泊園書院の人びと
その七百二人
吾妻重二監修
横山俊一郎著


関西大学の源流の一つである泊園書院の門人略伝集。膨大な資料に埋もれていた門人たちの実像を明らかにする。




  
監修・吾妻重二 1956年茨城県生まれ 関西大学東西学術研究所所長・泊園記念会会長

  著者・横山俊一郎 1984年兵庫県生まれ 関西大学ポスト・ドクトラル・フェロー


  本書の関連書籍
  横山俊一郎著 泊園書院の明治維新


 ◎おしらせ◎
 『図書新聞』第3569号(2022年12月03日)に書評が掲載されました。『泊園書院に学んだ門人七〇二人の略歴を掲載した人物辞典――儒学の実践倫理が、近世の〈政策者〉から近代の〈企業家〉へと継承されたことを明らかに』 (評者 藪田貫氏)

 読売新聞地域版に本書の記事が掲載されました(2022年10月30日)
 江戸後期から戦後の私塾 「泊園書院」輩出、702人紹介


ISBN978-4-7924-1498-6 C0021 (2022.3) A5判 上製本 口絵6頁・本文406頁 本体8,700円

  
姿を現した 巨大な黄金の人材山脈

公益財団法人 関西・大阪21世紀協会顧問・一般社団法人 心学明誠舎理事長 堀井良殷  

 人類学・文明論の泰斗、故梅棹忠夫氏は大阪を商都と呼ぶことをひどく嫌った。江戸時代、大坂の懐徳堂は当時の世界でも第一級の学問所であり、大坂の芸術文化活動もすこぶる盛んであった。幕末には全国から学生が集まった適塾から近代日本創生を担う人材を輩出した、大阪は世界屈指の輝ける文化都市であり学問都市であった、というわけである。

 ところが今回、それに加えて新たに巨大な黄金の人材山脈が姿を現わした。関西大学に所蔵されている泊園文庫の膨大な資料のほか草の根を分けてあらゆる資料を発掘し蒐集した横山俊一郎氏の研究成果によって、驚くべき史実に光が当たることとなった。

 江戸後期から昭和前期までの激動の百二十年間大阪に存在した私塾、泊園書院は関西大学の源流であり、第二代院主の藤澤南岳は通天閣や愛珠幼稚園の命名者として知られているが、北は北海道から西は宮崎にいたるまで全国から参集していた大多数の門人たちの詳細については膨大な資料に埋もれたまま必ずしも定かではなかった。今回の横山氏と吾妻氏の丹念な研究調査によってその実像が浮かび上がってきたのである。門人の数、累計でなんと一万人余りに及んだという。瞠目すべきはここで学んだ門人たちの活躍分野の多様・多彩さである。政治家、官僚、裁判官、弁護士、実業家、起業家、教育研究者、文人芸術家、医師、技師、篤志家、社会事業家、宗教家などほとんど社会の職能すべてを網羅し、有名人が綺羅星の如くならぶ。彼らは泊園書院での学びによる人間形成を基礎に創造的活動を生涯かけて展開したのである。まさに泊園書院なくして近代日本は成立しなかったとさえ思わせる壮観である。ほかにも大坂には多くの学問所、私塾が林立し富裕商人や武士だけではなく、庶民や女性に至るまで多様な学びの場が提供され、識字率も当時の世界各国と較べてもはるかに高かった。

 石田梅岩が京都で始めた石門心学を学ぶ心学講舎は大坂はもちろん全国百八十か所に広がった。大阪の心学明誠舎は今もなお連綿二百三十七年の時を経て活動を続けている。実はその心学明誠舎を一時期支えたのも泊園書院の門人であった。

 調査で判明した門人七百二名を紹介する本書は多くの発見に充ちている。歴史を知るものは未来を知るという。正解のない混迷の時代、先人たちの足跡を辿る時、必ずやその人間力に触発され、勇気づけられることであろう。必読必携の書として推薦したい。


  
泊園書院が拓く世界

関西大学名誉教授・兵庫県立歴史博物館館長 藪田 貫  

 本書を前にして、かつて泊園記念会で横山俊一郎氏の報告を初めて聞いたときを思い出した。「視界が広がっていく」――そんな思いをしたのである。その思いは、のちにまとめられた『泊園書院の明治維新』(清文堂出版、二〇一八)を手に取ることで確信となったが、その理由は、著者の言葉を借りると「大阪の泊園書院は近代日本の工業化を支えた多くの実業家を輩出した漢学塾であるが、彼ら実業家との関わりを主題とした研究は見当たらない」ことにあった。

 それは、日本の近代化を漢学塾と実業家・企業家という二つの視点から見ていくことを提起した。「論語と算盤」は、ひとり渋沢栄一にとどまらないことを教えた。同じ頃、日本経済史の分野では「地方からの産業革命」が唱えられ、地方資産家、地方企業家、地方官僚・政治家といった経済主体の存在に関心が集まっていた。この二つの波が交差することで、近代史研究に新しい潮流が生まれることを期待したのである。

 この度の『泊園書院の人びと――その七百二人』では、三世四代の塾主に及ぶことから、登載された人物は七百二人、実業家・政治家・教育者・宗教者など多彩な分野に及んでいる。もはや経済史だけに限らない。一人一人の人物を通して、研究分野間の交流が進むことを願わずにはいられない。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。