■中世語彙語史論考 |
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小林賢次著 | |||||
「質問表現の類義語をめぐる論考」「類義語の史的考察」「否定推量・否定意志の表現」「文体と資料」の4部構成。類義表現の差異を論じ、〈類義語(表現)〉という一本の筋が、著者の仕事とその魅力を余すところなく伝える。 ■本書の構成 T 質問表現における「聞ク」とその類語 第一章 狂言台本における「聞ク」と「問フ」「尋ヌル」 第二章 「聞ク」と「尋ヌ」の語史 ―古代語における〈質問〉の意味の成立をめぐって― 第三章 「聞ク」と「尋ヌ」の展開 ―中世における〈質問〉の意味の拡大をめぐって― 第四章 質問表現における「聞ク」と「問フ」「尋ヌル」 ―室町時代から近世前期上方語まで― U 類義語の史的考察 第五章 セハシ(忙)の成立とセバシ(狭) 第六章 オソロシ(恐)とコハシ(怖・強) ―狂言台本における様相― 第七章 コハシ(怖)の成立と展開 ―中世から近世前期上方語まで― 第八章 「物狂(ぶっきゃう)」と「軽忽(きゃうこつ)」 ―狂言台本における使用状況を中心に― V 否定推量・否定意志の表現 第九章 院政・鎌倉時代におけるジ・マジ・ベカラズ 第一〇章 院政・鎌倉時代における否定推量・否定意志の表現 ―ジ・マジ・ベカラズの周辺― 第一一章 「ベシトモ覚エズ」考 第一二章 室町時代における否定推量・否定意志の表現 W 文体と資料 第一三章 反語表現における文語性と口語性 ―元和卯月本謡曲と大蔵虎明本狂言とを比較して― 第一四章 中世語資料としての『一遍上人語録』『他阿上人法語』 ―モノクサ・サバクル・イロフなど― 第一五章 清原宣賢系論語抄について ―書陵部蔵「魯論抄」の本文の性格をめぐって― 付 章 一 富樫広蔭自筆本並びに自筆書入本『詞玉橋』について 二 〔書評〕出雲朝子著『中世後期語論考』 三 〔書評〕染谷裕子著『お伽草子の国語学研究』 四 「日本語学」名著との出会い 〈編集後記〉・索 引 ◎小林賢次(こばやし けんじ)……1943年 群馬県生まれ、新潟県十日町市で育つ。1970年 東京教育大学大学院文学研究科日本文学専攻博士課程中退。博士(文学)。東京都立大学名誉教授、元早稲田大学教育・総合科学学術院特任教授。佐伯国語賞を受賞(1985年) ◎おしらせ◎ 『日本語の研究』第13巻第1号(2017年1月)に書評が掲載されました。 評者 大倉 浩氏 |
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ISBN978-4-7924-1433-7 C3081 (2015.6) A5判 上製本 398頁 本体9,000円 | |||||
「イデ、小林賢次ヲ読マウゾ」 |
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明治大学教授 小野正弘 |
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小林賢次氏の『中世語彙語史論考』が刊行される。タイトルは、「語彙語史」なのであるが、実際の内容は、「質問表現の類義語をめぐる論考」「類義語の史的考察」「否定推量・否定意志の表現」「文体と資料」という四テーマに関する十五章が並ぶ。が、それでは、本書は、いわゆる「論文集」なのかというとそうではない。「否定推量・否定意志の表現」とは、すなわち「ジ」「マジ」「ベカラズ」「ベシトモ覚エズ」を中心とした類義表現の差異を論じたものであるし、「文体と資料」も、反語の類義表現、中世法語における類義語、『論語抄』諸本における本文異同を扱ったものであるから(当然、類義的な異同が多くなる)、全体に、〈類義語(表現)〉という一本の筋がすっと通っている感を抱かしめる。これは、著者小林氏が、広汎な視野を持ちつつも、その焦点となるべきものを常に意識して研究を進めていることを意味するのではないか。けだし、「類義」とは〈共通性〉と〈差異性〉のもたらすものであって、その研究は、まさに「言語記号」研究の本道である。 各論考を読み進めていくと、対象となる語・表現について、必ずと言っていいほどその用例数が明示され、表として整理されていることが目をひく。その数は、ときに四桁にもなるが、ひるまない。きちんと用例を数えて確認し、表を仕立ててその様相を見通す。このような地道な手順を厭わず、律儀に研究のおおもととなるものを確定する。まさに研究のお手本である。 用例は精読して、その意味するところを十分に把握し、諸本による異同にも目を配り、必要とあらば、原本の影印を参観する。注釈書を参考にしつつもむやみに信ずることなく、誤りと見られるところは、きちんと正す。結論は、いたずらに先を急がず、自分の都合のいいように枉げない。まさに研究のお手本である。 研究とはこうすればいいのだ、こうすべきなのだ、ということが得心できる一書である。しかも、論中に教訓やお説教めいたものはない。淡々と自ら信ずる分析と論述の手順を進めるのみである。だから、安心して読める。だから、安心して言える。「イデ、小林賢次ヲ読マウゾ」。 また、本書には、「付章」と題して、四本が収められている。『詞玉橋』の解説と、書評二本、そして、小林氏が出会った名著の紹介である。とりわけ、四本目の「「日本語学」名著との出会い」は、氏が出会った日本語学(国語学)の名著を紹介しつつ、みずからの研究履歴を語ったものであり、興味深い。 さらに、〈編集後記〉には、小林賢次氏の著述目録が掲載されていて、資料的な価値も高い。著書十九冊(共著も含む)、論文・書評九十五本の目録は見るものを圧倒する。そして、掉尾をかざる小林千草氏の解説は、本書全体の総まとめであるとともに、ときに知られざるエピソードを含み、本書の理解をさらに深める。 以上、本書は、小林賢次氏の仕事とその魅力を余すところなく伝えた書である。中世語研究者のみならず、日本語史研究者のみならず、日本語の研究者に広くお薦めしたい。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |