大和川の歴史
土地に刻まれた記憶
安村俊史著


大和川の誕生から現代までを概説する。とりわけ、大和川の付け替えに際しての中甚兵衛の実像を明らかにする章は圧巻。



■本書の構成


第一章 大和川のあけぼの
  大和川の誕生/古墳の出現まで/前期古墳と大和川/渡来人と大和川

第二章 古代の大和川
  大和川水運と裴世清/難波より京に至る大道を置く/奈良時代の行幸路/竹原井離宮と大和川/河内大橋と大和川/万葉集と大和川/由義宮と大和川/和気清麻呂の大和川付け替え

第三章 大和川付け替え前史
  天井川となる大和川/大和川付け替え運動と幕府の検分/河村瑞賢の治水工事/大和川付け替え運動の転換/付け替え反対派の動き/大和川付け替えへ/なぜ大和川は付け替えられたのか

第四章 大和川の付け替え工事
  付け替え前の測量/付け替え工事の設計/わずか八か月の大工事/発掘成果からみた付け替え工事/旧川筋の新田開発/旧川筋のかんがい/新川流域村々の苦悩

第五章 大和川をめぐって
  大和川付け替えと中甚兵衛①/大和川付け替えと中甚兵衛②/国役普請と自普請/付け替え後の洪水/国分村の洪水対策/新田の土地利用/近世大和川の舟運/亀の瀬の地すべり/災害と大和川/汚染から水遊びへ



  ◎安村俊史
(やすむら しゅんじ)……1960年大阪市生まれ 柏原市立歴史資料館館長



  著者の関連書籍
  安村俊史著 群集墳と終末期古墳の研究




ISBN978-4-7924-1468-9 C0021 (2020.3) 四六判 並製本 269頁 本体2,600円
 大阪平野は、淀川と大和川によって生み出された。なんども洪水を繰り返しながら、大量の土砂を運んできて平野を造ってきたのである。しかし、淀川に比べて、大和川が話題になることは少ないように思う。一般の方々の関心が薄いだけでなく、研究も乏しいのである。それは、研究の基礎となるべき史料が少ないことが最大の原因である。

 わたしが勤務する柏原市立歴史資料館では、平成四年(一九九二)の開館以来、秋季企画展で大和川の付け替えをテーマにした展示を実施してきた。平成一六年(二〇〇四)には付け替え三〇〇周年を迎えた。三〇〇周年の際には、関係博物館・資料館と大和川水系ミュージアムネットワークを結成し、各館の学芸員と議論を重ねた。そして、中甚兵衛を中心とする百姓らの付け替えを求める運動が盛り上がり、最後には幕府をも動かして付け替えが実現したという通説を見直す必要があるのではないかと考えるようになった。

 私自身は考古学を専門とする身であり、近世の文献を扱った研究を十分にできるものではない。しかし、大和川付け替え地点を地元にもつ資料館であること、毎年企画展を実施していることから、少しでも研究を進めようと努力してきた。その成果が本書である。みなさんが、大和川の歴史に関心をもっていただければ幸いである、そのために、本書は大和川の付け替えが中心ではあるが、それだけでなく、大和川の誕生から現代までを概説することにした。

 最初から順を追って読んでいただくと大和川の歴史がたどれるような構成になっているが、最初から読んでいただくのもよし、気になる項目を拾い読みしていただくのもよし。さまざまな利用ができるように工夫したつもりである。手元に置いて、ご活用いただければ幸いである。
 (安村俊史)   
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。