■講演録で読む 中国地域の戦国時代史
岸田裕之著


長年にわたる講演の積み重ねから、中国地域の戦国時代史の大きな課題にそって俯瞰する。地域各地の特色ある戦国時代史、また歴史文化遺産の保存史、あるいは時代の社会構造や社会動向を描き出す史料(用語)のおもしろさ等々について考え思索するにふさわしい一書。




■本書の構成


第Ⅰ部 古文書の地域性を考える

第一章 大名領国関係史料の調査と研究 
―写本と原文書の差異―
  花押/封と形態/『閥閲録』『譜録』に含まれない家わけ原文書


第二章 地域研究と歴史観
  前史:「中国」の成立/「書違」/「日本国王之印」・「通信符」(右符)/戦国時代の戦法/戦国大名の「国家」の成立/後史:秀吉の「天下」のもとの「国家」へ

附録 中世文書のことば



第Ⅱ部 地域社会を考える

第三章 境目地域の領主連合 
―盟主・毛利元就の国家づくり―
  前史:「中国」の成立と境目地域/連合の盟主から統合者へ/硝石の輸入外交と西国大名の自立性/毛利元就が遂行した戦争と直轄領支配/後史:「天下」のもとの毛利氏「国家」へ


第四章 備北の国衆の戦国時代史
  山内氏と毛利氏の盟約、そして服属へ/杵築相物親方坪内氏の活動

第五章 石見国衆連合と大名たちの室町戦国時代史
  室町時代の国人連合/益田氏と毛利氏/吉川元春の動向/益田氏と吉見氏

第六章 戦国大名毛利氏の周防国東部支配 
―段銭催徴のあり方からみた―
  「周防四郡段銭奉行」について/防長段銭の未収と対策/段銭徴符にみる郡司と元就直臣/湯川元常の諸活動と郡司たち/惣国検地と周防国


第七章 備作地域の戦国最末期史 
―「中国戦役」を考える―
  備中戦線の攻防/褒美はどのように用意されたか/硝石/一、二、三の解析をふまえて/戦国大名の自己決定権の喪失/宇喜多氏の「国家」は


第八章 因伯地域の戦国最末期史 
―潟湖のある「境目」地域を考える―
  備中戦線の攻防/戦術と郷村/褒美の約束/潟湖の領主・山田重直

附録 戦国時代の交流



第Ⅲ部 歴史遺産を考える

第九章 世界文化遺産 厳島神社
  保存史の視座/厳島/文化財保存史の断面/世界遺産条約と公衆(国民)の役割/「ユネスコ憲章」(一九四五年十一月十六日)から考える

附録 厳島いろいろ



  ◎岸田裕之
(きしだ ひろし)……1942年岡山県生まれ 広島大学名誉教授 文学博士



 著者の関連書籍
 松岡久人著/岸田裕之編 大内氏の研究

 岸田裕之著 大内と幕府 毛利と織田 境目地域の領主連合


 ◎おしらせ◎
 『日本歴史』第870号(2020年11月号)に書評が掲載されました。 評者 石畑匡基氏



ISBN978-4-7924-1447-4 C1021 (2019.11) A5判 上製本 398頁 本体8,500円

  
刊行にあたって

 本書は、この二十年間に各地で行った講演のうち、そのあと講演録として刊行されたもののなかから、書名に即して選んで構成したものである。

 こうした著作の刊行は、かねて期待しなかったわけではないが、何よりも主催者がその記録を作成するかどうかという事情に左右される。講演会等が開催され、語る機会にめぐまれても、主催者がその記録を刊行することは稀であった。主催者にとっては負担がともなうものであり、それぞれの企画がもつ諸事情のもとでは必ずしも可能なことではなかった。実は私自身も講義録を作成しようと進めたことがあった。試みてはみたものの、それはテープ起こしからして手間を要する仕事であり、その負担を思い、中途で断念せざるをえなかった。それゆえに主催者のこうした事情は十分にうかがわれた。

 それでも在職中に少しずつではあるが、講演録はふえ、そして近年になって各地での講演のうち年に一つは記録が刊行され、その積み重ねによって、中国地域の戦国時代史について、それぞれの地域がもつ大きな課題にそってほぼ俯瞰できる状況になってきた。もはや先延しする意味もなかろうと思い切り、新稿を加え、まとめて刊行することにした。

     *     *     *

 人間が生活する地域は、支配の重層性や日常の横のつながりのなかで事柄ごとに多様なあり方をとる。築き上げられた固有の歴史・文化は、自然景観・生態系、産業、祭礼・行事などとともに、地域づくりの資源・資産であり、それは本来地域が自立的に新しいものを生み出す知恵と力をもっている。それらに関わる講演会等の開催、その記録集の刊行、それらによる広報・普及は、総合的な地域振興策との連携を強く意識し、先を見すえた長期事業として継続的に取組み、不断に発展させていくことが関係者には求められている。

 歴史はそれほど単純ではないが、調査・研究を重ね、価値を見極めた諸遺産が公開され、地域づくりの貴重な資源・資産として有効に活用されるならば、それによって自覚された地域の誇りや尊厳は、“敬意を込めた見学”と相互に響き合って創造的に展開すると思われる。

 そのためには、先を見通した地域づくりの総合的な構想のもとに関係性ある諸事業を個々的確に位置づけ、一つ一つ着実に実施していくことが求められる。

 多くの読者を得て、中国地域各地の特色ある戦国時代史、また歴史文化遺産の保存史、あるいは時代の社会構造や社会動向を描き出す史料(用語)のおもしろさ等々について考え、あらためて自らの生活地域に立ちかえって先人の営みに向き合い思索していただければ幸いである。
  (岸田裕之)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。