がなく、できればその橋渡し役になりたい……ということである。学位取得後縁あって母校で教鞭をとることになったのは、本人にとっても大きなチャンスであったのだが、逆に日本史学そのものにとっても大きな意味を持っているように思われる。 ともあれ海氏にとって、本書は言うまでもなくゴールではなく、今後に向けての出発点となるものである。ただ、そのメモリアル作品が斯様に充実したものとなったことを、素直に喜びたいと感じている。 |
|||||
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |