日本の経済発展をどうとらえるか
坂根嘉弘・森 良次 編著


日本の経済発展をどうとらえるか? これまでの通説的理解とは異なる独創的な視点、考え方、見方による経済発展の構図を提示。製造業、金融市場、農業、東アジア経済それぞれの分野で、国際的な視座のもと独自の議論を展開し、克服すべき課題を提示する問題提起の一冊。




■本書の構成


はじめに……坂根嘉弘

第1章 複層的経済発展の論理 
―生産組織の選択の視点から― …… 谷本雅之

第2章 日本経済の歴史と金融……高槻泰郎

第3章 日本伝統社会からみた近代日本の経済発展……坂根嘉弘

第4章 東アジアからみた日本の経済発展……堀 和生

第5章 西南ドイツの相続慣習と「居つきの工業化」 
―西洋経済史からのコメント― ……森 良次

第6章 「満洲国」期の中国東北における中小金属企業・機械器具企業 
―日本経済史からのコメント― ……松本俊郎

補論1 「日本型勤勉」に関する覚え書き 
―司会コメントにかえて― ……勝部眞人

補論2 討論者・フロアからの質問に答えて




  坂根嘉弘(さかね よしひろ)……1956年生まれ 広島修道大学商学部教授
  森 良次(もり りょうじ)……1968年生まれ 広島大学大学院社会科学研究科教授




  編者の関連書籍
  坂根嘉弘著 日本戦時農地政策の研究

  坂根嘉弘著 アジアの中の日本





ISBN978-4-7924-1448-1 C0021 (2019.10) 四六判 並製本 226頁 本体1,600円

  
新たな地平を切り開く

広島大学大学院文学研究科教授 中山富広  

 『日本の経済発展をどうとらえるか』、本書が提示するテーマは古くて新しい問題、つまり、日本経済史分野の永遠の課題である。しかもそれは、ますます進む経済のグローバル化の流れにあって、私たちの生き様にも関わる今日的意義を持つテーマでもある。本書は、平成三十年十二月、広島大学東千田キャンパスで開催された社会経済史学会中国四国部会大会のシンポジウムを一冊にまとめたものである。社会経済史学会の一地方支部組織である中国四国部会が、このような大きなテーマで、しかも東京、京都、神戸から一線級の研究者を招いてシンポジウムを開催したことは特筆すべきことである。

 第1章「複層的経済発展の論理―生産組織の選択の視点から―」(谷本雅之氏)は、生産技術や労働力供給構造の特性などの組み合わせによって、近代日本の製造業は多様な生産組織を生み出したこと、そして戦間期以降も都市部で中小工業が発展したことを実証し、「複層的経済発展」の持つ意味を問いかけたものである。第2章「日本経済の歴史と金融」(高槻泰郎氏)は、日本の金融市場、すなわち経済成長を促すための融資・資金調達は明治以降だけではなく、近世期においても大坂豪商を扇の要とした大名貸しなどを通じて、金融市場が形成されていたことを論じたものである。第3章「日本伝統社会からみた近代日本の経済発展」(坂根嘉弘氏)は、「家」永続の希求と高い信頼関係が醸成されていた「村社会」が日本の経済発展を支えたこと、そしてこれを社会関係資本(social capital)の議論と結び付けて論じることの有効性を問うている。第4章「東アジアからみた日本の経済発展」(堀和生氏)は、台湾と朝鮮・韓国においても膨大な農民と非農業自営業、零細中小商工業と近代大経営が併存した経済発展がみられたことを分析し、谷本・坂根報告が指摘した日本の経済発展と多くの共通点があることを論じたものである。

 以上が当日のシンポジウムのメイン報告であった。いずれもさすがに刺激的な問題提起であり、当日フロアで拝聴していた小生には理解できない点も多々あったが、今あらためて拝読して視界が開けた思いを抱いた。

 この四報告に対して、森良次氏と松本俊郎氏のコメントが当日なされたが、本書ではコメントに加え、ご専門の立場から論説を新しく書き下ろされ、本書をより厚みのあるものにしている。それが本書第5章「西南ドイツの相続慣習と『居つきの工業化』」(森氏)と、第6章「『満洲国』期の中国東北における中小金属企業・機械器具企業」(松本氏)である。さらに当日司会を務められた勝部眞人氏が「『日本型勤勉』に関する覚え書き」(補論1)を寄稿されている。

 思えば、当日のシンポジウムは午前九時から正午過ぎまでであった。これほどの陣容が揃えば三時間では短すぎた。フロアからもたくさんの質疑が出された。本書では報告者の回答も収められており(補論2)、報告者が意図された事柄などがわかりやすく説かれている。「日本の経済発展をどうとらえるか」、これから歴史学を学ぼうとする学生諸君や研究者をめざす院生諸君にもぜひ一読を薦めたい。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。