政治参加の近代
近代日本形成期の地域振興
徳竹 剛著


従来、日本における政治参加の発達史は、自由民権運動をはじめとする代議制の要求・発達と同義のようにとらえられてきた。しかし、本来政治へのアクセスは議会だけではなく、時代状況に応じて様々な方法が存在する。江戸時代後期の訴願や献策と同様に、行政官僚への働きかけや官民相互の協力も無視できない。地域振興運動を政治参加の歴史の中に位置づけ、議会制の成立過程とは異なる政治史の地平を切り開く。




■本書の構成


序 章
  本書の目的/安積郡郡山について/郡山の有力者に対する研究史的位置づけおよび本書の構成

第一部 府県会の開設と政治参加

第一章 明治初年における殖産興業政策と地域振興
  はじめに/幕末維新期の郡山/大槻原開墾運動への参加/おわりに

第二章 殖産興業政策の転換と地域振興
  はじめに/明治一〇年年代前半の大槻原開墾事業/明治一〇年代前半の郡山/おわりに

第三章 府県会の開設と地域振興 
―福島県庁移転運動を事例にー
  はじめに/県庁移転運動の開始/上京内願運動/明治一七年度福島県会/県庁移転運動の決着/おわりに


附論一 「県域」の形成過程 
―東蒲原郡の移管問題―
  はじめに/東蒲原郡について/福島県から新潟県へ/中央集権化と府県/おわりに


第二部 帝国議会の開設と政治参加

第四章 帝国議会の開設と地域 
―岩越線敷設運動を事例に―
  はじめに/会津地方の党派対立/北越地方への運動/岩越鉄道期成同盟連合会と私設計画の登場/第五議会に対する請願/第三回総選挙と岩越線問題/おわりに


第五章 岩越線の起点獲得運動 
―町場から地方都市へ―
  はじめに/郡山の運動/須賀川・本宮の動向/私設計画の登場と郡山・白河/起点の決定/おわりに


第六章 帝国議会開設後における鉄道敷設運動と地方官
  はじめに/岩越線私設計画の登場/日下案の本格化/岩越鉄道株式会社の創立に向けて/おわりに

附論二 岩越線の全通と会津
  はじめに/鉄道網の整備と会津地域/全通式の模様/岩越線全通に対する危惧/観光と鉄道/おわりに

終 章 本書のまとめと展望

  
初出一覧/あとがき



  ◎徳竹 剛(とくたけ つよし)……1980年、長野県生まれ 福島大学行政政策学類准教授 博士


ISBN978-4-7924-1489-4 C3021 (2021.3) A5判 上製本 240頁 本体6,300円

  
地域の視点から「政治参加の近代」を見直す

徳竹 剛  

 議会制民主主義は、西欧で生まれ幕末に日本に流入し、明治維新・文明開化を経て国内に広く浸透した。やがてそれは自由民権運動という大きなうねりとなり、憲法が発布され、衆議院議員選挙が実施されて、帝国議会が始まることとなる。男子に限られ、納税額による制限選挙ではあったものの、国民に政治参加の道が開かれていった。

 しかし、帝国議会の開設以前に日本の民衆が政治に参加できていなかったかというと、実はそうではない。すでに多くの近世史研究者によって指摘されているように、江戸時代の後期にもなると、訴願や献策といった方法で幕藩権力に対して政策提言が行われ、その実現が図られていたのである。被支配層による政治参加の歴史は、議会制の成立以前にさかのぼるのであって、自由民権運動や帝国議会の開設は、その出発点ではない。

 本書は、このような視点に立った上で、福島県郡山の地域振興を検討したものである。戊辰戦争の戦禍を受けた郡山は、大槻原開墾事業などの殖産興業政策の担い手となることを通じて頭角を現し、郡山の課題を政策的に解決しようと試みた。まだ帝国議会はおろか、府県会という地方議会も存在しなかったが、郡山の有力者は政治へのアクセスを試みていたのである。

 その後、府県会が開設され、帝国議会も始まると、議会対策という新たな政治的課題が登場することになる。福島県庁の移転運動や岩越鉄道の敷設運動など、議会を通じて郡山の要求を政策化しようと努力を重ねたが、いずれの問題も議会で可決できれば全てが解決するという問題ではなかったし、これらの運動には、県令・県知事や郡長などの地方官僚も深く関与していた。地域振興を実現する上で、政治的には何が課題となっていたのかということを明らかにしようとした時、その検討対象は議会制の枠を大きくはみ出しているのである。議会制民主主義の成立過程という文脈では捉えきれない郡山の地域振興運動を明らかにし、政治参加の歴史の中に位置づけていくことが本書の目的である。

 現在、議会制民主主義は、議会を軽視したり議論そのものを拒否したりする政権運営は論外としても、ポピュリズムや死票の問題、投票率の低下や議員のなり手不足など様々な問題を抱えている。一方で、議会の外での政治運動であるデモや集会、ロビー活動などが政治を左右することもあるし、近年では「保育園落ちた日本死ね」や「#Metoo」運動など、SNS上での小さな声が共感を得て増幅し、社会問題として顕在化し政治的課題として押し上げられることもある。本来、政治へのアクセスは議会だけではないのであって、それぞれの時代状況に応じて、様々な方法が存在するのである。本書は、日本において議会制が成立する前後の政治参加について明らかにしようとしたものであるが、そのことを通じて近代地方政治史の視野を拡げたいと考えている。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。