中世後期播磨の国人と赤松氏
前田 徹著


中央の権門諸家や寺社の所領が濃密に分布し、豊かな史料に恵まれた播磨国。地道な史料原本の調査からの鮮やかな作業、また地域の自然および歴史地理的な条件への丁寧な目配りを踏まえて、播磨国守護〈赤松氏〉と〈播磨の国人〉が、どのように地域社会の中に根を下ろしているのかという観点から、政治的存在としての彼らの有りようを問う。




■本書の構成


序 章 播磨守護赤松氏研究史
  はじめに / 一 南北朝~室町期の赤松氏研究 / 二 第一部収録論文の位置づけ / 三 戦国期の赤松氏と国衆・国人研究 / 四 第二部収録論文の位置づけ

第一部 南北朝期の播磨赤松氏

第一章 赤松円心の花押と関係文書の筆跡
  はじめに / 一 円心花押の三類型 / 二 円心花押の経年変化 / 三 年欠文書の年代比定 / 四 本文の筆跡から――越前島津家文書の軍忠状三通 / おわりに /〔写真図版〕

第二章 播磨国竹万荘と赤松円心の遺領配分
  はじめに / 一 竹万荘の領域 / 二 赤松一門の所領配分をめぐって / 三 竹万荘の伝領をめぐって /  おわりに /〔地図〕

第三章 観応の擾乱と赤松則祐
  はじめに / 一 家督継承前の則祐 / 二 光明寺合戦とその後 / 三 範資の死 / 四 則祐の南朝転属 / 五 赤松次郎左衛門尉の直義随行 / 六 赤松宮 / 七 南北朝仲介 / 八 則祐の南朝転属と家督継承 / おわりに

補論 史料紹介 飾西系図 
―東京大学史料編纂所影写本より―
  はじめに / 一 初代清真 / 二 飾西氏の本領 / 三 永兼と承久の乱 / 四 播磨国御家人 / 五 守護赤松氏と飾西氏 / 六 系図の伝来 / 七 笛の伝承 / おわりに /〔影写本図版〕/〔本文翻刻〕/〔系図部翻刻〕

第二部 室町・戦国期播磨の国人と赤松氏・地域社会

第四章 戦国期における播磨国広峯社相論
  はじめに / 一 肥塚盛信置文にみえる広峯社相論 / 二 天文相論の背景 / 三 近世文書からみた永禄相論 / おわりに /〔写真図版〕/〔史料翻刻〕

第五章 播磨国広峯社相論と赤松氏・小寺氏
  はじめに / 一 赤松氏と広峯社相論 / 二 小寺氏と永禄相論 / おわりに

第六章 中・近世宍粟の産業と安積氏
  はじめに / 一 中世宍粟の産物 / 二 山の領主 安積氏 / 三 近世安積氏と安積館 / 四 近世宍粟の産業 / おわりに

第七章 中世摂津・播磨の港津と海運 
―『兵庫北関入船納帳』を中心に―
  はじめに / 一 古代~中世前期の港津と『入船納帳』の港津 / 二 港津をめぐる変化の背景 / 三 室町中期における摂播港津の相互関係 / おわりに



  ◎前田 徹(まえだ とおる)……1972年東京都生まれ 大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学 現在、兵庫県立歴史博物館学芸員


ISBN978-4-7924-1474-0 C3021 (2021.7) A5判 上製本 422頁 本体9,500円

  
前田徹氏の新著『中世後期播磨の国人と赤松氏』を推薦する

神戸大学大学院人文学研究科教授 市沢 哲  

 中央の権門諸家や寺社の所領が濃密に分布し、豊かな史料に恵まれた播磨国は、重要なフィールドとして数多の中世史研究に取り上げられてきた。播磨国研究は、中世日本の歴史像の形成に大きな影響を与えてきたと言っても過言ではない。前田徹氏の新著は、かかる意味を持つ播磨国中世史研究を大きく前進させる成果として注目される。

 本書の特徴の一つは、可能な限り史料原本を調査し、それに基づいて研究がなされていることである。例えば、原本調査から赤松円心の花押の編年を割り出し、それに基づいて文書の年紀と花押の編年が齟齬する文書群を特定して、文書作成の経緯を考える、といった鮮やかな作業は、地道な原本調査の賜物であろう。

 また、播磨国に関する地域史料を博捜し、近世史料や系図類を積極的に活用しているのも本書の特色である。播磨国の大社、広峯神社における内部対立、それへの守護赤松氏や小寺氏の関与のあり方を地域の近世文書を援用して明らかにした仕事は、説得力に富んでいる。のみならず、使われた地域史料は、必要に応じて写真や全文翻刻が掲載されており、今後の播磨国研究に貢献するところ大である。

 加えて特筆すべきは、地域の自然地理および歴史地理的な条件に丁寧な目配りがなされていることである。読者が地理的なイメージを想起しやすいように、前田氏が作成した地図も多く収録されている。従来あまり注目されてこなかった赤松氏の所領、播磨国竹万荘が赤松氏の播磨国支配に占める位置や、国人の地域に根ざした生業を総合的に解明する際に、かかる研究姿勢は有効な武器となっている。

 本書のタイトルには播磨国守護〈赤松氏〉と〈播磨の国人〉が掲げられてはいるが、その内容は彼らが織りなす狭義の政治史にとどまるものではない。右のような方法に裏打ちされて、どのように地域社会の中に根を下ろしているのかという観点から、政治的存在としての彼らの有りようが問われている。ここに本書の播磨国中世史研究の独自の意義がある。

 このような性格を本書が持ちえた理由は想像に難くない。地域の歴史博物館の学芸員としての日々の調査研究、展示企画の中で培かわれた成果を基礎として、本書が成り立っているからであろう。日常的に向き合う地域史の研究と学界で行われている最前線の議論とを結びつけるとともに、職務を通じて収集した地域の研究情報を広く公開する。これが本書を貫く基本的な姿勢なのである。

 広く本書が読まれることで、中世播磨国研究、ひいては日本中世史研究が前進することを心より期待する。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。